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旅行・映画ライター前原利行の徒然日記

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最新映画レビュー『孤島の王』  少年たちの面構えがいい。そして今年の心に残る一本

孤島の王
Kongen Av Bastoy
2012年/ノルウェー、フランス、スウェーデン、ポーランド

監督:マリウス・ホルスト
出演:ステラン・スカルスガルド(『奇跡の海』『ドラゴン・タトゥーの女』)、ベンヤミン・ヘールスター、クリストッフェル・ヨーネル
配給:アルシネテラン
公開:ヒューマントラストシネマ有楽町にて公開中
上映時間:117分
公式HP:www.alcine-terran.com/kotou/


1915年、ノルウェーのバストイ島に
元船乗りの少年エーリングが送還されてきた。
この孤島は非行少年の矯正施設で、
そこでは院長の厳格な指導のもと、
過酷な環境下で少年たちが暮らしていた。
最初から反抗的なエーリングのお目付け役に、
卒院が近い模範生のオーラヴが命じられる
。しかしエーリングは、そんなオーラヴにお構いなしに
着々と脱走の準備を始める。オーラヴもかつては脱走を試みたが、
今ではあきらめて施設の規則に従っていた。
性格も考え方も異なる2人だが、次第に心を通わせるようになっていく。
そしてエーリングは脱走するが…。

物語の中心はエーリングだが、その語り手となるのは
それを見守り、やがて行動を共にするようになるオーラヴだ。
脱走に失敗してもあきらめず、不正や権力に屈しない
エーリングの姿に、模範生のオーラヴ、
彼を最初は敵対視していた粗暴な少年オイスタインもひかれていく。
初秋から冬にかけての過酷な島の景色がいい。
ここではすべてが絶望に包まれているように見える。
そんな中、エーリングがオーラヴに繰り返し語る鯨の話がある。
銛を3つも打ち込まれながら、船と乗組員を翻弄する大きな鯨。
規律で少年たちを従わせようとする院長や看守たちに、
立ち向かうエーリングが、この鯨だ。
その姿は『大脱走』の脱獄王ヒルツのようでもあり、
また『暴力脱獄』の主人公ルークも連想させる。

脇役にいたるまで、出てくる少年たちのまなざしがすばらしい
内なる怒りを宿し、時には大人の偽善を見抜く目
よくもここまでいい面構えの少年たちを集めてきた。
日本で映画化しても、こんな面構えの少年たちはもういないだろう。
最初は規律を重んじていた院長も、
現実の前に規律を曲げ、そしてそれが悲劇を生む。
少年たちの忍耐が頂点に達したとき、思いもかけない反乱が起こる。
本作は反抗し、敗北していく少年たちの悲劇かもしれないが、
鑑賞後の後味は悪くない。重苦しいだけの作品ではなく、
友情や希望も盛り込まれ、自由を勝ち取ったような気分にさせてくれる。
鯨はその命を終える前に、船乗りや船長を飲み込んでいったのだ。
おすすめの映画だ。
(★★★★)

by mahaera | 2012-05-03 12:14 | 映画のはなし | Comments(0)
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