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旅行・映画ライター前原利行の徒然日記

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最新映画レビュー『クライマー パタゴニアの彼方へ』そそり立つ絶壁に若き天才がフリークライミングで挑む

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クライマー パタゴニアの彼方へ
Cerro Torre
2013年/オーストリア

監督:トーマス・ディルンホーファー
出演:デビッド・ラマ、ペーター・オルトナー、トーニ・ポーンホルツァー、ジム・ブリッドウェル
配給:シンカ
公開:8月30日より新宿ピカデリーほかにて
上映時間:103分
公式HP:climber-movie.jp


「夏といえば山岳映画!」なのかは知らないが、毎年
この季節になると、夏公開の登山映画の試写が必ず何本かある。
需要があるのだろうか。
で、また登山にもロッククライミングもそれほど興味は
ない僕だが、この手の登山映画を見るのは好きだ。
世界のいろんな景色を見たいと旅しているが、
こんな高所の景色を見るのは不可能。
それができるのが映画だからともいえるし、
自分ができないことに挑戦する人の姿を見るのは好きだ。
そんな僕だから、「方法は何でもいいから登頂できれば
いいじゃない
」と思っていたが、それは昔の話で、
今はそうじゃなく、そのスタイルに意義があるようだ。

南米のパタゴニアにある3102mの峰“セロトーレ”
世界中のクライマーたちを惹き付けるこの山に、
フリークライミングの若きチャンピオン、デビッド・ラマが挑み、
それにドキュメンタリー映画のスタッフが同行することになった。
デビッドはドイツ人とネパール人シェルパとのハーフで、
子供の頃からその才能を発揮していた。
通常の登山(アルパイン)でも難しい山だが、
そこをフリークライミングで登るのが目的だ。
しかし2009年に行われた第1回目の挑戦は失敗。
デビッドは批判を浴びる。2度目の2011年には山頂に
到達するが、先人たちが残したボルトを利用したことから、
フリークライミングとしては認められない結果に。
そして2012年、汚名返上をかけたデビッドは3度目の登頂に挑む。

山というより“岩の塔”といった姿のそそり立つセロトーレ。
その姿に、多くのクライマーたちが魅せられて来たという。
本作は、そのセロトーレに「フリークライミングの
チャンピオンが挑み、登頂に成功する姿を収める」

はずだったのだろう。
しかしシナリオ通りに行かないのがドキュメンタリーだ。
フリークライミングの技術に優れていても、
実際の山岳ではそれが思うように発揮できるとは限らない。
競技のフィールドでは優れたスポーツ選手が、
実戦では役に立たないのに近く、
デビッド・ラマは登頂に失敗してしまう。

ラマの失敗に重ね合わせて語られるのが、セロトーレに初登頂したとされるイタリア人アルピニストのチェーザレの逸話だ。
彼は1959年に初登頂に成功したと発表するが、
同行したアルピニストは転落死し、写真もその際に失われ、
証明するのは本人の証言のみ
疑惑の中、チェーザレは1970年に再びセロトーレに挑むが、
その際にガスコンプレッサーを持ち込み、
360本のボルトを岸壁に打ち込んだ
こうした自然に大幅に手を加える行為は、今では批判の目で見られている。

本作でわかるのは、初登頂を競う時代が終わった今では、
登頂の方法こそクライマーにとっては大事だということ。
チェーザレのボルトを足場として“利用”したら、
それはもうフリークライミングではないという、厳しい評価だ。
映画の中で北米のクライミングチームが、
チェーザレのボルトを撤去してしまうという事件があり、
逮捕しろという声が飛ぶが、クライミング界の中でも、
その方法を巡ってはドロドロとした主義主張の争いがあるようだ。

三度の登頂を撮影した本作は、期せずして
「クライミングとは何なのか」の定義を問う内容にもなっている。
(★★★前原利行)

■関連情報
映画ファンには、ドイツの鬼才ヴェルナー・ヘルツォークの1991年の劇映画『彼方へ』(原題セロトーレ)の舞台でも知られるセロトーレ。ヘルツォークはチェーザレの行為に批判的で、チェーザレの残したコンプレッサーをヘリコプターで撤去して批判にあい、それをまた戻すという事件も起こしている。
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by mahaera | 2014-06-07 14:44 | 映画のはなし | Comments(0)
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