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旅行・映画ライター前原利行の徒然日記

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新作映画評『リッキーRICKY』前半

2009年/フランス、イタリア
監督:フランソワ・オゾン
出演:アレクサンドラ・ラミー、セルジ・ロペス、メリュジーヌ・マヤンス
配給:アルシネテラン
Bunkamuraル・シネマにて公開中

すでに公開中だが、意外な拾い物のフランス映画を紹介する。

監督は『まぼろし』や『スイミングプール』、
『8人の女たち』のフランソワ・オゾン。
シリアスな人間描写から、軽いタッチのものまで、
幅広く演出できる力量を持ち、
コンスタントに作品を発表してくれこともあり、
現在のフランスを代表する映画監督といってまちがいないだろう。

郊外の団地に、小さな娘と暮らすシングルマザーのカティがいる。
娘は10歳くらいで、父親を知らない。
カティは娘をバイクで学校に送ったあと工場へ行き、
流れ作業の単純労働に従事。単調な生活をしている。
休みの日の朝はヘトヘトで起き上がれない。
生活は苦しそうで、住んでいるのも低所得者向けの団地のようだ。
そんな彼女が、ある日工場に新しく入ってきた
スペイン人の工員のパコに出会う。
たちまち2人は恋に落ち、やがて2人の間に赤ちゃんが誕生する。
突然、家に住み始めた、見知らぬ男に、小さな娘はとまどう。
赤ちゃんはリッキーと名づけられ、
家族として絆が深まっていくかに見えた。
カティとパコは同じ工場で昼夜逆転したシフトで働く毎日。
そんなある日、カティはリッキーの背中に赤い痣を見つけた。
それをパコの虐待と思い込み、パコをののしるカティ。
生活にも疲れ、カッとなったパコは家を出て行ってしまう。
ところが痣はどんどん大きくなり、そこから羽が生えてきた…

宣伝では“羽の生えた赤ちゃん”ばかりが
クローズアップされているが、映画の中では、赤ちゃんが生まれ、
羽が生えてくるのは中盤のことだ。
それまではふつうのドラマのように、
貧しいシングルマザーの生活やその恋が、
リアリティを持って語られていく。
主人公のカティもパコも美男美女ではなく、欠点もあり、
一般的な映画ならあきらかに脇役といった存在だ。

赤ちゃんに羽が生えてきても、母親のカティは驚きこそすれ、
ふつうの子どもと同じような愛情を注ぐ。
やがて、子どもは羽ばたく練習を始め、
部屋の中を飛び回るようになる。
そして、赤ちゃんが飛べることが周囲に知られるようになり、
ニュースを知り、パコが戻ってくる。
疑いが晴れて単純に戻ってきたともとれるが、
赤ちゃんがニュースの話題になり、
これが貧しさからの脱出の糸口になると考えているともとれる。
おそらく両方だろう。
しかし医師は、翼を“障害”と診断し、
切断しないとリッキーの命に関わってくると警告する。

話を書き出すと楽しいファンタジーのようだが、見た感じは違う。
“翼を持った赤ちゃん”は、私たちにもっと複雑で
さまざまなイメージを与えてくれるからだ。
初めて部屋の中で羽ばたいて、大人たちがおろおろしながらも
微笑むのは、初めて赤ちゃんが立ち、
よちよち歩きを見ているのと変わりない。
親は子どもの成長を喜ぶと共に、
やがて子どもが巣立っていくのを感じ、さびしい気持ちになる。
すべての親にとって、自分の子どもには羽が生えている。

(続く)
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by mahaera | 2010-11-29 12:52 | 映画のはなし | Comments(0)
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