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旅行・映画ライター前原利行の徒然日記

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ドキュメンタリー 『ビルマVJ 消された革命』を観る

先日、試写で『ビルマVJ 消された革命』というドキュメンタリーを観た。

VJとはビデオジャーナリストのこと。
これは2007年9月にビルマで起きた民主化を要求する
大規模な反政府デモの様子を映像に収めたVJたちを通し、
ビルマの現状を広く知ってもらおうというドキュメンタリーだ。

ガイドブックの取材で、僕は何度かビルマ(ミャンマー)を訪れている。
ご存知かと思うが、この国はここ何十年か軍によって支配されており、
言論や報道の自由は一切ない。選挙によって選ばれた政党は、
軍によって活動を禁止され、アウンサンスーチー氏は自宅軟禁されている。
秘密警察が市民の間を行き来し、不要な発言をした者を投獄している。

この国を旅していて、独裁国家という感じがしないのは、
独裁国家にありがちな個人崇拝がないためだろう。
たいていの独裁国家では、国家元首の個人崇拝を高め、
国中に個人の肖像をばら撒くが、ここビルマではそんなことはない。
軍人のトップが誰であるかはみな知っているが、
彼は決して表には出てこない。裏で人々を操っているのだ。
それに特別変わった思想があるわけではない。
何かを実現させるために独裁国家を作ったわけではない点が、
共産主義国家やナチスと異なる。

それに旅もほぼ自由にできる。
ふつうの観光旅行をするだけなら、とくに旅に制約はない。
だから旅行者の間では「自由に旅行できる北朝鮮」とも言われている。

とは言え、政治の話はご法度だ。
不自由を感じるのは、インターネットが厳しく制限されていること。
まず、hotmailなどのフリーメールは使用できない
見られないサイトも多い。
テレビや新聞のニュースはすべて政府系なので、
本当のことを伝えているのは外国のメディアになる。
しかしそんなものは政府としては知られたくない。
だから中国のように厳しく制限をかけているのだ。

で、話は戻る。
反政府デモのきっかけは、ガソリン代の値上げだ。
ガソリンの値段は政府が決めており、また一人当たりの配給量は決まっている。
それが一気に二倍の値上げになった。
ガソリン代が上がれば、輸送コストも倍になり、すべての物の値段が上がる。
バス代も二倍。気分的には給料半減だ。

それにこの国では、長い軍政に対する不満がくすぶっていた。
最後の大きなデモが19年間前というから、
若い世代は生まれた気から自由な空気というものを知らない。
いつの時代だって、若者は変革が好きだ。
街頭で行われたデモを当初軍事政権は慎重に見ていた。
そんなことは若者の人生において今まで一度もなかった。
僧侶たちも立ち上がった。初めて本当の「空気」を吸った感じだ。

この『ビルマVJ消された革命』は、その大規模なデモの雰囲気を、
匿名のビデオジャーナリストたちが捕らえた映像を通して私たちに伝えてくれる。
彼らは捕まれば当然、投獄される。
しかもこの国では、殺されないまでにせよ無期懲役だってありうる。

日本人ジャーナリスト、長井さんが射殺される瞬間も、
彼らのカメラによって捕らえられている。
あの映像は日本でも何度もニュースで流れたから、覚えている方も多いだろう。
逃げようとする長井さんを、至近距離で狙い撃ちする兵士。
ビデオカメラを持って倒れる長井さん。
「事故」という軍事政権の主張は、この映像によって崩れた。
国家による殺人だが、日本政府は今回のタイの事件でも及び腰だ。
せっかく政権が変わったのに。

それは何度見ても心が凍るような映像だった。
僕が家庭を持っているせいだろう。
長井さんの死を「ヒーローの死」ではなく、
妻も子もいる「家庭人の死」として感じてしまう。
家庭人の命を簡単に奪ってまで、
守るほどの価値があるんだろうか。軍事政権。

こんなことを書くと、もう僕はビルマ(ミャンマー)に入国できないかもしれない。
毎日、担当者が検索して反政府的な発言をする日本人も調べているはずだから。
僕が次にビザの申請に行ったときに、申請をはねられるかもしれない。
「あなたの名前はブラックリストに載っている」と。

僕は運動家でも政治活動家でもない。
家族を持つただの家庭人なら、誰しも思うことをここに書いただけだ。
署名運動も抗議運動もしない。
ただ思っていることを、書いただけだ。

※『ビルマVJ消された革命』は5月15日から
渋谷シアターイメージフォーラムにて公開されます。
公式HP/www.burmavj.jp
ちなみに観に行かれる際には、入口にビルマ秘密警察の人間がいるか要チェック!
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by mahaera | 2010-04-17 12:18 | 映画のはなし | Comments(1)
Commented by やまなか at 2010-04-19 19:25 x
久しぶりに映画の話題ですね。ビルマのことではないですが、

『キャピタリズム マネーは踊る』で来日したマイケル・ムーア監督が「僕の映画は話題になっても、結局なにも変わらないことに少々疲れたんだ」といってことや、

『めぐみ 引き裂かれた家族の30年』で横田夫妻が
「私たちはただ娘が戻ってくるのを待つことしかできないのです」とおっしゃっていたことを思い出しました。

センセーショナルな問いかけも、一市民の静かな祈りも
「その時」が来るまでは無力なのでしょうかね。

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