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旅行・映画ライター前原利行の徒然日記

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最新映画レビュー 『ソング・オブ・ラホール』 パキスタンの伝統音楽は世界に通用するのか!

ソング・オブ・ラホール
Song of Lahore

2015年/アメリカ

監督:シャルミーン・ウベード=チナーイ、アンディ・ショーケン
出演:サッチャル・ジャズ・アンサンブル、ジャズ・アット・リンカーン・センター・オーケストラ、ウィントン・マルサリス
配給:サンリス、ユーロスペース
公開:8月13日よりユーロスペースにて公開中
公式HP: senlis.co.jp/song-of-lahore/


20年ほど前にパキスタンのラホールに行ったことがある。
バックパッカーで世界を回っていた頃のこと。
当時はパッカーの間では「ラホールの泥棒宿」の話は有名で、
僕はちょこっと滞在しただけで、インドへすぐに国境を越えた。
惜しいことをした。

ラホールは今はパキスタンの都市だが、ムガル帝国時代はデリー、アグラと並ぶ帝国三大都市のひとつで、
英領インド時代にはパンジャーブ地方の中心都市だった。
インドとパキスタンが分離独立するまでは、かつての宮廷文化の名残で、ラホールには多くの楽士が住んでいたという。
パキスタン独立後も、映画産業の伸びとともに音楽家の需要は増えていた。
しかし、それが大きく変わったのは、近年の事。
イスラーム原理主義の浸透により、娯楽としての音楽は肩身が狭いものになっていった。

そんな風潮の中、危機に瀕している伝統音楽を救おうと、
一人の実業家が音楽家たちを集めて“サッチャル・ジャズ・アンサンブル”を結成。
古典楽器を使って「テイクファイブ」を演奏する彼らの姿がYouTubeで世界に流れ、
やがて彼らは、世界最高峰のジャズミュージシャンである
ウィントン・マルサリスからニューヨークに招かれる。
ウイントン率いるビッグバンドとの共演だ。
ニューヨークに着いてリハーサルを始めた彼ら。
しかしそこには、大きな壁が立ち塞がっていた。

最近はニュースで解説もよく流れるからご存知だと思うが、
イスラーム教には、多数派のスンナ派と少数派のシーア派がいる。
両者の教義の違いは自分で調べていただくとして、
シーア派が多いのはイランとイラクと知っている方はいると思うが、実はインド亜大陸にも少数だがシーア派の人たちがいる
例えばインドではラクナウの藩王はシーア派だったので、
町で一番盛大なモスクはシーア派の建築だし、
バングラデシュのダッカでも、シーア派のモスクがある。
サッチャル・ジャズ・アンサンブルの中でも、
おそらく最も実力のあるミュージシャンで
バーンスリー奏者のバーキル・アバースがカメラの前で、
人にわからないように防音の効いた部屋で、練習しなければならないことを語った時に、
音楽家という下に見られるカーストとというだけでなく、
さらに自分は少数派のシーア派で、パキスタンの中では
二重に肩身の狭い思いをしなければならないと語っていたのに、
驚いた。
パキスタンはイスラムなのでカーストはないのかという先入観があったが、調べてみると、身分制度はちゃんとあるらしい。これはイスラムというより、インド亜大陸の習慣なんだな。

さて、映画について。
前半の成功物語の部分は、苦労があってもそのあとに成功が
待っていることを知っているので、ちょっと気楽に見ていられるのだが、そんなこちらの気楽な気分を凍りつかせるのが、
ニューヨークに着いてからのリハーサルシーン。
半ば浮かれ気分で、観光さえ楽しんでいたメンバーたちだが、
ウイントンの楽団のリハーサルで、世界トップレベルのジャズメンたちの高い壁に当たり、
また、音楽の進め方の流儀の違いに戸惑う。
リハで曲のキーが変わり、サッチャルのミュージシャンが
対応できなくなってしまう
ところだ。
まちがいなく本作のハイライトとなる大ピンチ
もうあの時のメンバーたちの緊張の顔、そしてウイントンたちをまともに見られない気まずさ。

ちょうど僕のバンド仲間と試写に行ったのだが、見終わった後で、
「あのシーンは、自分も何度も夢で見てうなされたのと同じだよね」とお互いに言った。
楽器をやっている人の方がわかりやすいと思うのだが、
打楽器の人たちは、最初こそ戸惑うものの、
勝手がつかめれば、うまくビッグバンドに入り込める。
また、先に書いたバーンスリー奏者のバーキルは、単音楽器というのと、ビックバンドの人たちが微笑むほどうまいので、問題ない。
しかしシタールは、楽器の性質上、ドローンを鳴らしていることもあるので、
チューニングが難しいんだろう(シタールをしたことがないので詳しくはわからないが)。それでも不可能とわけではなく、やはりこのシタール奏者(YouTubeの人とは別人)のレベルが合わなかったのだろう。
いや、あれが自分だったら、本当に辛いなあ〜。

単なる感想になってしまったが、でも自分の親戚とか知り合いが、
出ているような親近感を持って見てしまうのだよ。最後には。
by mahaera | 2016-08-16 23:44 | 映画のはなし | Comments(0)
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