ブログトップ

旅行・映画ライター前原利行の徒然日記

mahaera.exblog.jp

新作映画レビュー『ミラル』 女性たちの姿を通してつづる、激動のパレスチナ現代史

ミラル
Miral
2010年/フランス、イスラエル、イタリア、インド

監督:ジュリアン・シュナーベル(『潜水服は蝶の夢を見る』『バスキア』)
出演:フリーダ・ピント(『スラムドッグ$ミリオネア』)、ヒアム・アッバス(『シリアの花嫁』『パラダイス・ナウ』)、ウィレム・デフォー(『アンチクライスト』)、ヴァネッサ・レッドグレイヴ(『ジュリア』)

配給:ユーロスペース
公開:8月6日ユーロスペースにて
上映時間:112分
公式HP:www.miral.jp


1948年、イスラエル建国に伴う戦火の中、親兄弟を殺された
多くの子どもたちに出合った地元の名士の娘であるヒンドゥは、
私財を注ぎ込み「ダール・エッティフル(子どもの家)」を設立する。
その後も親を失った子どもたちは増え続けた。
一方、継父から性的虐待を受けて家を飛び足したナディアは、
トラブルから刑務所へ。そこで知り合った同房のファーティマは、
爆弾テロを試みて収監された女性だった。
やがて、刑期を終えたナディアは、ファーティマの兄の
ジャマールと結婚。ミラルが生まれるが、
ナディアは心の傷が癒えぬまま、海に身を投じる。
母を失ったミラルは、ダール・エッティフルに預けられ、
ヒンドゥが母親代わりとなる。
1987年、17歳になったミラルはイスラエル軍の暴虐を目にし、
パレスチナ人の蜂起に参加するが、
それはヒンドゥの望むことではなかった。
 
現代美術のアーティストでもあるジュリアン・シュナーベル
寡作だが、映画監督としても評価されている。
凝った映像を見せてくれるが、CGや特殊効果ではなく、
あくまでその感性から来る映像効果が特徴だ。
さて、その彼の新作は、意外にもパレスチナを舞台にしたもの。
原作はこの映画の舞台となる「ダール・エッティフル」出身の
女性ジャーナリストのルーラ・ジブリールによるもので、
後半の主人公となるミラルはその彼女の投影のようだ
(写真を見る限り顔も似ている)。
映画はヒンドゥ、ナディア、ファーティマ、そしてミラルという
各時代を生きた4 人の女性の姿を通し、
パレスチナのたどった歴史を描いていく


映画の冒頭は、イスラエル独立以前のパレスチナで、
イスラム教徒、ユダヤ教徒、キリスト教徒が共にクリスマスを
ヒンドゥの家で祝うシーンから始まる。
それまでの長い間、時には宗教勢力による諍いはあったが、
この地では各教徒が折り合いをつけて、
それなりに安定して暮らしていたのだ。
ところがイスラエル建国がそれを一変させる。
ユダヤ教による国家は、他の宗教を認めない。
その数年前にヨーロッパでナチスにより
ジェノサイドを受けた人たちが、今度はパレスチナ人を
虐殺していく。当然、そこで戦いが起きるのだが、
ヒンドゥはそうした争いからあえて身を引いて、
「教育」に身を投じる。いつか「教育」が役に立つ日が来る。
そうした人材を育成するのが、自分の役目と感じたのだろう。

しかし、誰もが彼女のようには生きられない。
ミラルの母親、ナディアは継父に性的虐待を受けた過去から
逃れることはできなかった。
彼女はイスラエルに土地を奪われたパレスチナの象徴でもある。
彼女は反イスラエルの運動にも加わらなかったが、
宗教(夫)も未来(子供)も彼女を救うことができなかった。
もうひとりの女性ファーティマは、イスラエルへの怒りから
テロリズムに参加していく。
そしてミラルも、イスラエルへの暴虐を目にし、
抵抗運動に接近していく。しかし、過激な政治活動は、
それまで政治的な組織の支援を受けずにやってきた
ヒンドゥの考えではない。インティファーダに参加した友人は死に、
恋人の活動家はやがて仲間に粛清されてしまう。

「平和は力だけによってもたらされるものではない」。
ミラルは時間がかかるが“教育”であるというヒンドゥの思想に立ち返っていくのだ。
映画は、オスロ合意、そして1994年のヒンドゥの葬儀で終わる。
今から思えば、あの年がパレスチナにとって
もっとも希望に満ちた年だったのだろう。
僕は1996年の春にイスラエル、そしてパレスチナに行った。
そのころは今のように、そうした背景を知ることもなかったが、
テロが収まっていたので、移動するのが容易だったのだ。
現在、和平は遠のいている。
しかし武力による解決は行き詰るだろう。
その時こそ、教育を受けたかつての子どもたちが必要なのだ
(★★★)
 
タイトルロールのミラルを、『スラムドッグ$ミリオネア』のヒロイン、ラティカ役でインドから羽ばたいたフリーダ・ピントがまばゆいばかりに演じている。彼女に今後も注目したい。

旅行人のウエブサイト「旅シネ」に寄稿したものを転載しました。
[PR]
by mahaera | 2011-08-10 09:57 | 映画のはなし | Comments(0)
<< 夏、暑い、家、外で仕事 西荻窪のライブバー w. ja... >>