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旅行・映画ライター前原利行の徒然日記

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最新映画レビュー『イラン式料理本』 キッチンからイラン社会の“今”が浮かび上がってくる

イラン式料理本
Iranian Cookbook
2010年/イラン

監督・脚本・製作:モハマド・シルワーニ
出演:配給:アニープラネット
公開:9月15日より岩波ホール
上映時間:72分
公式HP:www.iranshiki.com


基本的には、キッチンに据え置かれたカメラの前で、
女性たちが話をしながらただ料理を作るだけのドキュメンタリー
しかも登場するのも、すべて監督の家族や知り合いばかり
観る前はそれで面白いのかと思っていたが、
そんな予想はいいほうに裏切られた。
それが実に面白いのだ。

イランの家庭は日本に比べるとふた世代ぐらい前のような感じで、
男子は決して厨房に入らない。
「女性は家庭を守り、料理を作るのが当たり前」と思っているようで、
食事のときには男性はただ食べる人に徹している。
監督もキッチンのことについては
ほとんど何も知らない状態で撮影に挑んだようだ。
登場する女性たちは、ラマダン中の豪華料理を作る母、
母の友人、伯母、義母、妹、友達の母親、そして妻の7人。
まず驚くのが、イランでは料理を作る時間がとても長いこと。
たとえばラマダン中の夕食は、日中食べられない分だけ豪華で、
昼から作り始めて7時間ほどかかるし、
それは別にしても5時間近くかかる家庭もある。
主婦歴何十年というベテランに比べて、
監督の妹や妻といった若い世代は、もともと料理に興味ないし、
作るにも手際が悪いという点では、現代の日本の若い女性と
大して変わらないようだ。
インテリっぽい監督の妻は、家事については基本的に
文句タラタラで、夫が友人を連れてきた時に食事を用意するの
は面倒で、夫の友人に料理をほめられても
「それは缶詰」と答えたりしたなどと、
「なぜ女ばかり」とウンザリとした様子。
大学へ行きながら小さなふたりの子供の面倒をみて、
夫が帰ってくるまでに夕飯を作っている監督の妹は
料理の手際が悪いし、夫にやはり不満タラタラだ。
それに比べて生き生きとしているのがベテラン主婦たちだ。
いちばん笑ったのが、義母のキッチンの場面。
若いころは姑に散々いじめられた上、
夫はちっとも助けてくれなかったと言いながら、
料理の途中で入ってきた夫を手伝わせ、
義母にチクリチクリと昔の恨みを皮肉交じりに言う姿は
まさに貫禄で、長い年月が彼女を変えたのだろう。

こうした家庭から見たイラン社会、男女のありよう、
そして世代間の違いを見ていると、
なんだか私たちの家庭とそう変わらない感じがしてくる。
キッチンで使っている道具も、大して変わらない。
そんなわけで、エンドクレジットに出てくる、
しょっぱい現在(夫婦の離婚)も含め、
「家族や夫婦の関係は世界中どこでも大変なんだなあ」
と感じてしまった次第だ。短いドキュメンタリーながらも、
その後ろに見えてくるものは大きい。
(★★★☆)

■関連情報
本作は2011年の山形国際ドキュメンタリー映画祭で
市民賞とコミュニティシネマ賞の2部門を受賞した。
しかしながら、国際的に評価されているモハマド・シルワーニ監督の作品は、
一本もイランでは上映されていない。こ
の『イラン式料理本』も上映が禁止されている。
そればかりか、彼は山形の受賞スピーチで、
「私は身の危険を感じているので、
今後一切ドキュメンタリーは撮りません」と宣言する羽目になった。
このイランのキッチンを撮ったドキュメンタリーのどこが政治的なのかは、
よほど心の捻じ曲がった人以外は気にしないだろう。
つまりイラン政府は、「海外で活動する芸術家」は
すべて「反政府的」としているのだろう。
イランの状況は、年々どんどん悪くなっているようだ。
中国といい、すぐれた芸術家は海外へ流出するしかないのだろうか。

雑誌「旅行人」のウエブサイト「旅シネ」に寄稿したものを転載しました。
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by mahaera | 2012-09-08 10:17 | 映画のはなし | Comments(0)
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