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旅行・映画ライター前原利行の徒然日記

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新作映画レビュー『バビロンの陽光』 フセイン政権下で行方不明になった父を探す少年

バビロンの陽光
Son of Babylon
2010年/イラク、イギリス、フランス、オランダ、パレスチナ、UAE、エジプト


監督:モハメド・アルダラジー
出演:ヤッセル・タリーブ、シャーザード・フセイン、バシール・アルマジド
配給:トランスフォーマー
公開:6月4日よりシネスイッチ銀座ほかにて公開
上映時間:90分
公式HP:www.babylon-movie.com


2003年、フセイン政権の崩壊から3週間後のイラクのクルド人地区。
荒涼とした大地を行く、少年アーメッドとその祖母の姿があった。
どれくらい歩いたのだろう。道路に出た2人はトラックを止め、
500ディナールを運転手に渡し、バグダッドへ連れて行ってもらう。
バグダッドのナシリヤ行きのバスが出るターミナルで、
アーメッドはクルド語しかできない祖母に代わり、
アラビア語でバスの情報を得る。待ち時間の間、
祖母は手紙を取り出し、「もう何回も読んだよ」とうんざりする
アーメッドに手紙を読ませる。それは1991年の湾岸戦争時に
アーメッドの父イブラヒムに命を救われた友人からで、
イブラヒムがナシリヤ刑務所にいることを知らせるものだった。
ようやく2人が着いたナシリヤ刑務所は瓦礫の山で、
身内を探す人々でいっぱいだった。
「ここにはいない。近くで集団墓地が見つかったから、
そこへ行けばいい」。

2人は墓地を目指す。そして…。

どうもアメリカが強引にイラクを占領したことに対する反感や、
フセイン政権崩壊後の宗派対立による治安の悪化などの反動で、
サダム・フセイン政権時代のほうがまだ良かったのではないか
と思わせるマスコミの風潮がある。
しかしこの映画は、現在のイラクの治安の悪化はともかく、
サダム・フセイン時代にどれだけ多くの人々が、
圧制の犠牲になったかを思い出させてくれる。

映画は荒涼とした大地を行く、少年と祖母の姿から始まる
2人がいるのはイラクの北部。
これから南部の都市ナシリヤまで行くのだ。
イラクはまだ戦争の余波が残り、アメリカ軍の姿も見える。
バグダッドに着き、とたんに言葉が通じなくなってしまう祖母。
外国人である私たちは、ようやくここで
彼らがイラクでは少数派のクルド人であることに気づく。
ナシリヤ行きのバスは刑務所へ行く人たちでいっぱいだ。
家族を刑務所に送られた彼らは、少年の祖母と同様、
みなこの日(フセイン政権崩壊)を待っていたのだ。

映画の前半は、刑務所までの道のりを、
ロードムービーのように見せてくれる。

強欲そうな運転手がいい人だったり、
バスに祖母が乗りそこなってハラハラさせたり。
しかし、いざ刑務所に着いてみると、
そこに少年の父イブラヒムの姿はなかった。
それどころか、多くの人々の姿もない。みな殺されていたのだ
刑務所といっても、ここは一般犯罪者よりも、
政治犯が多く収容されていたのだろう。密かに処刑された人々は、
人知れず集団墓地に埋葬されていた酷さ。
それまで少年と祖母の2人の物語だったところに、
後半、ひとりの男性が加わる。親切な彼だが、かつて彼が
フセイン政権下で行われた虐殺に兵士として参加していた。
「強制されてしたことで後悔している」と言う男性。
彼を慕う少年だが、祖母は「殺人者」とののしる。
辛い体験をずいぶんしたのだろう。

集団墓地から墓地へ。
イブラヒムの生存の望みを絶たれた後の2人の旅は辛い。
映画はわずか90分だが、私たちは少年と同じく、
最初にいたところとはとてつもなく遠い、“どこか”に
来てしまったことに気づく。

私たちもいつのまにか旅の同伴者となっていたのだ。
地味な映画だが、強く印象に残る作品だ。
(★★★☆)

旅行人のWEB「旅シネ」に寄稿したものを転載しました。
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by mahaera | 2011-06-02 01:19 | 映画のはなし | Comments(0)
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