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旅行・映画ライター前原利行の徒然日記

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最新映画レビュー『奇跡の2000マイル』 4頭のラクダとオーストラリアの砂漠を横断した、ひとりの女性

奇跡の2000マイル
Tracks

2013年/オーストラリア

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監督:ジョン・カラン(『ストーン』)
出演:ミア・ワシコウスカ(『アリス・イン・ワンダーランド』『イノセント・ガーデン』)、アダム・ドライバー(『フランシス・ハ』)、ライナー・ボック
配給:ブロードメディア・スタジオ
公開:7月18日より有楽町スバル座、新宿武蔵野館


どこにいても、自分の居場所がわからない人がいる。
いや、誰でも人生にそんな“とき”がある。
そんなとき、人はどうするのだろう。都会で孤独に生きるのか、
それともそもそも人がいない場所に行くのか。
人が嫌いな訳ではない。傷つけたい訳ではない。
ただ、うまくやって行けないだけだ。
この映画の主人公、ロビン・デヴィッドソンも
そんな女性に見える。オーストラリアのど真ん中、
アリス・スプリングスにやって来る前から、
彼女はそんな人生を送って来たのだろう。

1975年、アリス・スプリングスにひとりの女性がやってきた。
愛犬ディギティを連れたロビンは、ここから乾燥した砂漠地帯を
西へ徒歩で向かい、インド洋に達するという夢を叶えるため、
ラクダを手に入れようと努力する。
旅のメドがついたロビンは、ナショナル・ジオグラフィック誌からも援助を受けることに成功。
その条件として旅の途中に、リックというカメラマンに何度か写真を撮らせることに。
1977年、4頭のラクダと愛犬を連れてロビンはついに出発する。

時おり挟まれる回想シーンから、
彼女は帰るべき家がないことが見えて来る。
家といっても現在の家ではなく、
心の中にある自分の原風景とでもいう過去の家だ。
そして彼女が絆を確かめたいのも、現在の父ではなく、
記憶の中の過去の父だ。
それを叶えるためにか、ロビンはラクダを連れて旅に出る。

旅に出るまでを比較的丁寧に描くことにより、ラクダと犬を連れた旅が、当初考えていた冒険とはほど遠いものであることがロビンにもわかってくる。
まったく人気のない荒野だけではない。
29日目にエアーズロックにたどり着くが、そこは“国立公園”と
して囲われていて、ラクダ連れだと入れてくれない。
彼女は1か月近く歩いて来ても、エアーズロックのそばに近づくこともできない。
そして観光客のぶしつけな視線を浴びる。
ナショナル・ジオグラフィックからの資金提供の見返りに
撮影を許した彼女だが、カメラマンはポーズを要求する。
そして旅は単調だ。
1日32キロ。
ほとんどが何も起こらない、冒険とはほど遠い毎日だ。
逆に“冒険”になってしまうのは、自分が何かしくじった時なのだ。

映画は彼女の旅をなぞるので、かなり淡々と進む。
一番のハラハラが、落としたコンパスを拾いに戻り、
自分のいる位置がわからなくなってしまうシーンだ。
360度見回しても目印になるようなものは何もない
荷物を積んだラクダに戻ることができなければ、死んでしまう。
以前、自分が熱帯のジャングルに行った時、
恐いのは用を足しに茂みに分け入った時に、
来た道に戻れなくなることだった。
目をつぶってくるくる回転したら、もう方向がわからなくなる。
このオーストラリアの土漠もそんな感じだ。

誰もいない荒野だが、時おり車が走るのか道があったり、
アボリジニの村があったりと完全に文明から遠い訳ではない。
逆にそれが孤独を感じさせる要素でもある
道を通る車とすれ違えば観光客がカメラを向ける。
人と接することで、余計に孤独が強まることもあるのだ。

映画は、とくにこの旅が何だったかという
明快な落としどころは用意しない。
その結果は、旅を終えたロビンの心の中にある。
その点が物足りないといえば物足りないが、
簡単に結論を出して感動を示すことは避けたかったのだろう。
空撮を含むオーストラリアの自然と、
ミア・ワシコウスカの好演が印象に残る。
ミアはときどきジュディ・フォスターそっくりだと感じるところがあった。
(★★★)

●映画の背景

映画の主人公でもあるロビン・デヴッドソンが旅を始めたのは1977年4月9日のこと。195日後に西海岸に到達した。彼女が1981年に出した回顧録「TRACKS」はベストセラーになり、オーストラリアなどでは教材にもなっている。

(旅行人のWEBサイト「旅シネ」に寄稿したものを転載しました)
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by mahaera | 2015-06-18 15:25 | 映画のはなし | Comments(0)
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