今日はいろいろ思うように行かなく、予定が狂ってしまい、夜10時からケーブルテレビでやっていた『探偵物語』を観出す。
とくに観たかったわけではない。公開当時、劇場で見たが、それほど面白かった印象もない。
テレビをつけていたら始まったので、つまらなかったら途中でやめようぐらいの感じで観だしたのだ。
もちろん細かいストーリーは忘れている。
まず主演は、当時人気の絶頂だった薬師丸ひろ子。
あの時代、十代じゃなかったらわからないかもしれないが、薬師丸ひろ子の人気は、今の蒼井優と宮崎葵を足したよりもあった。
まず、薬師丸ひろ子はテレビドラマに出なかった。角川の戦略で、角川が発掘した女優は「映画女優」として出し惜しみされたのだ。
今からみれば、「なんでこんな美人でもない子がそんなに人気があったわけ?」と思うだろう。
当時でも、決して美人タイプではなかったと思う。それに演技もうまいわけでもない。
しかし、売れた。彼女の映画が面白かったわけではない。
デビュー作『野生の証明』は駄作だし、相米慎二監督の『翔んだカップル』はハイブロウで漫画ファンの予想を裏切ったし、大林監督の『狙われた学園』は現在も語り継がれるトンデモ映画、『セーラー服と機関銃』もいまひとつの出来。彼女の演技力がアップし、質のいい作品に出会うのは『Wの悲劇』からだが、そのころにはすでに角川の看板スターは、原田知世だった。
さて、この『探偵物語』、今、あらためて見直すと、やはり傑作、名作の類には程遠いが、当時感じたのとは違った見方ができた。
この映画が公開されたころは、僕は主人公の設定と同じ大学生。だから目線も主人公の薬師丸ひろ子とほぼ同じだったのだろう。今見ると、これはある種の『ブルーベルベット』だ。汚れを知らない、健全な世界に住んでいる主人公が、セックスがうごめく闇の世界に入っていく話だ。
主人公のひろ子は、金持ちのお嬢さん。大学に行っているが、あと数日で父のいるアメリカへと旅たたねばならない。母はおらず、家政婦と2人ぐらし。明るく装うが、孤独を抱えて生きている。男性に対しては消極的で、彼氏はおらず、もちろん処女。しかし、子供っぽい自分を卒業したく、彼氏も欲しいしバージンもできれば好きな人にささげたいと思っている。
大学の憧れの先輩とデートし、ベッドに誘われるひろ子。期待と不安の中、ロストバージンかと思いきや、、、
部屋に彼女の叔父と名乗る男が登場。先輩を追い払う。
この男が松田優作。実は彼女の尾行とガードを頼まれていた探偵だ。
金持ちの親が、娘のことを心配してつけていたのだ。しかし娘にとって余計なお世話。
今度は興味本位で、彼女が探偵の後をつける。
しかしある殺人事件がおき、探偵も彼女も事件に巻き込まれていく。
ヤクザの組長の息子を殺したと疑いをかけられているのは、探偵の元妻。
探偵にとっては必死だが、お嬢さんにとっては好奇心をそられる事件だ。
それに大学の友だちは自分と同じ子ども。大人の世界に興味津々なのだ。
そこは男女の不倫や色恋、セックスがうずまく世界で、嫌悪しながらもひろ子は自分の好奇心がそれに勝ってしまう。
やがて彼女は探偵の優作を好きになっていく。
殺された組長の息子の嫁と、組長の部下が愛し合っていることを示すテープをダビングしているうちに、もやもやとしてしまったひろ子だが、かくまっている優作とその元妻への部屋に行くと、中から元妻のあえぎ声が。
いたたまれなくなったひろ子は、行きずりの男とラブホテルへ。殺人のあったホテルで、殺害のトリックを知る。
ひろ子はもちろん処女のままだが、事件が解決したあと、軽率な行動をとったと優作は怒る。
ひろ子は「あなたのことが好きだが、あなたは別な人としてた」という。
いちおう推理はあるが、それは他愛のないもの。何しろ原作は赤川次郎だから深みはない。
それを脚本の鎌田敏夫は骨組みを活かし、セックスやセックスをする大人の世界に憧れを抱く女の子の話にした。もちろん、金持ちで苦労知らずのお嬢さんだから、軽率だ。同じ大学生でも、殺人を犯す憧れの先輩の彼女のほうが、もうセックスを知る大人の世界に入っている。彼女はたぶん売春をして学費の足しにしたり、彼氏にプレゼントをしているのだから。
今回、見ていて思ったのが、僕が年食ったせいで、完全にひろ子が娘のようにしか見えないこと。
汚れた世界を知っている優作が、ひろ子をなるべく事件にかませたくないのがよくわかる。
セックスはいつか好きな相手が現れれば、自然に経験すること。
好奇心でそんな軽くするもんじゃない。
そして一度知ってしまえば、セックスに対する憧れのマジックは消え去ってしまう。永久に。
だから、急いで大人にならなくてもいい。あせらなくても、それは自然に来るものだから。
それが本当のテーマだと、今回、気づいた。
結局、ひろ子はアメリカに旅立ち、優作とはキスだけで別れる。
先送りされたが、そんなにあせらなくていいよ、という大人の目線だ。
残念なのは、ひろ子に演技力がないのか、アイドル映画だからか、大人のダークな世界を見たときのひろ子の拒否反応とか、葛藤が欲しかった。なんか、知らなかった世界を知ったわりには驚いていないというか、ものおじしていないというか。お嬢さんだからか?
80年代、バブルに突入している浮かれた日本の雰囲気をかもし出す、加藤和彦の安っぽいムードミュージックが、まさにあの時代の空気感を出している。
なんとなく、最後まで見てしまった。今月いっぱい、日本映画チャンネルでやってます。