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旅行・映画ライター前原利行の徒然日記

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最新映画レビュー『アルマジロ』 たぶん自衛隊もこんな感じになるんだろうと予見させるドキュメンタリー

アルマジロ
Armadillo
2010年/デンマーク

監督:ヤヌス・メッツ
配給:アップリンク
公開:1月19日より渋谷アップリンク、新宿K’s cinemaにて
上映時間:105分
公式HP:www.uplink.co.jp/armadillo/


デンマークの若い兵士たちが国際治安支援部隊として、
アフガニスタンに渡った。赴任先は南部ヘルマンド州にある
前線作戦基地“アルマジロ”。さびれた田舎の農村をはさみ、
向こうにはタリバンの拠点がある。
赴任当初は何も起きない退屈な日々が続くが、
ある日タリバンとの交戦が起きる。相手を倒し、
喜びに沸くキャンプだが、その時にとった行動が、
後に物議をかもすことになる…。

「アフガニスタンになぜデンマーク人兵士が?」と疑問に思った。
この映画が製作されたデンマークでも、
自国が戦争に関わっていることは忘れられていたという。
カメラが密着する兵士のひとりは、自分がコソボに送られると
思っており、アフガンのことは何も知らなかったほどだ。
カメラは地方の前線基地へ配属された兵士たちを出発時から追う。
若者たちは格別強い愛国者でも戦争マニアでもない。
ボランティアでインドのマザーハウスへ行く若者たちと、
本質的に変わらない。今の自分とは違うことをしたいし、
違う可能性を見いだしたいだけだ(昔は「自分探し」といった)。

最初のパトロールでは何も起きず、肩すかしをくらう兵士たち。
しかし日々の緊張は次第に兵士たちを冒していく。
戦いがあれば農地は荒らされ、家族や家畜を殺される
民間人には、タリバンも治安支援部隊も迷惑なものでしかない。
村人たちにとっては、両方とも出て行って欲しい存在でしかない
「地域に平和をもたらす」という大義は、
最初から成り立たないのだ。兵士たちも、
次第に村人がタリバンと通じていると疑いを抱くようになる
(タリバン側もおそらく同じことを考えているだろう)。
そしてついに戦闘が起こる。アドレナリンが放出され、
異常な興奮状態に陥る兵士たち
兵士のヘルメットにつけられたカメラは、
まるでシューティングゲームの最中にいるような臨場感だが、
そこに映し出されるのは普通の感覚が
すでに麻痺している兵士たちだ。味方も負傷するが、
手榴弾と銃でタリバンの兵士は倒される。
そこにある感情はただ「敵を倒す」という原始的な本能のみで、
本来の使命とか目的とかはすでに吹き飛んでしまっている。
結局は、相手を殺すという高揚感に集約されて行くのだ。
「戦争中毒」という言葉がある。危険だとわかっていても、
その時の高揚感が忘れられずに、
また戦場に戻っていく兵士たちの状態のことだ。
「人と戦って殺すことの高揚感」が合法的に得られるのは、
戦場のみだから。そしてそこには犯罪と違って、
「達成感」「連帯感」「社会的評価」もつくのだから、
始末が悪い。そして分かち合える家族のような仲間たちもいる。
もちろん、そういったことが性に合わなくて、
早く帰りたい若者もいるだろう
(本当はそちらのほうが多いのかもしれない)。
襲って来たタリバンを殲滅し、
「おれ、無我夢中でやっちまったぜ」「いゃー、すごかったなあ」
と興奮冷めやらぬ仲間どうしで盛り上がる感じは、
「あるある感」たっぷりだ。結局、興奮し過ぎで、
ひとりが故郷に携帯で、「瀕死のタリバンにとどめを刺したぜ」
的なことを話したことが漏れて、問題になるのだが
(そのうちYoutubeに載せて捕まる兵士も出そうだ)。
何気なく聞き流してしまいそうだけど、
「すでに戦闘能力がない兵士にとどめを刺す」って考えは
映画の見過ぎだと思う。これは相手が敵だから、
死んでも同然という前提の話で、逆だったら? 
某国兵士が「瀕死の日本人兵士にとどめをさしたぜ」と
はしゃいでいたら、そりゃあやり返したくもなってしまう。
戦闘とは、人間を単純な感情に戻す装置でもある。

戦闘行為が許されるようになった自衛隊が、
この映画のデンマーク人のように、あまり当事者意識がないまま
平和維持活動で戦場に行ったら、こんな感じになるんだろうなあ。
もうそれは、予想がつく。
国の思惑とは関係なく、自分探しが目的なら、とくにそうだ。

最後に、戦場となる村の農民の声。
「お願いだからうちの畑で戦争しないでくれ。家畜は殺され、
家は砲弾で穴が空き、ばあさんは流れ弾で死んだ」。


■映画の背景
デンマークは徴兵制で18〜32歳の男子が4ヶ月間の兵役がある。延長希望も可能で、その場合が戦地へ送られる可能性が高くなる。また、良心的兵役拒否が認められている。3万人の常備軍のうち、750人ほどをアフガニスタンに派遣しているという(すでに30名死亡)。
(★★★)
旅行人のウエブサイト「旅シネ」に寄稿したものを転載しました
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by mahaera | 2013-01-08 11:22 | 映画のはなし | Comments(0)
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