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旅行・映画ライター前原利行の徒然日記

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最新映画レビュー『ゼロ・ダーク・サーティ』クライマックスのビンラディン急襲作戦は息を飲むリアルさ

ゼロ・ダーク・サーティ
Zero Dark Thirty
2012年/アメリカ

監督:キャスリン・ビグロー(『ハート・ロッカー』『ハートブルー』)
出演:ジェシカ・チャステイン(『テイク・シェルター』『ツリー・オブ・ライフ』)、ジェソン・クラーク(『パブリック・エネミーズ』)、ジョエル・エドガートン(『アニマル・キングダム』)
配給:ギャガ
公開:2月15日より全国ロードショー
上映時間:158分
公式HP:zdt.gaga.ne.jp


9.11テロから10年が過ぎ、人々のビンラディンに対する記憶も
薄れようとしている2011年5月1日、
アメリカのネイビーシールズがパキスタンにある
ビンラディンの隠れ家を急襲し、殺害する事件が起きた。
この映画はその作戦をクライマックスに、ビンラディンを追うCIA女性分析官がパキスタンに赴任してからの8年間を描く。
この映画のどこまでが本当なのかわからないが、
映画制作者たちは知り得た限りを、善悪の判断をせずに
ありのままに描こうとしたという。したがってCIAの手の内を
ここまで明かしていいのかと思えるようなシーンもある。

2003年、パキスタンにあるCIAの部署に新任の情報分析官
マヤが派遣されてくる。まだ若く、捕虜の拷問に
最初は目を背けるマヤだが、次第にそんな状況に慣れて行く。
やがてビンラディンの連絡員と思われる男、
アブ・アフメドの情報をつかむマヤだが、
なかなかその尻尾をつかむことができない。
手詰まりになって行く中、自爆テロで同僚を失い、
マヤ自身も襲撃され、彼女の心の中の何かが大きく変わっていく。
そしてマヤはついにアブ・アフメドの手がかりを見つける。

本作は製作中に共和党から、
「暗殺に成功したオバマを讃える政治映画」と非難されたが、
完成してみるとまったく違う印象の映画だった。
そこで今度はCIAによる残酷な拷問シーンを取り上げ、
「これはアメリカの国辱ものだ。映画に描くべきではない」
また非難をしたりもしている。最初は拷問による自白に
頼っていたCIAの諜報活動だが、
捕虜の虐待が徐々に報道されるようになり、
国際的な非難を浴びていく過程(途中でブッシュから
オバマ政権に変わった事情もある)や、拷問による自白が
あまり役に立たず、新たなテロを防げなかったこと
(肝心なことは話さない、曖昧な記憶を自白することもある)
も描かれている。実際にアルグレイブ刑務所や
グアンタナモでの虐待や拷問はあったことなので、
この映画のCIAの拷問シーンもその通りと
アメリカ人には受け入れてほしい。
そしてその拷問シーンは、嫌悪感を催すように描かれなければ
ならない
のは当たり前なのだ
(手慣れた感じで拷問をしているマヤの前任者も、
やがて精神的に参って本国に帰る)。

最初は目をそむけるマヤだが、やがて彼女も
長くいるうち、やり手の分析官になっていく。
映画を見ている限り、CIAでも大使館内で分析をする人のほかに
現地の町中で活動する実働隊がいる。
もっとも白人がパキスタンの町をウロウロすれば
目立つし危険だからだろう(とくに女性は無理)。
マヤ役のジェシカ・チャステインは本作で世界の映画賞を
受賞しているが、納得の熱演だ。美人系ではないが、
『テイク・シェルター』『英雄の証明』『ツリー・オブ・ライフ』
など、ここのところ作品にも恵まれ、現在注目度No.1の女優だ。
本年度のアカデミー主演女優賞にもノミネートされている。

映画のハイライトとなるビンラディンの隠れ家への
急襲シーンは、まるでドキュメンタリーを観ているかの
ように再現されている。アフガニスタンの基地を飛び立った
ステルス型ヘリコプターが、イスラマバード郊外の町の住宅地に
降りる様子。そして一機が着陸に失敗し壊れ、
爆破することになったこと。
忠実に再現された住宅はまるで本物のよう。住宅内への突入。
ビンラディンは最初から拘束ではなく
見つけ次第射殺するつもりだったかは、ハッキリとは
描かれていない。そしてビンラディンが死んだことは
ネタバレでもなく周知の事実だから書けるが、
作戦はかなり周到に計画されたものの割に、
最後までビンラディンがいるかわからなかったことも興味深い。

すべてが終わり、アフガニスタンで輸送機に乗り込む
マヤの表情はうつろだ。目的を達成した喜びはない。
「どこへ行く?」とパイロットに聞かれても答えられない。
それはいまのアメリカそのものでもある。
9.11に始まった長年にわたる対テロ戦争の結果、
アメリカ自身も国際的な裁判を無視して、
ビンラディンを勝手に殺すテロ国家になり、
しかもそれを隠しもしなくなった。
怪物と闘うためには自らも怪物になってしまったのだ
ただしビンラディンが死んでも反米テロはなくならないし、
何も変わらない。昔の映画だったら、
「女性分析官が大活躍して、ラストは大ボスを倒してスッキリ」
とするところなのだろうが、本作は「そんな甘い現実はないよ」
アメリカ人に突きつけているのだ。
アメリカ人がアメリカがしていることを知り、嫌悪感を抱けば
(アメリカ以外の国の人はみなすでに持っている)、
アメリカではこの映画は成功だろう。
楽しい映画ではないが、アメリカの興行成績ではいい結果らしい。
(★★★★)
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by mahaera | 2013-02-05 11:03 | 映画のはなし | Comments(0)
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