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旅行・映画ライター前原利行の徒然日記

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新作映画レビュー『いのちの子ども』 ガザからイスラエルへ運ばれた赤ん坊を救うため奔走する人々

いのちの子ども
2010年/アメリカ、イスラエル

監督:シュロミー・エルダール
配給:スターサンズ
公開:7月16日よりヒューマントラストシネマ有楽町にて
上映時間:90分
公式HP:www.inochinokodomo.com

 
紛争が絶えないイスラエルとパレスチナ。
封鎖されたガザ地区からテル・アビブ郊外の病院に、
免疫不全症ですぐに骨髄移植が必要な4ヵ月半の赤ん坊
ムハンマドが運び込まれた。テレビ記者のエルダールは、
そこに勤務するイスラエル人医師ソメフに協力を頼まれ、
テレビで寄付を呼びかける。
やがて匿名を条件に寄付があり、手術は成功する。
しかしエルダールは、「息子のムハンマドがエルサレムのためなら
殉教者になってもいい」という子どもの母親ラーイダの言葉に
激しく落胆し、動揺する。
 
重い障害を抱えた子どもを救うため、敵味方が協力し合う美談
というドキュメンタリーを想像していると、
途中でその思いはあっさり打ち砕かれる。
自分が所属している集団を無視して、中立でいられはしない
そんな現実をこのドキュメンタリーは突きつける。

助かった子どもの母親に、本作の作り手である監督が
何気なく発したこと。
そこから激しい口論になり、監督も観客も落胆する。
せっかく命を助けた子どもなのに、
母親が「殉教者にしてもいい」と言う。
子どもを将来テロリストにしてもいいのか、
それこそ恩を仇で返すのか、
こんな母親なら助けなきゃ良かったという気分に誰もがなるのだ。
しかし、その後、少しずつこの母親の苦しみがわかってくる。
彼女は彼女で、子どもの命を救うとはいえ、
イスラエル人の助けを借りたことで、
同胞であるパレスチナ人から中傷されていたのだ。
きっとイスラエルの病院に子どもを連れて行ったこと自体、
苦渋の決断だったのだろう。
ネットでの誹謗や中傷。疲れきった母親は、
パレスチナに、より忠誠を示さなければならなかったのだ。

そして命を救う人々がいる一方、簡単に人々の命を奪う者もいる
イスラエル軍の無差別な報復攻撃。
イスラエルの病院で働く医師の家族も爆撃で命を落とす。
人の命を救うのは大変だが、奪うのは一瞬だ。
医師たちは敵味方関係なく命を救おうとしているのに
そして再び妊娠する母親ラーイダ。
同じ免疫系の病気で以前に2人の子どもを亡くしているのに、
また子どもを作ることへの疑問を持つ監督(と私たち)。
そうした葛藤を幾度となく繰り返し、乗り越え、
理解(信頼というほうが正しいかも)していく。
きれいごとではなく、そんな傷つきながらの信頼というものを、
このドキュメンタリーは示してくれた。
そして我々の“人道的な思い”とやらが、
失望でいとも簡単に覆されるという偽善も。

(★★★☆)

旅行人のWEBサイト「旅シネ」に寄稿したものを転載しました。
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by mahaera | 2011-07-16 01:30 | 映画のはなし | Comments(0)
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