(写真)中米のマナグアのアカウアリンカ遺跡にある、6000年前(前4000年)とされる人類の足跡。時代はずっと下るが、大昔から人類は徒歩で世界に拡散していった。
ホモ・サピエンス、世界を見る
猿人や原人は舟を作る技術はなかった。
オーストラリアに渡るには、途中、海を80kmほど越えなくてはならなかったが、その頃にはカヌーなどの簡単な舟を操れるほどの技術はあったのだろう。
ホモ・サピエンスがオーストラリアに上陸した時、
そこは大型動物の宝庫だったが、大殺戮の後、
オセアニアにいた大型のトカゲや飛べない鳥は絶滅してしまう。
一方、アジアを北上していったグループは、やがてベーリング陸橋を徒歩で渡り、約1万5000〜3000年前にアメリカ大陸へ上陸する。
このころにはすでにアジア方面に進出していた
ホモ・サピエンスは、モンゴロイド系の外観を
持っていたようだ。アジアにいた旧人のデニソワ人と
多少の混血はあったのかもしれない。
アメリカ大陸に入り、動物を追って進む彼らのスピードは速く、
わずか3000年(1万2000年前)で、
南米南端のフエゴ島にまで到達する。
前回述べた「ボトルネック効果」で、ホモ・サピエンスの遺伝的多様性は狭まっていたが、さらにその中の少数のグループがアメリカ大陸に渡り(数百家族だったのかもしれない)、それが1万5000年かけて数千万人に増えたようだ。
その証拠というわけではないが、ネイティブアメリカンは血液型がほぼ全員がO型という。アメリカに渡ったグループにO型が多かったためだろう。
ネアンデルタール人との交配はあった?
さて、7万前から1万年前にかけて
ホモ・サピエンスが世界中に拡散していく間、
世界各地には先行して渡っていた原人の末裔や
ネアンデルタール人(西アジアからヨーロッパ)、
デニソワ人(ロシア〜東アジア)も並行して暮らしていた。
異なる種の人類が同時代に生きていたのだ。
しかし次第にホモ・サピエンス以外は劣勢になっていき、
ネアンデルタール人は3〜2万年前に絶滅してしまう。
ホモ・サピエンスによる虐殺があったのか、
単に彼らが生存競争に負けたのかははっきりしない。
種としてはホモ・サピエンスとは別種なので交配はなかったという説が長らく定説だったが、遺伝子研究が進み、2016年に現在の人類のDNAの中にネアンデルタール人のものが1〜4%ほど含まれているという研究発表がされた。
逆に、サハラ以南の人々には、ネアンデルタール人の
DNAはまったく含まれていなかったという。
それが正しければ、ホモ・サピエンスはアフリカを出てまもなく、西アジアでネアンデルタール人と交配し、その子孫が世界に拡散したことになる。
つまり、現在、アフリカのサハラ以南に住む人々は、
100%原ホモ・サピエンスの血を最も強く受け継いでいる人々と言っていいだろう。
ちなみに日本人は、平均して2%ほどネアンデルタール人のDNAが残っているそうである。
一方、デニソワ人は2008年にシベリアで発見され、
2010年に未発見だった旧人のグループだと発表されたばかりなので、これからの研究が待たれるところ。
研究では、漢人、チベット人、メラネシア人などにそのDNAが含まれているそうだ。
やはりホモ・サピエンスと交配したのだろうと推測されている。
(写真)ホモ・フロレンシアスの頭骨の化石のレプリカ(インドネシア國立博物館/ジャカルタ)
熱帯のホビット
2003年、インドネシアのフローレス島で、原人の子孫と推測される化石が見つかった。
「ホモ・フロレシエンエス」と名付けられたこの種が生きていたのは、5万年前。
すでにこの地域にはホモ・サピエンスが進出していたが、
それとは異なる人々で、大人でも身長は約1mしかない。
ちょうどこの発見の頃、ヒットしていた映画に
ちなんで「ホビット」という愛称も付けられた。
島に孤立して暮らすうちに矮小化していったのではないかと推測されているが、まだ研究が進んでいる最中だ。
彼らは島にいた小型のゾウなどを狩って暮らしていたようだ。
大型哺乳類の絶滅
ホモ・サピエンスが世界に拡散していった時代
(7万年前〜1万年前)に絶滅したのは、
ホモ・サピエンス以外の人類だけではなかった。
それまで生きていた大型哺乳類の多くが消えたのだ。
これは「第四紀の大量絶滅」として知られるもので、
ゾウ類ではマンモスを筆頭に、マストドンやステゴドン、
デイノテリウムなどが滅んだ。
少なくともマンモスは、数千年前まではまだ生息しており、人間の狩りの対象になっていたことは知られている。
生きていたらと想像が膨らむのが、
南米にいた6〜8mという巨大ナマケモノのメガテリウムと、
3mの巨大アルマジロのグリプトドンだ。
これらのアメリカ大陸にいた大型獣は、
人がアメリカ大輪に到達して以降、滅んだ。
ウォーレス線を越えたオセアニアへは海が行く手を阻み、
哺乳類が陸路で到達できなかったため(ネズミとコウモリを除く)、3mもある巨大ウォンバットのディプロトドン、
2mの巨大カンガルーのプロコプトドンなどの有袋類が繁栄していたが、ホモ・サピエンスの到達以降、それらは絶滅した。
他にも、ライオンもトラもトカゲももっと巨大な種がいたが、たいてい1万年前までには絶滅している。
それらすべて人類によるものなのかは、はっきりしないが、気候の変動など、様々な要素が組み合わったものかもしれない。
それにしても、今生きていたらと、見れないのが残念だ。