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旅行・映画ライター前原利行の徒然日記

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最新映画レビュー『あの日の声を探して』チェチェンの紛争の悲劇を3つの視点で描く

あの日の声を探して
The Search

2014年/フランス、グルジア

監督:ミシェル・アザナヴィシウス(『アーティスト』)
出演:ベレニス・ベジョ(『アーティスト』『タイピスト』)、アネット・ベニング(『キッズ・オールライト』『バグジー』)、マキシム・エメリヤノフ
配給:ギャガ
公開:4月24日よりTOHOシネマズシャンテ、新宿武蔵野館
HP: http://ano-koe.gaga.ne.jp

『アーティスト』のアザナヴィシウス監督が描く、言葉を失った少年と女性の交流

●ストーリー
1999年、ロシア軍が侵攻したチェチェン。少年ハジは目の前で両親をロシア兵によって殺され、ショックで声を失う。その後、ハジは幼い弟を見知らぬ家に預け、町へたどり着いた。一方、チェチェン紛争の調査に来たEU職員のキャロルは、その悲惨な状況と世界の無関心に心を痛めていた。街角でハジと出会ったキャロルは、彼の面倒を見始める。また、ロシアでは青年コーリャが強制入隊させられた軍隊の中で、少しずつ心が壊れて行き始めていた。


●レヴュー

佳作であるものの、アカデミー賞を大量受賞するほどではない白黒のサイレント作品『アーティスト』で、作品賞や監督賞を受賞したフランスのミシェル・アザナヴィシウス監督。さて、受賞後はたいてい監督には、“ご褒美”として好きな題材を選べるものだが、それで彼が選んだのが、1948年のフレッジ・ジンネマン監督による『山河遥かなり』のリメイクだった。このオリジナルは未見だが、ナチスの収容所で母と生き別れになった少年が、母に巡り会うまでと、米軍GIとの交流だという。アザナヴィシウス監督は“リメイク”というより、これはあくまで作品の着想とし、現代に通じる映画として新しいストーリーを作り上げた。

一方的に“勧善懲悪”を語るのが難しい現代。この『あの日の声を探して』では、戦争で両親を亡くした少年、調査に来た女性職員、そして若いロシア兵士の3人の視点で語られる。これは戦争が起きた時の3つの立場の象徴でもあるが、『山河遥かなり』には、このロシア人兵士にあたる視点はない。舞台はチェチェンだが、これは戦争や侵略、迫害が起きる以上、世界のどこでも起こりうるできごとなのだ。“戦争”の原因や理由についてはここでは触れることなく(それはまた別のテーマの話だ)、自分の意思とは関係なくそこに放り込まれた人たちが、殺すも殺される側もどうなるか、ということを描きたかったからだ。

実際、戦争の場では、どれだけの人が自分の意思で動いているのか。ほとんど誰もいないはずだ。命令を下すのはそこにいないわずかな人で、戦っている双方の兵士でさえ、戦わなければ自分が死ぬので相手を倒そうとしているにすぎない。新しく付け加えられた青年ロシア兵コーリャの設定は、ロシアの都会で暮らす暴力とは疎遠な青年が、彼にとっては非現実的な設定の場に送り込まれて、次第にそれに“慣れていく”過程を盛込みたかったからだろう。陰湿な軍隊でのイジメ、耐えきれずに自殺する友人、基地に送り込まれて来る死体袋、実戦では怖くて民間人にも銃を向けてしまう。そしてそれを通り越して、人の死に鈍感になっていく…。キューブリックの『フルメタル・ジャケット』にも通じる世界だ。

しかし3人の登場人物のなかでも、私たちがもっとも共感しやすいのが、物語の実質的な主人公となるキャロルだろう。EU職員の彼女は“そこ”で起きていることに心を痛め、何とかしたいと願っている。しかしできることは、ほとんど何もないのだ。ここでも、戦地に近い場所で悲惨な状況を見ているが、電話1本で平和な日常の実家のパリにつながる。同じ世界なのに、まったく違う世界が同じ時間を共有している違和感。現地の避難民にいくら同情していても、彼女が暮らす世界から同情するしかない。そんな姿は、テレビのニュースで世界の悲惨なニュースに心痛めながらも、どうすることもできない私たちと一緒だ。調査機関の働くキャロルができるのは、それを報告することだけ。アネット・ベニング扮する赤十字の職員にグチをたしなめられるシーンがあり、それは酷だろうとも思うが、ある意味キャロルのような“良心的な人々”の限界も突いている。

映画の最後は円環構造になって終わるが、これはこのような悲劇が、時と場所を変えても、永遠に続くことを示している。憎しみや闘いの連鎖は、1994年の傑作マケドニア映画『ビフォア・ザ・レイン』(必見!)のような円構造を持つが、ここでもそれが描かれている。が、この監督特有の、ウェットというかベタな語り口がどうも僕とは相性が悪く、いい映画だとは思うが、正論過ぎて、もう少しひねりが欲しかったかなと思う。ということで★★★

●映画の背景
ロケが行われたのはグルジア(最近、呼び名が「ジョージア」に変わったようだが)。トビリシ郊外にある兵舎、グルジアの町、カフカス山脈で難民キャンプのロケも行われた。

(旅行人のHP「旅シネ」に寄稿したものを転載しました)
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by mahaera | 2015-04-23 17:25 | 映画のはなし | Comments(0)
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