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旅行・映画ライター前原利行の徒然日記

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最新映画レビュー『インサイド・ルーウィン・デイヴィス 名もなき男の歌』ボブ・ディランに影響を与えた男

インサイド・ルーウィン・デイヴィス 名もなき男の歌
Inside Llewyn Davis
2013年/アメリカ

監督:ジョエル&イーサン・コーエン(『ノーカントリー』『ファーゴ』)
出演:オスカー・アイザック(『ドライヴ』『ウォリスとエドワード』)、キャリー・マリガン(『ドライヴ』『17歳の肖像』)、ジョン・グッドマン(『アルゴ』『フライト』)、ギャレット・ヘドランド(『オン・ザ・ロード』)、ジャスティン・ティンバーレイク(『ソーシャル・ネットワーク』)

配給:ロングライド
公開:5月よりTOHOシネマズ シャンテ、新宿武蔵野館にて
上映時間:104分
公式HP:www.insidellewyndavis.jp


■ストーリー
1961年、ニューヨークのグリニッジ・ヴィレッジのコーヒーハウスで、シンガーのルーウィンが歌っている。彼は住む場所もなく、知り合いの家を泊まり歩いている一文無し。女友達から妊娠したと告げられても、中絶費用を出すこともできない。レコード会社にお金の催促に行くが、レコードはほとんど売れておらず、手にしたのはわずかな金だ。背に腹はかえられず、シンガー仲間のジムの誘いで軽薄なポップソングのレコーディングに参加するルーウィン。行き詰まったルーウィンは有名なプロモーターに会いに、シカゴへの旅に出るのだが…。

■レヴュー
どんなにシリアスな作品でも、独特のユーモアで包み込んでしまうコーエン兄弟。1961年、NYのグリニッジ・ヴィレッジに生きた、うだつのあがらないフォークシンガーを描いたこのドラマでもそれは健在だ。住む家を持たず、ギターケースとネコを抱えて知り合いの家を泊まり歩く、“売れない”シンガー、ルーウィン。彼は才能がない訳ではなく、コーヒーハウスの出演者ではレギュラーだし、インディーズからレコードも出しているのが、人気やお金には縁がない。そんな彼の“日常”を割と淡々と描いたこのドラマ、彼にとってはよくないほうへと物事は進んで行くのだが、悲惨さを感じさせないのは、あまり感情を表情に出さないルーウィンのキャラクターと演出のおかげだ。

映画の主人公ルーウィンのモデルになったのは、ボブ・ディランのヴィレッジでの先輩格にあたるシンガー、デイヴ・ヴァン・ロンク。彼が出した自伝にインスパイアされ、この脚本が生まれたという。映画の中でルーウィンが持っている自分のレコードのタイトルが「Inside Llewyn Davis」だが、ロンクも1962年に「Inside Dave Van Ronk」というアルバムを出している。映画の舞台になっている1961年には、ボブ・ディランも本作にも登場するヴィレッジのコーヒーハウス“ガスライト”に出演していた。ディランは、翌年にはルーウィンとは違ってメジャーレーベルのコロムビアからデビューし、63年には「風に吹かれて」でブレイクする。

映画の中で、ルーウィンはプロモーターのバス・グロスマンに自分を売り込みに行くが、「金の匂いがしない」といって契約には結びつかない。ルーウィンには“華”がないのだ。バス・グロスマンは有名なマネジャー、アルバート・グロスマンのことであり、グロスマンは翌年ディランと契約し、ピーター・ポール&マリーをデビューさせ、大成功をおさめる(のちにジャニス・ジョプリンとも契約する)。グロスマンはルーウィンを“ピーター・ポール&マリー”の元となるグループに誘うが、ルーウィンは断る。これも史実を元にしており、ロンクはグロスマンの誘いを断り、その結果、成功とは縁がない人になってしまった。

映画の色彩はすばらしく、ディランのアルバム「フリー・ホイーリン」のような青みがかかった色調だ。60年代初期のヴィレッジは知るよしもないが、空気感も含めてこんな感じだったのだろうというの再現はすばらしい。この映画が描いたのは1961年初冬。最後にディランらしき青年がコーヒーハウスの舞台に立つが、ルーウィンはまだ彼のことは知らない。翌年から、フォークムーブメントに大きな変化が訪れることを予兆させて映画は終わる。成功しなかった彼のような人は、時代の影に無数にいたのだろう。そんな人々に愛を込めた作品だ。
(★★★☆前原利行)

■関連情報
2013年のカンヌ国際映画祭でグランプリ受賞

(「旅行人」のウエブサイト、「旅シネ」に寄稿したものを転載しています)
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by mahaera | 2014-03-29 13:03 | 映画のはなし | Comments(0)
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