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旅行・映画ライター前原利行の徒然日記

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最新映画レビュー『アクト・オブ・キリング』 虐殺の実行者たちがその“行為”を演じる

アクト・オブ・キリング
The Act of Killing
2012年/デンマーク、ノルウェー、イギリス

インドネシアで60年代に起きた大虐殺。その実行者たちが自らその“行為”を演じる、異色のドキュメンタリー

監督:ジョシュア・オッペンハイマー
配給:トランスフォーマー
公開:4月12日よりシアター・イメージフォーラムほかにて公開
上映時間:121分
公式HP:www.aok-movie.com



1965年、インドネシアでスカルノ大統領(当時)の
親衛隊の一部がクーデター未遂事件を起こす。
その収集にあたったスハルト少将(後に大統領)は、
アメリカ、日本などの西側諸国の支援を受けて、
「事件の背後には共産党員がいる」として
当時大きな勢力を持っていたインドネシアの共産党勢力を一掃する。
虐殺された人々の数は100万とも200万とも言われる。
そもそもこの「クーデター未遂事件」だってでっちあげかもしれない。
しかし勝利した殺人者たちは英雄として、
殺された人々は名もなき犯罪者として闇に葬られた。

映画は、北スマトラのメダンで、当時、
虐殺を煽動した実行者たち(ギャング)が、
かつての行為を再現する様子を映し出したドキュメンタリーだ。
当初、監督は虐殺の被害者たちのほうのドキュメンタリーを
撮ろうとしたが、さまざまな妨害に遭う。
そこで発想を転換し、妨害しようとする人々に
撮影許可を願うとなんと彼らは快く応じる。
さらに自分たちの行為を正当化するドラマを、
自身で演じることにも同意したと言う。
何千人を殺したとしても、まったく後ろめたさはなく、
むしろ自分たちの行為を誇らしく思っているから、
それを再現することも誇りなのだ。

映画の中心人物は、当時、
殺害部隊のリーダーだったアンワルという老人だ。
町のギャングだったが、軍の依頼を受け、
新聞社から渡される“共産主義者”のリストをもとに、
仲間たちと1000人近くを殺害した。
「この屋上でたくさん殺したなあ。殺すのも骨が折れるので、
途中からもっと簡単に殺せるように、
針金で首を絞める方法を考案したよ。おかげでずっと楽に
人が殺せるようになった」と得意気に語り、それを実演する。
そしてその撮った映像を後でチェックしながら
「もっといい服を着れば良かった」と後悔する。

そのアンワルの片腕というべき存在のギャングのヘルマンは、
映画の中の演技も芸達者で、とくに女装ぶりは
“マツコ”を連想させ、強烈な存在感を持っている。
最初は嫌悪感を持って見てしまう2人だが、
次第に「友人だったらいいヤツかもしれない」
ぐらいに思えてしまう。
アンワルもいまは孫をかわいがる、おじいちゃんだ。
しかし、他の局面では、冷酷な殺人者になる。
当時の殺人の実行者たちは、今ではみなおじいさんになっている。
家族もいるし、子供たちもいる。彼らは虐殺について語るが、
そこには何の後ろめたさもない。ある男は華僑の恋人がいたが、
虐殺をしている時に彼女の父親を見つけ、
「迷わず殺したよ」と、「懐かしい思い出」として語る。

英語の「ACT」には「行為」と「演技」というふたつの意味がある。
本作がユニークなのは、自分たちのした殺人を
演じさせることにより、「客観的に自分を見る」ことを
本人たちに気づかせているということだ。
そしてその過程を私たちが見ることで、
私たちも主観的に生きれば彼らとまったく同様で、
スイッチが入れば隣人たちを平気で虐殺する
生き物なのだということを悟らされる。
インドネシアでは共産党員が大虐殺されたが、
10年後にはカンボジアで共産党が一般人を大虐殺している。
ルワンダでは他部族の大虐殺が行われた。
「虐殺」は人間の歴史ではつきもので、
この後も、10年に一回ぐらいは世界のどこかで起きるだろう。

人間はそのままでは隣の人を殺せないが、記号化して
カテゴラズすれば簡単に殺せるものなのだろう。
この映画では「華僑」「共産党」だ。
僕の周りも、人をカテゴラズする人間ばかりでうんざりだ。
それは別に日本人、韓国人とか、国籍だけでない。
宗教でもいいし、党派でもいいし、大卒だっていいし、
AKBファンだっていい。カテゴライズは何でもいいのだ。
「ひとりひとりの人間」と思えなくなっているのは、
すでに「虐殺のメカニズム」に足を踏み込んでいるのだ。
それをわからせてくる、一風変わったドキュメンタリーだった。
(★★★☆)

※「旅行人旅シネ」に寄稿したものを転載しました。
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by mahaera | 2014-04-09 14:24 | 映画のはなし | Comments(0)
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