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旅行・映画ライター前原利行の徒然日記

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最新映画レビュー 『ホームレス ニューヨークと寝た男』 明るいだけのドキュメンタリーではありません

ホームレス ニューヨークと寝た男
Homme Less
2014年/オーストリア、アメリカ

監督:トーマス・ヴィルテンゾーン
出演:マーク・レイ
配給:ミモザフィルムズ
公開:2017年1月28日よりヒューマントラストシネマ渋谷ほかにて公開中


夢を追い続ける
ってどういうことだろう? 
子供のころに読んだ「アリとキリギリス」を思い出した。
子供のころは、「遊んでばかりいると惨めになるよ。
まじめに働けば幸せになるよ」
という話だと思っていた。
大人になってみれば、童話だけあっていろいろに解釈ができる。
芸術家のように自分の好きなことをしている人間は後で後悔する。
個をなくして社会の歯車になれば、幸せな老後が待っているという、全体主義のプロパガンダにも読める。
ナチスとかスターリンとか。

最初に予告編をみれば、このドキュメンタリーの
アウトラインはわかるだろう。
カメラが追うマークは、デザイナーズスーツを着こなす
ロマンスグレーのナイスミドル(53歳)。
元モデルだけあってカッコいい。
職業はフリーランスのファッション写真家。
街で見かけたモデルの写真を撮り、雑誌に売り込んでいる。
役者としても登録していて、たまに映画のチョイ役に出演。
しかし彼に家はない。
数年前からビルの屋上で、寝袋にくるまって生活しているのだ。
荷物はスポーツジムのロッカー4つ分。
ジムでシャワーを浴び、洗濯。
夜はカフェをハシゴし、パソコン仕事だ。

見た目はリッチそうで、人生の勝ち組にしか見えないマーク。
誰も彼がホームレスだとは思わないだろう。
私たちがイメージする“ホームレス”と違い、彼の1日は忙しい。
朝は公園のトイレで、パリッとスーツに着替えて身支度し、
街中やファッションショー、ビーチなどに撮影に行く。
夜は深夜まで、カフェで写真のチェックに余念がない。
ビルの屋上に戻って寝るのは、夜の2時だ。
その日課は忙しいフリーランサーと大して変わらない。
家がないことを除けば。

映画の前半は、そんな彼の日々をカメラが追う。
ちなみに監督・撮影はマークの過去のモデル友達だ。
予告編にあるように、忙しそうに行動しているマークを見て、
「これは“持たない”を選択した、ちょっとカッコイイ生き方?」
と納得しかけた頃に、マークの本音が出てくる。
彼だって、こんな生活がいいなんて思ってはいないのだ。
彼だって部屋があり、彼女がいる生活を望んでいる。
しかし、現在のファッションフォトグラファーだけでは、
とうていニューヨークのアパルトマンに部屋を借りるほど
の収入があるわけではない。
かといって、自分が親しんだファッション業界から
離れる決意もつかない。

僕は、これは
「ニューヨークという金のかかる美女に惚れてしまい、
その生活を続けるために無理している男」

の話のようにも見えてしまった。
少数の者にしか振り向いてくれない、高みにいる女。
それがニューヨークだ。
そして、先の「アリとキリギリス」の話も。
僕もマークとほぼ同じ歳だ。
だから人生も半分を過ぎると、果たせなかった“自分の夢”に対する折り合いをつけなくてはならないことはよくわかっている。
夏は終わり、秋もそろそろ終盤。
この先には人生の冬が待っている。
アリさんのように蓄えがあるわけではない。
キリギリスを選んだ人生を後悔してるわけではない。
もう一度人生があっても、アリではなくキリギリスを選ぶだろう
たぶんキリギリスとして生きている人は、みなそうじゃないか。
ただし、成功したキリギリスになれなかったことが残念だけで。

マークはまだ夢を追っている。
そして「どうしたらいい」という彼の迷いは、
キリギリスの道を選んだ人たちの悩みでもあるのだ。
だから、このドキュメンタリーを見ても、アリを選んだ人たちとキリギリスを選んだ人たちでは、感じ方は全く違うだろうな。
★★★☆

この記事は、旅行人のWEB「旅行人シネマ倶楽部」に寄稿したものを転載しました。
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by mahaera | 2017-02-02 11:26 | 映画のはなし | Comments(0)
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