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旅行・映画ライター前原利行の徒然日記

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最新映画レビュー『ライフ・オブ・パイ/トラと漂流した227日』 シャマランが監督しないで良かった(笑)

ライフ・オブ・パイ/トラと漂流した227日
Life of Pi
2012年/アメリカ

監督:アン・リー(『ブロークバック・マウンテン』『ラスト、コーション』)
原作:ヤン・マーテル『パイの物語』
出演:スラージ・シャルマ、イルファン・カーン(『マイティ・ハート/愛と絆』『スラムドッグ$ミリオネア』)、タブー『その名にちなんで』)、ジェラール・ドパルデュー (『シラノ・ド・ベルジュラック』)
配給:20世紀フォックス映画
公開:1月25日より全国ロードショー
上映時間:127分
公式HP:www.foxmovies.jp/lifeofpi/


予告編からすっかり子供向けの
「少年とトラの友情と冒険の物語」と思い、
試写になかなか行かなかったことを後悔。それで同じことを考え、
この映画を観に行くのを止めている人へ。
そんな先入観は捨てたほうがいい。

インドで小説を書こうとして挫折したライターが、
モントリオール在住のインド系カナダ人の
パイ・バテルのもとを訪ねる。彼の叔父という人物から、
パイの体験談を聞けば面白い小説が書けると聞いたからだ。
パイが語り出した体験談は驚くべきものだった。
1960年代、パイはインドで動物園を営む一家のもとに生まれる
。さまざまな宗教に興味を持つ少年時代。そしてパイの初恋。
パイが16歳の時、一家はカナダへ移住することになるが、
家族の乗る船は太平洋上で嵐に見舞われ、沈没してしまう。
必死の思いで救命ボートにたどり着いたパイだったが、
ボートには船から逃げて来た他の動物たち、
そしてベンガルトラも乗っていた。

日本語タイトルに「トラと漂流した227日」
はっきり書かれ、それがメインの話かと思って観ていると、
なかなかパイが海に出る所までいかない。
少年時代にヒンドゥーの家庭なのにキリスト教や
イスラムなど、他の宗教に関心を持ったこと。
動物園に入ってきたトラを見に子供だけで飼育檻に行き、
父親に怒られたこと。そして、自分の名前の由来と
それが原因でいじめられ、ニックネームをパイにしたこと。
この3つは、単にほのぼのとしたエピソードかと思っていると、
実はこの映画のキーであることに観た後、気づく。
彼が神をどう思っているか。ベジタリアンであったこと。
父親が言うセリフ「トラは友だちじゃない。
お前はトラの中に自分を見ているだけだ」
。そして円周率。

パイが海で体験する不思議な情景は、とても美しい。
本作の映画化は何度も立ち消えになり、
ようやくアン・リーのもとで完成したが、
現在のCGや3D技術の発達のことを思えば、
製作は遅れて良かったのだろう。
ライトを照らしながら海の中に沈んで行く船、
きらめく夜光虫の海から飛び上がるクジラ、
波ひとつなく鏡のように静止している海面、
空中を飛行するトビウオの群れ、
そしてすべてCGとは思えないトラの動きのすばらしさは、
できるだけ大きな画面で味わって欲しい
それらの画面が美しすぎ、まるでおとぎ話ようにも見えてくる。
これはすべて「パイが話している物語」だから、
観客は次第に「これは本当にあったことじゃないかもしれない。
何かの寓話なんだろうか」とも思い始めるだろう。
漂流の最後のほうに出てくるミーアキャットの島にいたっては、
もはやリアリティはなく、夢の中の話のようでもある。

そして、この映画の最後にあっと驚く、
物語を読み解くキーが示される。
これを言っただけでネタバレになってしまうかもしれないが、
そのキーを使って物語をもう一度読み解くのは観客に委ねられ、
映画はあっさり終わる。そこで私たちは気づく。
これは決して子供向けの映画ではない。
むしろ多くのものを失った経験がある、
大人だからこそわかるほろ苦い映画なのだ。
そして、今まで観て来たものはなんだろう
頭の中でもう一度この映画を反芻するのだ。
今までのエピソードに伏線が散りばめられていたことが
わかった後はもう一度最初から本作を見直したくなるだろう。
そして事実がどうであれ、
「物語るということはどういうことか」を我々に突きつける。
パイがライターに「どっちがいい」
いう質問は、観客すべてに投げかけられているのだ。

これ以上は書けないが、この映画の監督のオファーが
なぜ最初に『シックスセンス』のシャマラン監督
行ったのかは今ではわかる。
だけど、監督はアン・リーで正解だったと思う。
このほろ苦い味わいは、シャマランでは無理だから
(★★★★)

このレビューは旅行人のウエブサイト「旅シネ」に寄稿したものと同じものです。


■映画の背景
・原作は2001年に発表された『パイの物語』。作者のヤン・マーテルは、この物語を書くためにインドで半年を過ごした。
・トラの名前はリチャード・パーカー。エドガー・アラン・ポーが1837年に発表した小説の登場人物の名前。この小説は漂流中に食料がつきた4人の男が、くじで生け贄を選ぶ。そこで食べられるはめになった船員の名前がリチャード・パーカーだ。そしてその47年後に実際に船が沈没し、救命ボートで脱出した4人の船員のうちひとりが殺されて残りの三人の食料になった事件が起きた。奇しくも殺された船員の名前は、リチャード・パーカーだった。これがこの作品のヒントかもしれない。
・ロケはポンディシェリー(映画ではフレンチクォーターの街並が映る。また植物園が動物園として撮影)、ケララのMunnarの茶畑、台湾のケンティン国立森林地区(ミーアキャットが住む島)などで行われた。

■関連情報
・本年度のアカデミー賞に、作品賞、監督賞を含む11部門でノミネートされている。
・アン・リーの母国台湾だけでなく、中国でも記録的な大ヒットとなった。
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by mahaera | 2013-01-16 22:57 | 映画のはなし | Comments(0)
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