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旅行・映画ライター前原利行の徒然日記

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ドキュメンタリー映画『悪魔とダニエル・ジョンストン』

前にも観たドキュメンタリー映画だが、昨日、レンタルでもう一度見直して面白かったのでここで紹介する。

ダニエル・ジョンストンはアメリカのシンガーソングライターだ。
僕もこの映画を観るまでまったく知らなかった。
生まれた年は1961年で僕と同じ。
キリスト教原理主義の家庭の末っ子として生まれた彼は、
小さいころから絵と音楽に熱中し、
八ミリカメラを手にすると自主映画も撮り始める。

小さい子供なら、何かに熱中している姿は微笑ましいが、
10代ともなればその姿はバランスを欠いているように周囲も思う。
やがて彼はロックに熱中。両親は悪魔の音楽とけなすが、
ピアノで自作曲をテープに録音し始める。

家を離れ、遠くの大学に通いだした彼だが、そこで最初の躁鬱症を発症。
やがて地元に戻り、マクドナルドでバイトしながら音楽活動を続けるダニエル。
活動といってもバンドやライブをするわけではなく、
ガレージでひたすら自作曲の自主制作テープを作るだけだ。
それもダビングを知らず(またはできず)、
オーダーがあればその曲順にいちいち歌を吹き込むといった具合。
しかしそんな彼のカセットは次第に地元のインディーズで話題を呼び、
MTVで取り上げられたころからメジャーへの入り口が見えてくる。

しかしそれと同時に、彼の精神は崩壊寸前にあった。
ニューヨークでソニックユースのメンバーらとのレコーディング中に
切れて、姿を消すダニエル。
悪魔の声が聞こえ、子供のころからの友だちの「キャスパー」と話をし、キリストに助けを求める。
精神病院に入院した彼に、再び脚光が当たったのは、
ニルヴァーナのヴォーカルのカート・コベィンが、
ダニエルのイラスト入りのTシャツを気に入り、たびたび着ていたからだ。
目玉がヒョロリとのびたそのヘタウマなイラストは、どこか人の気をひきつけるものがあった。
入院中のダニエルに、大手メジャーレコード会社から契約の打診がくる。
人生における彼の最大のチャンスだったが、彼はまだ完治していなかった。
やがて彼は退院して、人前に立ち、歌を歌うようになるが…。

彼を見ていて、ビーチ・ボーイズのリーダーのブライアン・ウィルソンを思い出した。
実際、ユーモアに満ちて良くできたこのドキュメンタリーは、
ブライアン・ウィルソンのドキュメンタリー風パロディにも思える。
ビーチ・ボーイズのリーダーであり、作曲からスタジオワークを仕切っていたブライアンは、
コンサートツアー中の飛行機の中で、突然おかしくなってしまう。
以降、彼はツアーに参加せず、スタジオワークに専念するが、妄想はどんどん悪化し、
『ペット・サウンズ』のような傑作アルバムを作るが、
ドラッグ漬けの日々で人生の多くを無駄にする。
大人だが、少年のようにか細いブライアンの歌声は、ダニエルにも通じる。

ダニエル・ジョンストンの歌は正直言ってうまくない。技術的にはきっと下手な部類だ。
彼の歌に伴奏をつけるピアノやギターも、いつもチューニングやリズムが狂っている。
プレイだって、まちがっても気にしない。
しかしその歌声に、人をひきつける魅力があるのは確かだ。
ちゃんと聴いていないと、いつのまにか消え入ってしまうそうな、か細い声だが、
技術はなくても表現力に満ちている。

アーティストを目指した一人の感受性豊かな男が、
精神のバランスを壊していく姿を、多くの証言と本人が残した膨大なカセットテープや八ミリなどで構成したこのドキュメンタリーを、
貫くのはユーモアだ。
彼を悲劇の人として描き、また、家族の犠牲に焦点を当てた悲しいドキュメンタリーにすることもできたろう。
しかし、彼に散々な面にあった人々でも、そのコメントのトーンは全体的に明るい。
それは彼がまだ生きていることもあるが、また彼の才能をみな愛しているからだろう。
時には手をつけられない、大人の姿をした子供。
それがダニエル・ジョンストンなのだ。
そして彼の半生を見終わったとき、それが他人事ではないことを感じる。
彼は自分の中の一部が、純粋培養されて大きくなった姿かもしれないからだ。

たぶんあと半年もしたらTUTAYAの店頭から姿を消すから(回転が悪い作品は棚から下げられる)、
見かけたらすぐ借りて見るべし。
その価値は十分あるだろう。
目玉がヒョロリと延びたカエルのイラストがジャケットだ。
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by mahaera | 2008-11-04 09:54 | 映画のはなし | Comments(0)
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