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旅行・映画ライター前原利行の徒然日記

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最新映画レビュー『三姉妹〜雲南の子』 地の果てのような雲南の村で、ただひたすら生きる子供たち

三姉妹〜雲南の子

2012年/フランス、香港

監督・撮影・編集:ワン・ビン(『無言歌』)
配給:ムヴィオラ
公開:5月25日よりシアター・イメージフォーラム他、全国
上映時間:153分
公式HP:www.moviola.jp/sanshimai


びゅうびゅうと風が鳴る丘の上にその村はある。
インイン(10歳)、チェンチェン(6歳)、
フェンフェン(4歳)の3姉妹が簡素な家で暮らしていた。
母は大分前に家を出て行方不明、父親は町に出稼ぎに行っていない。
村には伯母さんの家族やおじいさんがいるので、
家畜の世話をしたり畑仕事を手伝ったりして、
食事を分けてもらっている。しかし基本的には、
インインが母親代わりになり、この家で3人だけで暮らしている。
ある日、父親が町から戻ってくる。3人に笑顔が浮かぶが、
まもなく父親は町へ再び行くことになる。経済的な理由から、
連れて行けるのは下の2人だけだ。
インインは村に残され、ひとり父親の帰りを待つ。

世界のあちこちを旅していると、
時おりかなり辺鄙な場所を通り抜けて行く。
たとえば峠の上の小さな村。町の生活とは無縁そうな、
粗末な家に暮らす人たちを通りすがりに見ていると、
そこからいろいろな想いがよぎる。あの人たちは、
ふだんどんな生活を送っているのだろうか。
この『三姉妹〜雲南の子』を観て、
初めて雲南に行った20年近く前を思い出した。
あの頃でさえ僕が通ったのは、山道とはいえバスが通る道だ。
この映画に出てくる荒涼とした3200mの高地より、
まだ下界に近かったろう。

この映画を観て思い出したのは、タル・ベーラ監督の
『ニーチェの馬』
だ。あれはドラマだが、
このドキュメンタリーとよく似た空気だ。
この『三姉妹』はカラーだが、撮影が冬場ということも
あるのだろうが、この世界には色がない。
人はそこでは、ただ生きるのが精一杯だ。
画面に映る農家では多くの家畜を飼っている。
ブタ、ヤギ、ヒツジ、ニワトリ、アヒル、ロバ、ウマ、
ウシ、イヌ、ネコ…。
そしてそれらの動物に混じって、人が生きている

カメラはまるでずっと前からそこにあったかのように、
彼女たちの日常を映し出す。
逆光で映し出される、家屋の中の湯気が美しい
すばらしい報道写真を見ているかのようだ。
生きて行くという行為が、ただ淡々と映し出されて行く
とはいえ、その姿が悲惨というわけではない。
もしこの姉妹たちが暮らすのが都会だったら、
そう感じるかもしれない。しかしこの村では、
誰もが同じ環境なのだ。だから、姉妹たちも、村人たちも、
淡々と日々の生活をこなして行く。
バブルで浮かれ騒ぐ中国の都市部の生活は、
彼らにとってはまるでSFの世界かもしれない。

“ひとりっ子政策”が進められている中国で、
女の子ばかりの3人というのは、
ほとんど見捨てられた状態なのかもしれない。
農村で後継ぎがいない状態というのもどうなのだろう。
映画はまったく説明を排しているので、想像するしかない。
世界に見捨てられたような村で、さらに必要とされない子供たち。
しかし彼女たちは、ギリギリで生きてはいるものの、
子供ながらのポジティブさは失ってない
そして生きることに何の疑いを持つこともないだろう。
ただ、長女のインインの10歳にして孤独な表情は、
強い印象を残した。
2時間半の上映時間中、この子供たちの家で
ホームステイしていたかのような体験をした。

その存在感は、並の映画を軽く凌駕している。
(★★★☆)

■関連情報
本作は、2012年ベネチア国際映画祭のオリゾンティ部門のグランプリを受賞。また、2012年ナント三大陸映画祭でもグランプリと観客賞を受賞している。
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by mahaera | 2013-05-30 01:39 | 映画のはなし | Comments(0)
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