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旅行・映画ライター前原利行の徒然日記

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最新映画レビュー『ジャーニー/ドント・ストップ・ビリーヴィン』Youtubeの力は大きい

ジャーニー/ドント・ストップ・ビリーヴィン
Don’t Stop Believin’. Everyman’s Journey
2012年/アメリカ

監督:ラモーナ・S・ディアス(『イメルダ』)
出演:ジャーニー(アーネル・ピネダ、ニール・ショーン、ジョナサン・ケイン、ロス・ヴァロリー、ディーン・カストロノヴォ)
配給:ファントム・フィルム
公開:3月16日より新宿ピカデリー他、全国
上映時間:105分
公式HP:journey-movie.jp


アメリカで全く売れなかったミュージシャンだが
南アフリカではスターで、30年ぶりに再発見されて
注目を浴びるというドキュメンタリー
『シュガーマン 奇跡に愛された男』と日本公開が同じ日になるが、
この『ジャーニー/ドント・ストップ・ビリーヴィン』も、
驚きの”音楽のシンデレラストーリーだ。
長い間、不遇の中にいたミュージシャンが、
報われて評価されるという点では同じだからだ。

2007年、ベテランのアメリカンロックバンド、
ジャーニーは新たなボーカルを捜していた。
バンドは1980年代に名ボーカリスト、スティーブ・ペリーを迎え
、一時期はヒット曲を連発するビックバンドだった。
ペリー脱退後も、ボーカルは2人替わったが、
歌の難易度が高いため新しいボーカル探しは難航していた。
そんな時、ギターのニール・ショーンはYoutubeで
ジャーニーのトリビュートバンドを探しているうち、“
Faithfully”を歌うひとりの男に注目する。彼はアーネル・ピネダ。
しかし彼はアメリカ人ではなく、フィリピンのマニラに住んでいた。。

本作はジャーニーのヒット曲満載のコンサート映像集ではない。
もちろん演奏シーンは随所に盛り込まれているが、
核となるのはアーネル・ピネダの半生と、彼がチャンスをつかみ、
そしてそれが彼の人生をどう変えたかということ

数年前ジャーニーの新ボーカルがアーネルと聞いた時は、
正直言って違和感があった。何と言ってもジャーニーは
“アメリカン・バンド”だ。そこにいくらうまくてもフィリピン人、
しかもバンドのフロントマンであるボーカルに。
偏見がある訳ではないが(実際、香港のホテルなどで
演奏しているバンドは非常にうまい)、
「ベストヒットUSA」世代の僕としては
「ボーカルはアメリカにいないのかなあ。ジャーニーも
懐メロバンドになったのか」と感じたものだ。

しかしそんな考えが、ようやく本作を観て覆された。
アーネルは歌がうまいだけでなく、どこか魅力のある存在なのだ。
映画はまずマニラの町中を歩くアーネルの姿から始まる。
どう見てもアジアの町中でよく会いそうな
地元のロック兄ちゃんにしか見えない
30歳ぐらいにしか見えないアーネルだが、
ジャーニーに加入が決まった時点で40歳だった
アーネルにより彼の半生が語られる。
子供の頃、一家離散し、2年間の路上生活を送ったこと、
歌で物乞いのような生活をしていた少年時代、
クラブで歌って稼いだお金で家族を呼び寄せたこと、
フィリピンでデビューするが何度も失敗し、
やがて香港に10年近く出稼ぎに出ていたこと、
幾度の離婚やドラッグのこと…。今の妻も登場して話すが、
まるっきりふつうの人だ(笑) 
20代の彼が歌うテレビ映像があるが、まるで“シブがき隊”(笑)
そんな彼にとって最大の転機が訪れる。
友人が投稿したYoutubeの画像を見たニール・ショーンが、
直接メールを送って来たのだ。
「オーディションに来ないか?」

驚いたのが、ニール・ショーンがYoutubeで自分たちの曲を
演奏するバンド映像を見てメンバー探し
をしていたこと(笑) 
「11時間も映像を見続けて、もう見つからないと思ったよ」
とニールは言うが、「11時間で見つかったら
オーディションするより早いでしょ!」と画面に突っ込んだ。
ニールはすぐにキーボードのジョナサンに連絡し、
「このYoutubeを見ろ。彼だ」。
映像見たジョナサンも「彼しかない!」ということに。
いやー、便利な世の中になったものである。
この一件だけでも、世界にたくさんあるコピーや
トリビュートバンドの苦労は報われた
のではないだろうか。

とはいえ、その時点ではアーネルはどんな人間か素性も分からず、
しかも見た目はまったくのアジア人。それは大いなる賭け、
もしくは他に打つ手がなかったのかもしれない。
ニールはアーネルに電話をして、アメリカに
オーディションに来るように呼ぶが、
「英語が話せるか心配だった。コミュニケーションが取れるのか」
とも語っている。また、ビザを取ることだって大変だ。
映画ではさらりと語られているが、アーネルがマニラのアメリカ大使館へ
ビザ取りに行っとき理由を聞かれ、
「ジャーニーのオーディションを受けに行く」と言ったそうだ。
すると職員は書類だけでは信じなく(ふつうそうだよね)、
“Wheel in the Sky”を歌ってみろと彼に言った。
彼がそれをそこで歌うと、職員は「そんな話を信じる奴は
きっとここにはいないだろうが、オレは信じる。合格してこいよ!」とビザを発給してくれたそうだ(ここでもう伝説のような話である)。

オーディション初日は、アーネルは疲れと緊張でいまいちだったが、2日目に調子を取り戻す。そりゃそうだろう。
人世最大の就職試験だ
それに目の前に憧れの人たちがずらりと並んでいるんだから。
ニールとジョナサンは最初はがっかりしたが、2日目にようやく
Youtubeで聞いた彼の声を聴き、「これだ!」となったようだ。
バンドはリハーサルに入るが、そのころニュースを聞いた監督が
このドキュメンタリーの撮影を打診。なのでラッキーにも、
アーネルがバンドに馴染む前の映像からあるのだ。

最初のライブはチリ。メンバーのインタビューを見ていると、
ジャーニーのメンバーは修羅場をくぐり抜けて来ただけあって、
現在の立ち位置を冷静に良く分かっている。
「俺たちのバンドのジャンルは、クラシック・ロック。
つまり観客はレコード通りの音を求めてやってくる。
ボーカルがペリーのような声を出せなければ満足しない」。

走り回って全力で歌い息切れするアーネルに
「歌を聴かせろ。きちんと歌えてからだ」
「そんな歌い方だと、3〜4日で喉を潰す。ツアーは長い。
一定のラインで喉のアクセルはキープしろ」と大人の教え。
その時点でアーネルは歌はうまいが、いわば短距離ランナー。
過酷なツアーを耐え抜くには別の力がいる。
映像を見て思ったのが、今やジャーニーの実質的なリーダーは、
キーボードのジョナサン・ケインだ。彼がボーカル指導したり、
ハーモニーを決めたりと、いろいろとアーネルの世話を
焼く姿が映し出される。本番前のウォームアップとかも、
メンバーのみなさん、毎度真面目にやっている。
このあたりは、さすがプロって感じ。

しかしアーネルは、ツアーが終わったら、自分の仕事は
おしまいだと思っていたという。あくまでも「臨時雇い」だと。
実際ロックバンドはそういうのが多い。
メンバーとして発表されていても契約では雇用関係で、
「脱退」ではなく「解雇」だったとか。ライブをやってもギャラは
「等分」ではなく、「給料」とか。だから、この段階で
「ツアーのギャラは5等分だ」とマネージャーが言うのが本当なら、
後から加入のメンバーではかなり珍しいことだと思う。
そういった意味で、この映画は「アジア人がアメリカの会社に入り、
現地のやり方を覚え、古参の社員に認められる物語」
にも見える。
お金を稼ぎ、フィリピンで豪邸を買い、車のバックシートに乗る
アーネル夫妻が、まだその生活に馴染んでいないのがおかしい。
名声に戸惑っているのだ。そして「誘惑は多いけど、
せっかくつかんだ今の幸せは手放したくない」と語るアーネル。
見た目は30でももう40代半ば。応援したくなるよね。

もちろんいいことばかりではない。昔からの熱心なファンは、
絶対に「スティーブ・ペリーのほうが良かった」と言うだろうし、
アーネルも毎日ペリーと比べられている自分を知っている。
また、「ジャーニーはアメリカのバンドだぜ。アジア人なんか」
というアメリカ人もいるはずだ。しかしアーネル効果で、
「ロサンゼルスでは観客の2割近くがフィリピン人だった。
新しいファンを獲得しているのはうれしい」という
メンバーの言葉もある。前向きに考えればいいのだ。
ということでこうした映画には甘くなってしまうが、
こうしたサクセスストーリーは見ていて気持ちがいい。
才能ある人間の苦労は報われるべきだ。そしてメンバーからは
音楽愛が伝わってくる。そして僕は、久しぶりにジャーニーを
毎日聴いている。「産業ロック」と言われ
一時はバカにされていたけど、曲はいいよ!

(★★★★前原利行)

■関連情報
・ジャーニーはアメリカの人気テレビドラマ「glee/グリー」で「Don’t Stop Believin’」が使われたことから、再び表舞台に上る。曲は発表時をしのぐヒットとなり、2011年最多のダウンロード数ヒットとなった。また同曲がロックミュージカル『ロック・オブ・エイジス』のテーマ曲になるなどし、新たなファンも獲得。アーネルが加入してからバンドは再び注目されるようになったのだ。

・笑って納得したのが、ロサンゼルス公演の楽屋にやってきたジェイソン・シェフ。「やあ、ジェイソン・シェフだよ。ほら、ピーター・セテラの後に入って替わりにベースとボーカル担当になった男だよ。僕も後から入ったから君の苦労が分かるよ。がんばってね」
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by mahaera | 2013-03-04 02:52 | 映画のはなし | Comments(0)
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