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旅行・映画ライター前原利行の徒然日記

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最新映画レビュー『囚われ人 パラワン島観光客21人誘拐事件 』フィリピンで実際に起きた誘拐事件を描く

囚われ人 パラワン島観光客21人誘拐事件
Captive
2012年/フランス、フィリピン、ドイツ、イギリス

監督:プリランテ・メンドーサ(『キナタイ・マニラ・アンダーグラウンド』)
出演:イザベル・ユペール(『3人のアンヌ』『愛、アムール』)
配給:彩プロ
公開:7月6日よりシネマート新宿ほかにて公開
上映時間:120分
公式HP:captive.ayapro.ne.jp


10年ほど前、新聞の片隅でだったか、この事件を知った。
この事件が起きたすぐ後だったか。
その3ヵ月語に起きた「9.11テロ」と関連づけた解説だったか
は思い出せない。
当時は、世界中がイスラム原理主義のテロにおびえていた。
僕は本気で、「みんなは気づかないが、
第三次世界大戦が始まった」
と思っていた。

2001年5月、フィリピンのパラワン島のリゾートで。
たまたま島に立ち寄っていたボランティア団体で働く
フランス人女性のテレーズは、イスラム原理主義者のテロ組織
“アブ・サヤフ”に、観光客らと共に拉致される。
小さなボートで海を越え、ミンダナオ島へ連れ去られる人質たち。
上陸後、国軍との銃撃線が始まるが、
国軍の攻撃は人質を無視した無差別なものだった…。
現地の住民の協力を得ながら、島を点々と移動するアブ・サヤフと人質たち。
その間にも身代金が行われ、支払われた者から
ひとりひとり解放されていく。しかし、人質期間が長引くにつれ、
テレーズら残されたものたちに絶望感が強くなっていく。

本作は実話が基だがイザベル・ユベール扮するテレーズという
架空の人物を創造し、その視点を入れて、
事件を多角的に見られるように構成している。
元になったのは、人質の手記だけでなく、
フィリピン人監督の“つて”による情報も大きいらしい。
というのも、この事件に関しては政府が
公式見解を出していないだそうだ。
その訳は、この映画を観ていればよくわかるだろう。

人質は最高で377日間と長期にわたって拘束されていたから、
その疲労度は大変なものだったろう。
アブ・サヤフの声明やニュースでは「外国人が拉致された」
ことばかりクローズアップされ、観光業に打撃を与えたが、
実際の事件では人質になった外国人は「わずか3人だけ」
イスラムの大義は後付けで、結局は金目的の誘拐だったようだ。
お金にならないホテルの従業員は殺されたりしている。

この映画のどこまでが本当かわからないが、
「身代金」に対する観念の差が、人質の明暗を分けている。
身代金が払われた人質は、あっけなく解放されて行く。
最後のほうになると、人質の人数は半分以下になっているが、
西欧人はすべて残っている。「9.11テロ」の影響もあるだろうが、
西欧諸国は建前的には「テロ組織とは交渉しない」ということと、
裏では身代金が高すぎるからだろう。
一方、フィリピン人や中国系の人たちはお金を払い、
次々と解放されて行く。
これは最初から国を通して交渉していないからだろう。

ゲリラたちは、どこか呑気でユーモラスではあるが、
イザという時は平気で人を殺す冷酷さもある。
そしてジャングルで暮らしてはいるが、
現地の人の一生分を超える身代金が組織に入ってくるのだから、
貧しい地域では羽振りがいい。
それに出口のない貧しい若者からは英雄視されてしまうのだ。
まるでヤクザの世界だ。

さて、映画を観て驚くのは、
ゲリラも政府側も似たようなものということ。
人質がいても、とりあえず無差別に撃ちまくる国軍。
数では勝っている国軍が何度となくゲリラを追いつめるのだが、
「どうだ、もう逃げ場がないだろう」
「仕方がない。金を払うから見逃してくれ」
「では裏口は開けておくから逃げろ」。

ゲリラは金を払って人質と誰もいない裏口から脱出。
政府軍はパフォーマンスのため、
誰もいない建物に向かって撃ちまくるという流れになる。
本気で“金づる”をつぶす気はないのだ。
しかし金が入るのは国軍の将校だけで、
ゲリラに偶然遭遇してしまった政府軍兵士は知らないから、
本気で戦って撃ち殺される。ただの犬死にだ。
それで、「見逃せ」という命令じゃ、やってられない。

事件は解決したが、犯人グループの主要人物は
逃げたまま(ワイロを払って逃げたのだろう)。
政府の公式発表なし(各国から送られた身代金を着服して、
ゲリラに渡さないことも多々あった
から)。「
腐ってる」と我々は映画を観ていて思うが、
もっとも憤っているのは、映画を作ったフィリピン人たちだろう。
映画的には、まだ稚拙な部分もあるが、
いろいろ考えさせられることも多く、
☆ひとつ増やして
(★★★)
by mahaera | 2013-07-09 11:07 | 映画のはなし | Comments(0)
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