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旅行・映画ライター前原利行の徒然日記

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新作映画レビュー『未来を生きる君たちへ』  世界にあふれる暴力について問う力作

未来を生きる君たちへ
In a Better World
2010年/デンマーク、スウェーデン

監督:スサンネ・ビア(『しあわせな孤独』『悲しみが乾くまで』)
出演:ミカエル・パーシュブラント、トリーネ・ディアホルム、ウルリッヒ・トムセン(『ザ・バンク落ちた巨像』)

配給:ロングライド
公開:8月13日よりTOHOシネマズシャンテ、新宿武蔵野館、シネマライズにて
上映時間:118分
公式HP:www.mirai-ikiru.jp

 
デンマークに家を持つ医師のアントンは、赴任先のアフリカで、
妊婦の腹を切り裂く悪党“ビッグマン”の犠牲者を治療し、
言いようのない心を痛めていた。
一方、母を亡くしたばかりの少年クリスチャンは、
新しい学校でイジメを受けている少年エリアスと出会う。
エリアスはアントンの息子で、今は母と幼い弟と暮らしているが、
別居している父アントンを慕っていた。
学校でエリアスをいじめていた少年をクリスチャンは殴り倒し、
ナイフで脅すが、問題になり親が呼び出されることに。
それがきっかけでクリスチャンとエリアスの2人は
逆に親密さを増していく。
暴力に暴力で仕返しをすることの無意味を説くアントンだが、
クリスチャンは納得がいかない。再びアフリカに戻ったアントンの元へ、またもビッグマンの被害者が運ばれてくる。
そして、今度は怪我をしたビッグマンが患者として運ばれてくる…。
 
言いようのない暴力が、世界に渦巻いている
暴力を目にしたとき、暴力的なものを知ったとき、
自らの暴力的な部分がうずくのを感じる
世界で起きている紛争やテロ、そして戦争の基本的な部分は、
子供たちの間で起きている問題と同じだ。
執拗なイジメ、仕返し。
いじめられた者は怒りを溜め込み、ある日それが爆発する
ホロコーストを経験したユダヤ人が、
今度はパレスチナ人を虫けらのように虐殺する。
そんなドキュメンタリーをたくさん見てきた。やりきれない。

報復は報復を生むだけ」と大人たちは子供に諭す。しかし本当は
やり返さなかったらいつまでもイジめられっ放しだ」と、
子供は大人の偽善を見抜いている。
本作では、転校が多い少年のクリスチャンが
「最初になめられてはいけない」とエリアス少年にいう。
では暴力には暴力で対抗するしかないのか? 
しかし誰もがやり返せる訳ではない。
父親は息子に暴力に取り合わないことを教えるが、
父親自身もまたそれが「きれいごとである」と感じているし、
イジメを受けている息子をすぐに救うこともできない
殴られたら、大人だって相手を殴り返したい。
しかし、それが自分の子供の前だったら? 
自分の子供の前で自分が暴力を振るうことができるのだろうか

そんなジレンマを見事に映画化したのが本作だ。
ジレンマをジレンマのまま描いているが、
最後にはかすかな希望が見えている。
暴力にさらされた世界へ子供たちを送り出さなければならない、
すべての親たちへ向けた秀作だ。

子を持つ親として、また自分がどう振舞わなければならないのか、
思い悩む自分にピッタリの作品。
まちがいなく今年のマイ・ベストテン入りの作品だ。

本年度アカデミー賞外国語映画賞受賞作品
(★★★★)

旅行人のWEBサイト「旅シネ」に寄稿したものを転載しました。
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by mahaera | 2011-08-12 19:51 | 映画のはなし | Comments(0)
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