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旅行・映画ライター前原利行の徒然日記

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最新映画レビュー『故郷よ』今だから他人事ではなくわかるチェルノブイリ。フクシマの人たちの姿が重なる

故郷よ
Land of Oblivion
2011年/フランス、ウクライナ、ポーランド、ドイツ

監督:ミハル・ボガニム
出演:オルガ・キュリレンコ(『007/慰めの報酬』)、アンジェイ・ヒラ(『カテインの森』)、イリヤ・イオシフォフ
配給:彩プロ
公開:2月9日よりシネスイッチ銀座にて
上映時間:108分
公式HP:kokyouyo.ayapro.ne.jp


何年か前、ウクライナのキエフに行ったことがある。
地図を見て、チェルノブイリが意外と近いことを知った。
キエフにはチェルノブイリ博物館があり、そこに住んでいた
人々の持ち物などが展示してあったことを覚えている。
チェルノブイリの事故があったとき、その隠蔽体質を、
自分を含めて多くの日本人は「ソ連(当時)だから」
遠い国のこととして感じたはずだ。
やっぱり共産国家は怖いよね。何でも隠すんだから
しかし今では「これはどこの国でも起きること
であることを実感している。

1986年4月25日の春、チェルノブイリからわずか
3kmの隣町プリビャチでは、住民たちは川で魚を釣り、
原子力発電所の技師アレクセイは幼い息子ヴァレリーと
川辺でリンゴの木を植えていた。翌4月26日、町は雨に包まれる。
結婚式を挙げていたアーニャの消防士の夫は、
森林火災があったと呼び出され二度と戻らなかった。
川には魚が浮き、植えたリンゴの木も枯れてしまった。
事故があったことを知ったアレクセイは、家族を避難させる。
4月28日、ようやく発電所の事故が住民に告げられ、
住民の強制退去が強いられる。住民の家畜やペットは殺された。
10年後、アーニャはプリビャチに戻りツアーガイドをしていた。
そして成長したヴァレリーもまた事故以来、
初めてプリビャチに足を踏み入れていた。

10年後、映し出されるプリビャチは厳しい冬景色の中だ。
コンクリートで固められた「石棺」や30km圏内の
立ち入り制限区域内で、いまだ働く人々がいる。
立ち退きに応じず住み続ける人々、
空き家となった家々を勝手に占拠して住んでいる人々…。
結婚式の日に夫を失ったアーニャは、外国人相手に
ツアーガイドをしながら、この地を離れずにいる。
死んでしまった夫のことを考えると、
自分だけ幸せになることはできないというように。
成長したヴァレリーは、事故の日から行方不明の父が、
まだどこかで生きているという期待をかけて
ゴーストタウンとなった町へと入って行く。

突然、故郷を奪われただけでなく、同時にその地で
愛する人を失った人々の喪失感は、想像するしかない。
声高ではなく淡々と描いた地味といっていい作品かもしれない。
生命が息づく春の日、美しいプリビャチの町で
父は子と苗木を植え、花嫁は「百万本のバラ」を歌い、
幸せを謳歌している。まもなくオープンする遊園地を
子供たちは心待ちにしている。
この部分を丁寧に描き、その後どうなるかを知っているから、
観客は永遠に続くと思っている幸せが、
実ははかないものだと強く感じるのだ。

このままさまよい続けて一生を終えるだろうといった人々の姿は、
胸に迫るものがある。同じことが日本でも起きているのだ。

人が作ったものは大きく破壊された一方で、
自然が暴力的に回復している姿も印象的だ。
人類が放射能で全滅した後も、自然は生き抜いていくのだろう。
途中で捨てられた家屋に住み着いているタジキスタン人の
家族が登場する。彼らも「故郷」を追われて来たのだろうが、
プリビャチに住んでいた人にとっては「占拠者」にすぎない。
しかし今ではそこが、彼らの安住の地なのだ。
「原発が」というより、多くの人々の幸せを奪うものについて、
そしていつまでも幸せが続くものではないこと、
いろいろ考えさせてくれる映画だ。
(★★★☆)

■映画の背景
・プリビャチはウクライナ北部の都市で、原子力発電所から3km離れた場所にある。発電所の従業員の住む町として創建された新しい町で、当時の人口は5万人、平均年齢は26歳だった。きっと若い夫婦や、小さな子供たちが多かったのだろう。
・現在、30km圏内は立ち入り禁止区域となっているが、映画で描かれているように、今でも4000人が仕事をして、バーやレストラン、ホテルもある

■関連情報
・映画で描かれているように、チェルノブイリツアーがキエフから催行されている(片道2時間半)。日帰りツアーUS$150〜(施設内の食堂でのランチ込み)。行きのバスの中でドキュメンタリー上映、4号炉のそばまで行き、外観を眺める。ゴーストタウン(観覧車もある)を歩き、ガイガーカウンターで計測しながらのツアーだ。このツアーで浴びる放射線は、飛行機に乗って浴びる放射線と同じぐらいだという。現在、「石棺」は老朽化が著しく、それの回りにさらに人工物を被せる作業をしている(石棺が見られるのはあと数年という)。
ツアーについての内容や、参加した人のブログはウエブ上で見られるので、検索してみるといいだろう。
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by mahaera | 2013-01-20 15:58 | 映画のはなし | Comments(0)
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