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旅行・映画ライター前原利行の徒然日記

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最新映画レビュー『チャイルド44 森に消えた子供たち』ドラマがインパクト大で謎解きが付け足しのよう

チャイルド44 森に消えた子供たち
Child 44

人間性を殺す、過酷なスターリン体制下のソ連。そこで起きた連続殺人事件の真相は?

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2015年/アメリカ

監督:ダニエル・エスピノーサ(『デンジャラス・ラン』)
出演:トム・ハーディ(『マッドマックス 怒りのデスロード』『ダークナイト ライジング』)、ゲイリー・オールドマン(『裏切りのサーカス』)、ノオミ・ラパス(『プロメテウス』)、ジョエル・キナマン(『ロボコップ』)、ヴァンサン・カッセル(『ブラック・スワン』)
配給:ギャガ
公開:7月3日より全国ロードショー



僕は知らなかったが、このトム・ロブ・スミスの原作小説
「チャイルド44」
は、日本では2009年に「このミステリーがすごい」海外編で第1位に選ばれたという。
なので、映画になる前から楽しみにしていたミステリーファンも多いに違いない。
出版前にこの作品を気に入ったリドリー・スコットは、
当初自分が監督するつもりで映画化権を手に入れたという。
しかし、自分は製作に回り、監督にはスウェーデン映画史上
最大のヒット作となった『イージーマネー』(2010)のダニエル・エスピノーサを起用することにする。エスピノーサは『イージーマネー』の後、ハリウッドに招かれて、
デンゼル・ワシントン主演の『デンジャラス・ラン』で大ヒットを飛ばす。

1953年のスターリン体制下のモスクワ。
かつての戦争の英雄で、いまは国家保安省で働くレオの仕事は、反体制派を取り締まること。
エリート捜査官として出世街道を歩んでいたレオだったが、
ある日、レオの部下であるアレクセイの息子の遺体が発見される。
明らかに殺人だったが、“犯罪は資本主義の病。理想国家で殺人はあり得ない”と上司の命令で事故扱いに。
その後、レオはスパイ容疑をかけられた妻ライーサをかばい、地方に左遷されてしまう。
そこでレオは、アレクセイの息子と同じ手口で殺された子供の遺体に出合う。付近に川はないのに溺死し、臓器の一部が抜き取られていたのだ。
表立って捜査をすることは、国家に反逆すること。
レオは密かに捜査を始めるが、同じ手口で殺された子供は、他に43人もいた。

この映画のモデルとなった「チカチーロ連続殺人事件」は、実際に旧ソ連で起こった事件だ。ただし時代はスターリン政権下ではなく、もっと後。
1978年から1990年にかけてと新しい。
その間にチカチーロは52人の女子供を殺し
当局に何度もマークされながらも殺人を続けた。
チカチーロの事件はとても有名なので、詳しくはウィキなどで読んで欲しいが、かつてのソ連では「この種の犯罪は資本主義の病理」ということで、取り上げられることはなかった。
また、被害がソ連各地に及んでいたので同一犯と認識されず、民警の捜査も杜撰だった。しかし、ゴルバチョフ体制になり情報公開が進んだことやKGBが捜査に加わったことにより、彼の犯罪が明るみに出た。

映画(原作)では、時代を25年ほど昔のスターリン体制に設定し、連続殺人事件を盛込みながらも、その当時の人々がどのように生きていたかを克明に描こうとしている。
真に恐ろしいのは連続殺人鬼ではなく、国家システムだ。
主人公、レオは国家保安省の取締官。
彼自身は一般犯罪を調べる職務ではなく、国家に反抗する
“裏切り者”を調べあげる組織に属している。
何かのまちがいでも“裏切り者”のリストに上ってしまったら、
それを撤回することはできない
。リストにあるから無実であるはずがない。
どうあがこうとも、結果は決まっている。
まるで『未来世紀ブラジル』だ。
明らかに殺された人間がいても「犯罪はない」とする一方、
何も犯罪を犯してない人を拷問して殺す。
そこにあるのはシステムだけで、人間はそのパーツにすぎない。

映画の前半は、このシステム側だった主人公がそこから追い落とされて地方に送られるまでを描く。
途中、何度も「あれ? 連続殺人事件は?」と思うが、後半になって主人公が地方の民警に配属されてから、ようやく犯人を追い出すのだ。
しかも主人公が捜査を始めても、彼を憎むかつての部下がいろいろと嫌がらせをしてきたりと、なかなか犯人探しには話は進まない
むしろそっちは重要じゃないのかなと思うと、犯人が出てきたりと、どっちつかずの感じがしてしまう。
息をのむのはソ連の密告社会の冷徹さだが、
これがとくに犯人とリンクしているようには思えないからだ。
どうも犯人と犯人が犯す殺人は、主人公たちとの葛藤とはうまく結びついていない。
この感じは、『ミレニアム ドラゴンタトゥーの女』の謎解きが、いまいちな感じによく似ている。あれだって謎解き以外のほうが面白かったし。

それでも映画でもっとも力を入れて描いている、
主人公の価値観やそれまで信じていたことが崩れて行く中盤は、
全体国家ソ連の怖さがよく出ている。
ダニエル・エスピノーサの演出は地味ながらもしっかりとしていて、
ずいぶんと丁寧に描いている。
密告国家とは、どんな世界かを知るのには、いい作品だと思う。(★★★)

旅行人のWEBたびナレに寄稿したものを転載しました
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by mahaera | 2015-07-04 12:57 | 映画のはなし | Comments(0)
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