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旅行・映画ライター前原利行の徒然日記

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新作映画レビュー『独裁者と小さな孫』 独裁者が治める架空の国の崩壊を寓話的に描く

独裁者と小さな孫
The President
2014年/ジョージア、フランス、イギリス、ドイツ

監督:モフセン・マフマルバフ(『カンダハール』『パンと植木鉢』)
出演:ミシャ・ゴミアシュウィリ(『5デイズ』)、ダチ・オルウェラシュウィリ
配給:シンカ
上映時間:119分
公開:12月12日より新宿武蔵野館にて
公式ページ: http://dokusaisha.jp/


●ストーリー

独裁者の大統領が支配する小国があった。大統領は反対派を武力で押さえ込み、貧しい国民の生活を尻目に自分とその家族は、贅沢な暮らしをしていた。しかしある日、クーデターが起き、大統領とその幼い孫は脱出に失敗する。見つかれば国民に殺されると、大統領は孫と共に国内で逃亡を続ける。しかしそこで二人が目にしたものは、混乱と暴力が支配する世界だった。

●レヴュー

イランの映画監督モフセン・マフマルバフは、1990年代においては世界でもっとも重要な監督のひとりだった。日本では『カンダハール』がよく知られているが、最高傑作は『パンと植木鉢』(1996)。これはマフマルバフが若い頃、革命運動に参加し、警官を刺して逮捕された事件を、俳優や実際の当事者たちによった再現したメタ構造の作品。自分が参加した“熱狂”を客観的にみようという試みでもあった(すでにこの時に暴力による解決にNOを突きつけている)。ところが、2000年代以降はあまり作品を発表しなくなってくる。どうしたのかなと思っていたら、実はイラン本国では映画が撮れなくなり、ヨーロッパで亡命生活を送っているとのことだった。かつては「イランの国民的映画監督」と呼ばれ、大人気だった彼でもイランには住めなくなったのだ。そんな彼の新作が久々に届けられた。

新作『独裁者と小さな孫』は、そんな彼の“想い”も詰まった、“いま”の世界を映し出した寓話だ。舞台は架空の国(ロケはジョージアのトビリシやその周辺)だが、独裁者が支配するどの国にもあてはまるだろう。人々を圧政で弾圧した大統領は、他の国の独裁者と同様、人々の怒りが爆発するまで、革命が迫っていることに気がつかない。大統領の宮殿や身辺が戯画的に描かれているのはいかにもマフマルバフ監督らしいが、その後の町なかで大統領の乗った車が民衆に襲われるモブシーンは、今までの彼の作品になかったようなリアル指向の迫力だ。そして部下に逃げられた大統領は、生きるために変装し、孫と共に国内を逃げ回ることになる。

それまで人々をさんざん苦しめていた大統領だが、小さな孫の前ではただの“おじいちゃん”である。そしてこの孫は、独裁者になる前の、かつての無垢な時代の大統領の姿だ。この大統領、世間一般では極悪人なのだろうが、かつてはそれなりの理想を持っていたのだろう。しかし権力を手にしたあとは、それを守るために多くのことを封じ込めた。それを世の中を目にした孫が、「どうして」「なぜ」と問いかけてくることによって思い出して行くのだ。

大統領と孫が逃亡中の国内で目にするのは、大統領が国民にしてきた暴力が、ウィルスのように国内に蔓延してしまった世界だ。革命は権力者を倒したその暴力を、今度は国民に向かって向ける。無秩序の中で略奪や虐殺が次々と行われて行く。しかし、その暴力のもとを作ったのは、大統領なのだ。独裁者を殺せば、平和な社会が生まれるのか。暴力の連鎖を断ち切るにはどうしたらいいか。その答えを出すのが難しいのは、この数十年で倒れた独裁国家のその後に混迷を見ればわかるだろう。しかし、自分の運命は誰かに任せるのではなく、それぞれが考えていかねばならない。本作がマフマルバフの過去作に比べて多少歯切れが悪く感じるのは、そうした、「解決していない問題」だからかもしれない。(★★★☆

●関連情報

2014年の東京フィルメックスで観客賞を受賞。

旅行人のWEBサイト、旅行人シネマ倶楽部に寄稿したものを転載しました
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by mahaera | 2015-12-08 11:02 | 映画のはなし | Comments(0)
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