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旅行・映画ライター前原利行の徒然日記

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カテゴリ:映画のはなし( 456 )

最新映画レビュー『汚れたミルク あるセールスマンの告発』 不適切な粉ミルクの使用から起きた実話の事件

汚れたミルク あるセールスマンの告発
Tigers
2014年/インド、フランス、イギリス

監督:ダニス・タノヴィッチ
出演:イムラン・ハシュミ、ギータンジャリ、ダニー・ヒューストン、カーリド・アブダッラー
配給:ビターズエンド
公開:3月4日より新宿シネマカリテほかにて上映中
公式HP:www.bitters.co.jp/tanovic/milk.html


今や、完全母乳で赤ちゃんを育てる家庭はそう多くはなく、
たいていの家庭なら粉ミルクを子供に飲ませた経験があるだろう。
日本ではだから「粉ミルク」が問題になるとは、誰も思わない。
しかし国や地域が変わればそうはいかない。
もし粉ミルクを溶かす水が、十分に殺菌されていない、
汚染されている水だったら?
生まれたばかりの赤ちゃんは、
まず“母乳”で免疫力をつけるといわれている。
そしてまだ免疫力があまりついていない赤ちゃんが、
雑菌で汚染された水で溶かされた粉ミルクで育てられたら?

結婚したばかりの薬の営業マンのアヤンは、
幸運にも多国籍企業のラスタ社への転職に成功する。
ラスタ社が製造する粉ミルクの営業担当になったアヤンは、
上司からの豊富な資金を利用して、
決定権のある医師や薬局にうまく取り入っていく。
1997年、順風満帆だったアヤンだが、粉ミルクの不適切な使用で
多くの乳児が命を落としていることを知り、ショックを受ける。
自分が良かれと思って売っていた粉ミルクによって、
結果的に子供達が死んでいたのだ。
アヤンは仕事を辞め、企業を告発しようとするが、
そこには多くの障害があった…。

この映画の監督は、ボスニアの内戦を描いた
『ノーマンズ・ランド』でアカデミー外国語映画賞を受賞した、
ボスニア出身のダニス・タノヴィッチ
そんな彼が本作で選んだ題材の場所は、
ヨーロッパではなくパキスタンで実際に起きた事件だった。

まず、誤解なきよう。粉ミルク自体が、
赤ちゃんに害を与えるものではない。
しかし問題は、水道をひねれば消毒された水が飲めるという
先進国では当たり前のことが、
途上国ではそうではないということを知りつつ、
感染のリスクを周知させることなく販売したということだ。
主人公である営業熱心なアヤンは、「そういうものだ」と
教えられ、病院や薬局で力ある人たちに付け届けを送る。
今は知らないが、日本でも前はまったく同じことをやっていた。
自分が扱っている薬を、
その薬局で取り扱ってもらえれば利益が大きい。
なのでとにかく足で通って、情やあるいは“贈り物”で、
その商品を扱ってもらうようにしていた。
ここでは医師がすすめる粉ミルクなので、
当然出産後の母親はそれを購入して使うようになる。
しかし加熱、沸騰した水ではなく、
またミネラルウォーターのボトル水でもない。
パキスタンに限らないが、
途上国の上水は飲料に適していないところがある。
また、地域によっては井戸水を使っているところもあるだろう。
大人が飲んでも、まあ大丈夫程度の水でも、赤ちゃんは違う

もちろん、その結果、赤ちゃんが死んでも
粉ミルク自体のせいではない。
ただ問題は、そうした事件が起こっているのを知りながら、
企業が何ら注意喚起をもとめることもせず、またそれを放置して製品を売り続けたこと
だ。
そして、それが裁判沙汰になっても、
「下の人間が勝手にやったことで、組織ぐるみではない」と、
責任を回避する。
しかしそれは企業倫理に照らしてどうなのか。
法さえ犯していなければ、子供が死のうが
それは“自己責任”として「関係ない」のか。

この映画にひねりがあるのは、この大企業(ネスレ)から、
名誉毀損で訴えられる可能性があり、
裁判でも負ける可能性があるので、
ドキュメンタリーや再現ドラマというわけでなく、
この事件を取材してテレビ番組を作ろうとするスタッフが、
主人公であるアヤンに話を聞くという体をとっている。
そこでアヤンの証言自体の真偽が問われることがあり、
企業と食い違いがあって
証明できないものは、そのまま見せている。
判断は観客に任せているのだ。

ドキュメンタリーの製作会議に、法的に問題ないか弁護士がつくのも、ちょっと驚いた。

当然ながら本作はパキスタンで撮影できず
(大企業と政府はつながっているので)、インドで撮影
製作にインド資本も入っており、インド人のイムラン・ハシュミが主人公を演じている。
★★★

この記事は、旅行人のWEB「旅行人シネマ倶楽部」に寄稿したものを転載しました
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by mahaera | 2017-03-25 13:40 | 映画のはなし | Comments(0)

最新映画レビュー『ヨーヨー・マと旅するシルクロード』 異文化から生まれる音楽が伝えるメッセージ

ヨーヨー・マと旅するシルクロード
The Music of Strangers

2015年/アメリカ

監督:モーガン・ネヴィル(『バックコーラスの歌姫たち』)
出演:ヨーヨー・マ、ウー・マン、ケイハン・カルホール、クリスティーナ・パト、キナン・アズメ
配給:コムストック・グループ
公開:3月4日よりBunkamura ル・シネマほかにて公開中
公式HP:yoyomasilkroad.com/


「クラシックには興味ないよ」という人でも見て欲しい。
邦題にはヨーヨー・マの名が入っているが、
これはクラシック音楽の映画ではない。
世界のどこにでもある(あった)音楽でもあるし、
もしかしたら私たちが生きている間に
無くなる音楽
かもしれない。

ヨーヨー・マの名前は、クラシックファンでなくとも
聞いたことがあるだろう。
中国系だがパリ生まれニューヨーク育ちという、
複雑なアイデンティティーを持ち、
世界的なチェロ奏者に上り詰めた。
そんな彼がクラシック一辺倒でなくなったのは、1980年代に
アフリカでブッシュマンの音楽に触れたことからだという。
それから他ジャンルの音楽を意識するようになり、
2000年に世界各地の音楽家を集めワークショップを行う。
そこから始まったのが、「シルクロードプロジェクト」だ。

多国籍多人数からなる楽団を率い、
ヨーヨー・マは世界を回るようになる。
本作は、その活動を映したドキュメンタリーだが、
ヨーヨー以外におもに4人のミュージシャンにも焦点が当てられる。
イラン出身のケマンチェ奏者ケイハン、
シリア出身のクラリネット奏者キナン、
スペインのガリシア出身のバクパイプ奏者クリスティーナ、
中国出身の琵琶奏者ウー
だ。
それぞれの音楽的なバックボーンと現在に至るまでの道のりが示されるが、決して楽な道ではなく、それが今も続いている人もいる。
故郷で音楽を禁止されたもの、故郷を戦争で失ったもの、
故郷では他ジャンルの音楽との混淆を快く思われないもの、
外国暮らしが長いので故郷ではよそ者として扱われるもの…。
彼らの音楽の背景には、自分が故郷で培った
アイデンティーがあり、物語がある。

そして演奏が始まれば、そうしたものが一体化して、
すばらしい演奏がくりひろげられる。


現在、世界中で他者に対する排他的な方向へ
向かう不穏な空気があるが、
つくづく音楽、あるいは芸術を目指すものは
それとは逆の方を向いているのだなあと思う。
音楽の対極にあるのが、「戦争」だとも。

監督は『バックコーラスの歌姫たち』の人で、
あのドキュメンタリーもすばらしかったが、
本作もそれに負けず踊らず、すばらしい出来に
仕上がっている。
おすすめです!
★★★☆

この記事は、WEB旅行人シネマ倶楽部に寄稿したものを転載しました
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by mahaera | 2017-03-22 11:33 | 映画のはなし | Comments(0)

最新映画レビュー『ボヤージュ・オブ・タイム』 いつものマリック節が今度はドキュメンタリーで

ボヤージュ・オブ・タイム
Voyage of Time: Life's Journey

2016年/フランス、ドイツ、アメリカ

監督:テレンス・マリック
語り:ケイト・ブランシェット
配給:ギャガ
公開:3月10日よりTOHOシネマズ シャンテにて公開中


『ツリー・オブ・ライフ』以降のテレンス・マリック作品は、
すべて同じとも言える。
美しい映像の中で、自分の存在意義を問いかける
主人公のモノローグが全編を支配する。
本作はそれを劇映画ではなく、
ドキュメンタリーとして形にしたもの。
まず、キューブリックの『2001年宇宙の旅』のラストのように、
ビッグバンから宇宙が始まり、
惑星が形成されていく様子が描かれていく。
惑星のうちの一つに地球があり、海に初めての生命が誕生する。
人間の登場、そして現代に至るまでの50億年の歴史を、今も地球の何処かに残る原初の風景と、CGIなどによってたどる90分だ。

とはいえ、ヒストリーチャンネルとどこが違うかというと、
解説はなく、そこにかぶるのはケイト・ブランシェットによる、
哲学的な内容のモノローグだ。
映像は美しいのだが、それだけでもたせるには
長編映画は長すぎる。
しかし、モノローグというか、この語りは
少しも具体的な話ではないので、眠さはぬぐえない(笑) 
商業的なエンタテインメントとは無縁なのだ。
ある意味、お金のかかった実験映画ともプライベートフィルムといえるが、僕も途中で夢うつつになってしまった。家でぼーっとDVDか何かで見るならいいのかもしれないけれど。
★★
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by mahaera | 2017-03-21 13:30 | 映画のはなし | Comments(0)

最新映画レビュー『マン・ダウン 戦士の約束』、『アサシン クリード』 新橋文化で2本立てで観たい

マン・ダウン 戦士の約束
Man Down
2015年/アメリカ

監督:ディート・モンティエル
出演:シャイア・ラブーフ、ケイト・マーラ、ジェイ・コートニー、ゲイリー・オールドマン
配給:アルバトロス・フィルムス、クロック・ワークス
公開:2017年2月25日より新宿武蔵野館にて上映中


一時期は「スピルバーグの秘蔵っ子」として、
『インディ・ジョーンズ/クリスタル・スカルの王国』
『イーグル・アイ』『トランスフォーマー』シリーズなどの主演を
務めていたシャイア・ラブーフだが、次第に奇行が目立ち、
近年は仕事が激減

なんで2014年の『フューリー』で見たときはしばらくぶりに感じ、「大人になったな」と思った(いい演技だった)。
本作はそんなラブーフ久々の主演作品だが、B級テイストが高く、
これぞ今は亡き新橋文化の二本立てで見たかったような作品。

アフガニスタンから友人のデビンと共に帰還した復員兵のガブリエル(ラブーフ)だが、なぜか街は荒廃し、妻子はいなくなっていた。妻子を探し求めるガブリエルの姿に過去の彼の回想がかぶる。
厳しい訓練に耐え、愛する妻子を残して
アフガニスタンに向かうガブリエル。
数々の任務をこなすが、作戦中にある“事故”が起きる。

人がない荒廃した街。
SF映画かゾンビ映画かと思うような光景だが、
映画を見ているうちにこれは彼の心象風景であることがわかる。
つまり、『アメリカン・スナイパー』のようにPTSD
(心的外傷後ストレス障害)の兵士を描いた映画なのだ。
イラクやアフガニスタンからの復員兵の5人に1人が
PTSDになっているという。
という社会派映画でもあるのだが、
あくまでそれも娯楽作品の範疇で作られており、
また登場人物の内面に迫るほどの演出力もなく、ライト級のでき
つまり予備知識なく2本立てで見て、「面白かった」程度のできで、残念。
★★


アサシン クリード
Asassin's Creed
2016年/アメリカ

監督:ジャスティン・カーゼル
出演:マイケル・ファスベンダー、マリオン・コティヤール、ジェレミー・アイアンズ、シャーロット・ランプリング
配給:20世紀フォックス映画
公開:2017年3月3日よりTOHOシネマズ 日劇ほか全国にて公開中


うちの息子が映画館の予告編で反応したのがこの映画。
つまり人気ゲームの映画化だ。
ゲームは、有史以来、世界はアサシン教団とテンプル騎士団が
いろんな時代戦い続けているという設定だ。
映画では、現代、アサシン教団の末裔である死刑囚カラム・リンチ(マイケル・ファスベンダー)が、テンプル騎士団の施設で
DNAの記憶を呼び覚ますアニムスという装置により、ルネサンス期のスペインへ意識だけ送られる。
そこで、人心をコントロールできるという
「エデンの果実」の場所を探すという話だ。

映画の見どころは、ゲームのアクションを
いかに再現できるかということ。
そこでアクションには壁から壁へと伝わる「パルクール」という
エクストリームスポーツが取り入れられている。
また、ゲームの見せ場でもある「イーグルダイブ」もかっこいい。
ただ、話がつまらない!
主なアクションはルネサンス期のスペインが舞台で、
ここはまあ面白く観れるが。
現代のシーンがリオン・コティヤール、ジェレミー・アイアンズ、シャーロット・ランプリングと役者を揃えているのに、これといった演出の切れもなく、凡庸なできで退屈
久々の“外し”映画になった。
ただし映画はそこそこヒットしたので、続編が作られるかもね。

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by mahaera | 2017-03-19 13:08 | 映画のはなし | Comments(0)

最新映画レビュー2本 『ナイスガイズ!』、『クリミナル 2人の記憶を持つ男』 2本立てでみたい

ナイスガイズ!
2016年/アメリカ

監督:シェーン・ブラック
出演:ラッセル・クロウ、ライアン・ゴズリング、アンゴーリー・ライス、キム・ベイシンガー
配給:クロックワークス
公開:2017年2月18日より公開中


アカデミー賞受賞作の陰に隠れて公開されている、
アカデミー賞とはまったく関係ない観客のために
作られている映画2本をまとめて紹介。
実際、今回紹介する映画は、名画座の2本立て上映に
ふさわしい、まったくオシャレ度はない作品たちだ。
まずは『ナイスガイズ!』。70年代のLAを舞台に、
つい手が出てしまう示談屋(ラッセル・クロウ)と
へなちょこ私立探偵(ライアン・ゴズリング)が、
最初は反目し合うもやがて手を組み、巨悪に立ち向かうという、
70年代クライムムービーへのオマージュたっぷりの作品。
70年代が舞台だから、P.T.A.監督の『インヒアレント・ヴァイス』
と同時代で風俗も被るが、こちらは深読みもさほど必要ない
娯楽作品になっている。
いちおう社会的なテーマはあるが、
あくまでメインは2人のスターのコンピネーション。
『ラ・ラ・ランド』でようやく日本でも認知された感がある
ゴズリングだが、ここではしょーもないバカ演技を見せてくれる。
ただし、はじけ具合が期待値を上回らず、
のりたいのにのれないロックコンサートの様な状態になって残念。
★★☆


クリミナル 2人の記憶を持つ男
2016年/イギリス、アメリカ

監督:アリエル・ヴロメン
出演:ケヴィン・コスナー、ゲイリー・オールドマン、トミー・リー・ジョーンズ、ガル・ガドット、ライアン・レイノルズ
配給:KADOKAWA
公開:2017年2月25日
劇場情報:新宿バルト9


B級映画ながら豪華キャストというのが、
昔の独立系映画会社の映画っぽい。
世界を破滅させようとする富豪(またか)が
米軍の兵器を遠隔操作できるソフトを手に入れようとする。
それをCIAエージェントのデッドプールこと
ライアン・レイノルズが阻止しようとするが殺されてしまい、
上司(ゲイリー・オールドマン)がエージェントの
記憶を誰かに移植して、情報を聞き出そうとする。
選ばれたのは脳に障害がある死刑囚(ケヴィン・コスナー)で、
医師は宇宙人ジョーンズ(トミー・リー・ジョーンズ)。
で、案の定、死刑囚は手術が終わったら脱走し、
CIAと悪の富豪の両方に追われる。
エージェントの記憶も併せ持つ死刑囚は、
エージェントの妻であるワンダーウーマン(ガル・ガドット)に
ふれるうちに善の心を得て、悪と戦い世界を救う。
という話で、安定した俳優陣の助けを借りて、
使い古された話を安心して見られるアクション映画
にしている。
が、いかんせんB級感は最後まで拭えず、
すべてが予定調和で終わる
『フェイス/オフ』のようなA級のアクション映画を見たって、
満足感はない。
まあ、でも最初からB級だと思って見ていたから、
こちらはがっかり感はないけどね。
★★☆
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by mahaera | 2017-03-17 10:50 | 映画のはなし | Comments(0)

シネマ名画館『家族の肖像 デジタル完全修復版』 この歳で見てよかった!

家族の肖像 デジタル完全修復版
Gruppo di famiglia in un interno
1974年/イタリア、フランス

監督:ルキーノ・ヴィスコンティ
出演:バート・ランカスター、ヘルムート・バーガー、シルヴァーナ・マンガーノ、ドミニク・サンダ、クラウディア・カルディナーレ
配給:ザジフィルムズ
公開:2017年2月11日より3月24日まで岩波ホールにて


もう間もなく上映が終わってしまうので、機会がある人は見に行ってみてと思うのが、この名作のリバイバル上映だ。
「名作」と書いてしまったが、
実は僕はオリジナル版の公開時には見ていない。
この映画が日本公開された1978年は僕はまだ高校生。
本作はその年のキネマ旬報ペストテンで堂々1位になったものの、
老人が主人公とした家族の愛憎劇には興味がわかず、
「見なきゃな」と思いつつスルーしてしまった。
また、そのころに名画座で観た
『ベニスに死す』がまったく面白くなかった(当時)こともある。
そのころ僕が熱狂したのは、同年のベストテンに入っている
『スターウォーズ』『未知との遭遇』『アニー・ホール』
といった作品だ。
人生これからの高校生だから、当然と言えば当然だろう。
で、いまはあの時見ていなくてよかったと思っている。
見ても理解できなかっただろうから。

この映画はほとんど室内劇だ。
ローマの高級住宅街の建物に暮らしている
老教授(バート・ランカスター)が主人公。
彼は18世紀に流行した家族の肖像画のコレクションに囲まれ、
ひとり静かに暮らしている。
そこにある日、ビアンカと名乗る伯爵夫人(シルヴァーナ・マンガーノ)が現れ、強引に上階の空き部屋を借りてしまう。
しかし実際にそこに住み始めたのは、ビアンカの愛人である
コンラッド(ヘルムート・バーガー)だった。
そこにビアンカの娘のリエッタ、リエッタの婚約者のステファノといった若者たちが出入りし、教授の平穏は乱されていく。

この老教授(名前は最後まで明かされない)は裕福な知識人階級。
お金持ちだが俗っぽさが鼻持ちならない伯爵夫人ビアンカの一家とはまさに水と油。
何も接点がないといっていい。
しかし彼は、その伯爵夫人の愛人となっているドイツ人のコンラッドに自分と似たものを感じる。
ふとしたことから彼の知識や教養を知り、親近感を得る。
実はコンラッドは学生時代に左翼の過激派に加わり、
挫折していまは仲間に追われていたのだ。
ビアンカの夫はファシズムを支持する右翼の過激派と通じている。

彼らが生活に乱入してきたことは、
教授にとっては迷惑以外の何ものでもない。
見ている観客も、教授と同じ様に苛立つのだが、
後半に向かっていくと、彼らがいなくなったらいなくなったで教授が寂しさを感じるのも理解していく。
今まで、自分の「家族」というものを作らずに
独身を通してきた教授。
その代わりに何も言わず、迷惑もかけない
絵画の中の二次元家族が家族だと思ってきた。
ところが実際のリアル家族は、
ケンカはするし迷惑はかける
し思い通りにはいかない。
とにかく「煩わしい」ことこのうえない。
しかしその年になって教授は悟るのだ。
それが「家族」なのだと。
そしてそれを受け入れる覚悟をするのだが、時はすでに遅かった。

いま、自分の人生の最後が視野に入る年齢になって、
この映画の主人公である老教授の気持ちがよくわかる

自分の人生、家族も持ったが、
熱中したのは音楽、映画、旅、本、美術など、この老教授と変わらず、その分、周囲との煩わしさから逃れていた。
親戚付き合いも含め、肉親とのつきあいが煩わしく感じることがある。とくに若い頃はそうだ。
ただ、歳とともに諦めも付いてきて、
それを受け入れられる様になってきたが。
ということで、この映画をまさに“リアル自分”のように見た
やっと、理解できる年齢になったが、
そこには多くの哀しさも感じる。
ということで、人生の後半に入った人におすすめ。
「映画は娯楽」という人に向かないかも。
★★★★

※イングマール・ベルイマンの『野いちご』も合わせて見るといい。
こちらも老教授が人生を顧みるという話。
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by mahaera | 2017-03-15 10:19 | 映画のはなし | Comments(0)

最新映画レビュー『ウィーナー 懲りない男の選挙ウォーズ』 彼の失態がトランプ政権を誕生させた?

ウィーナー 懲りない男の選挙ウォーズ
Weiner
2016年/アメリカ

監督:ジョシュ・クリーグマン、エリース・スタインバーグ
出演:アンソニー・ウィーナー、フーマ・アベディン
配給:トランスフォーマー
公開:2月18日よりシアター・イメージフォーラムにて公開中
公式ページ:www.transformer.co.jp/m/weiner/


ドキュメンタリーの面白さの一つに、
当初予定していなかった方に事態が進んでいくことがある。
劇映画なら軌道修正するが、ドキュメンタリーなら止めずに、
そのズレを取り続ける方が美味しい。
このドキュメンタリーはまさにそうした一本だ。

アンソニー・ウィーナーは、民主党の若手有望株の議員だった。
妻はヒラリー・クリントンのチームにも加わっているフーマで、
ヒラリーほか民主党の中枢部とのパイプも太い。
しかし複数の女性と性的なメッセージや画像を送り合っていたことが報道され、そのスキャンダルで議員を辞職することになる。
2年後、ウィーナーは「もう一度チャンスを!」と
ニューヨークの市長選に立候補する。
最初は冷ややかだったマスコミや人々だが、
ウィーナーの熱意は人々を動かし、支持率はトップに。
ドキュメンタリーは、そうした彼のカムバックに
密着したものになるはずだった。
ところが、この男は懲りていなかった。
議員を辞職して謹慎中に、やはり複数の女性と、
自分や相手のエロ画像をやりとりしていたことが発覚してしまう。。

性の好みは人それぞれだが、有名人の不倫や浮気を
世間が許さないのはアメリカも同じだ。
前回のスキャンダルのとき、妻のフーマが夫を支える姿に、
世間は彼女のために思って許してやろうという気になったようだが、二度目はさすがに「奥さん、あんなに苦しんでんのに、あいつはダメだ!」となる。
事件が発覚して、人気は急落。
そのとき、妻のフーマが記者会見に出る。
「それでも夫を支える」か「もう見限りました」か?
このあたりの奥さんの表情、
もう何の意志も読み取らせまいという顔になっている。
ハッキリ言って、コワイ。

また、よくぞここまで撮らせたな、というほど、
スキャンダルに対応するウィーナー、
奥さんとふたりでチョー気まずくなっているウィーナー、
選挙スタッフの白けた視線を浴びるウィーナー
などのさまざまなウィーナーの表情をカメラが捉えている
もう、狙おうと思っても、こんな瞬間は撮れないだろうなあ。

さて、昨年の大統領選挙戦のときの
ヒラリーの「私用メール問題」を覚えているだろうか。
結局、これがヒラリーの最大のウィークポイントになったわけだが、その原因を作ったのも実はウィーナーなのだ。
ウィーナーが起こしたこのエロ画像事件で、
FBIがウィーナーと妻フーマとの共有端末を押収。
調査している際、そこにヒラリーが送受信したメールを発見。
それがこの私用メール事件の発端になる。
フーマは古くからのヒラリーの側近だったので、
もしかしたら対立陣営にそこを狙われたのかもしれない。
そう考えると、この男のセックススキャンダルがなければ、
トランプは当選しなかったとも想像できる。

アメリカの選挙戦の内側を知るには興味深い作品だ。
まあ、それはともかく、このドキュメンタリーを見ていて、
人間、そう簡単には変われないとつくづく考えさせられた。
ウィーナーの顔が、まるで浦沢直樹の漫画に出てくる感じの小悪人顏なのだが、見ている間に彼に同情さえ覚えてくる。
いゃ、マスコミ、そこまで叩かなくてもとね。★★★
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by mahaera | 2017-03-14 12:29 | 映画のはなし | Comments(0)

最新映画レビュー『海は燃えている イタリア最南端の小さな島』  島民の日常と死と難民たちを交互に描く

海は燃えている イタリア最南端の小さな島
Fuocoammare

2016年/イタリア、フランス

監督:ジャンフランコ・ロージ
配給:ビターズ・エンド
公開:2017年2月11日よりBunkamuraル・シネマにて公開中


「世界の絶景特集」などで、あまりにも海の透明度が高いため、
船が宙に浮かんで見えるように見えるという画像を見たことがある人もいるだろう。
その場所はイタリア最南端にある「ランペドゥーサ島」
海の向こうはもうアフリカ大陸だ。
そのため、ここはアフリカから船でやってくる難民たちが
最初につく場所のひとつでもある。

難民問題で大きく揺れ動く欧州。
大量のボート難民が来てもいない日本でも、いろいろ論議がされているが、実際にそれを肌で感じている欧州の人はどう思うのか。
そのひとつの答えが、この作品が第66回ベルリン国際映画祭で
金熊賞(グランプリ)を受賞
したことに現れているだろう。

このドキュメンタリーの主人公ともいえるのは、
そのランペドゥーサ島に住む12歳の少年サムエレだ。
都会から遠く離れた田舎の島。
おそらく夏のバカンスシーズンは観光客もたくさん来て、
島には活気があるのだろうが、映し出される
冬の島は老人と子供ばかりで、活気というものがない。
サムエレも今時の子供のようにゲーム、ではなく、
木の枝でパチンコを作って遊んでいる。
漁師は漁に出かけ、老人は刺繍に糸を通す。

その一方、ときおり島の無線設備に救難信号が入ると、
ヘリコプターが飛び立っていく。
かつては島に上陸する難民もいたようだが、今では難民船は洋上で軍に回収され、そのまま収容施設に連れて行かれる。
そのため島には難民たちの姿はなく、
難民が島民たちと交わることはない

難民と唯一関わるのは、島の医師だけだ。

カメラは、島民の日常と難民救助の姿を交互に映し出す。
すぐ近くなのに、船の上で死んでいく人々と
のんびり過ごす島民に接点はない。
同じこの世界に住んでいながら、決して交わらないふたつの世界
いま、あなたがこうしてネットでこの文章を読んでいる間、
海の上で飢えと渇きで死んでいく人がいるかもしれない。
立場が変われば、あなたの娘や息子、
あるいは母親が目の前で死んでいくところかもしれない。
想像力を働かしてみれば、それが世界の縮図でもあることはわかるだろう。

難民船にいる難民の国籍は、本当に多種多様で、
シリア、リビアから西アフリカの国々までといろいろで、
難民同士のコミュニケーションもとれないほどだ。
横になって寝る場所もないほど詰め込まれ、欧州を目指している。

映画の最後の方でついにカメラは難民船の内側に入る
そこで目にするものは、私たちの住む世界は
とても“残酷”なものである
ということだ。
そして“平和”という既得権を手にした私たちも、
世界(私たち)が残酷であることに見て見ぬふりをして日々過ごしている

このドキュメンタリーに結論はない。
ただ、知ってはいたものの見てこなかった現実を突きつけられた
私たちは、考えなければならない。
たとえ、結論がでなくても。
★★★
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by mahaera | 2017-02-24 10:20 | 映画のはなし | Comments(0)

最新映画レビュー『王様のためのホログラム』 中年の危機を迎えた男が、新しい人生の行き先を見い出す

王様のためのホログラム
A Hologram for the King
2016年/アメリカ

監督:トム・ティクヴァ(『クラウド・アトラス』)
出演:トム・ハンクス(『ハドソン川の奇跡』)、アレクサンダー・ブラック、サリタ・チョウドリー(『カーマ・スートラ/愛の教科書』)、ベン・ウィショー(『007スペクター』)
配給:アンプラグド
公開:2月10日よりTOHOシネマズシャンテ、ほかにて
公式HP :hologram-movie.jp


トーキングヘッズがまた最近気になっている。
流行った1980年代は背伸びして聴いた音楽だが、
いま聴き直してみるとリズムの組み立て方が実にカッコよく、
ボーカルのデビッド・バーンの奇抜さに隠れて、
いままでそんなに気づいていなかったのかな。

なんでこんなことを書くかというと、
この『王様たちのホログラム』、いきなりその
トーキングヘッズの代表曲『ワンス・イン・ア・ライフタイム』
のPV風に始まるからだ。なので、
「もしあなたが、家や妻や財産をすべて失ったら?」という
歌詞をトム・ハンクス扮する主人公が歌う
冒頭のPV風画面で、いきなり掴まれた。
ハンクスが目をさますと、そこは飛行機の中。
彼の周囲は巡礼者たちの団体で、コーランを暗誦している。
ここはサウジアラビアに向かう飛行機の中だったのだ。

紆余曲折がありながらも、人生の中盤までは順調に行き、会社の重役にまでなった主人公アラン。
しかし中国の企業に技術提供をしたことで結局はマーケットを奪われ、家族も財産も失い、今は娘を大学に行かすために、雇われた会社の営業でサウジアラビアのジェッダに向かっている。
彼が売り込むのは、3Dホログラムのテレビ会議システムだ。
しかし砂漠の中の“新経済都市”はまだ建設中で、
与えられたオフィスもテント。
プレゼン相手の国王もいつやってくるのかわからない。
そんな中で四苦八苦するうちに、
アランは新しい目標を見つけていく。

見終わってみると、王様もホログラムも出てくるが、
仕事を成功させることがこの映画のテーマではないことに気づく。
人はいつだって迷うことがある
幸せというか平穏な時は、
これがずっとこのまま続いて終わるんだと漠然と思っている。
不満もあり退屈かもしれないが、
それを失うことなんか考えてない。
しかし、転機は自分の意思とは関係なく訪れる
主人公アランは自分の意思でサウジアラビアにきたわけではない。
しかし自分のことを、誰一人として知らないこの異国の地に来た時、おそらくいままで何十年も、周りに流されて生きてきた自分を振り返ってみたにちがいない。
いままで失敗だと思っていたことも、
次への成功のためのステップにすぎなかったことかもしれないし、
そもそも成功も失敗もそれほど大差ないのかと。

旅シネ的には、ふだん映画ではなかなか見ることができない、
サウジアラビアの風景が見られて興味深い。

いや、外国人スタッフはサウジロケができずに、
モロッコで撮影したようだが。途中で車が道を間違えて、
非ムスリム立ち入り禁止区域のメッカ市内に入ってしまう
ところでハラハラしてしまうのは、こちらが旅人だからか。

あと、トム・ハンクスの担当医となる女医に
『カーマ・スートラ/愛の教科書』のサリタ・チョウドリーが
扮しているのだが、久しぶりだなあ〜、おばさんになっちゃったなあと感慨深いものがあった。

名作というほどではないが、ところどころ自分にシンクロしたので、
何度か見たくなる作品かもしれない。
旅人としては、目が覚めて自分が今どこにいるんだっけ的な、
感じがリアル(笑)
★★★
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by mahaera | 2017-02-19 20:54 | 映画のはなし | Comments(0)

最新映画レビュー『ニュートン・ナイト 自由の旗をかかげた男』 アメリカの裏歴史を描いた歴史大作だが…

ニュートン・ナイト 自由の旗をかかげた男
Free State of Jones
2016年/アメリカ

監督:ゲイリー・ロス
出演:マシュー・マコノヒー、ググ・ンバータ=ロー、マハーシャラ・アリ
配給:キノフィルムズ、木下グループ
公開:2017年2月4日より新宿武蔵野館、ヒューマントラストシネマ渋谷にて公開中


たぶん多くの人は、この映画がいま公開されているか
知らないのではないかと思う。
話題性のある映画ではないアメリカの歴史映画だし、
出来もまあまあで、批評家が積極的に取り上げるわけでもない。
また、主演が日本では一般的にはそれほど有名でない
マシュー・マコノヒーだ。
ただし映画としてはいまひとつだが、歴史好きの僕には
「ああ、こんな人もいたんだ」と勉強になった作品だ。

物語は南北戦争中の1862年に始まる。日本で言えば幕末。
南軍の衛生兵として働くニュートン・ナイトは、
若い甥が目の前で倒れるのを見て、戦争に嫌気がさし、軍を脱走。
故郷のジョーンズ郡に戻るが、
そこでは農民たちが南軍の強制徴収に苦しめられていた。
刃向かったニュートンは、スワンプの奥にある
逃亡奴隷たちの隠れ家へ避難。
やがてそこには脱走兵たちも集まりだした。
ニュートンらは彼らを集めて「自由反乱軍」を名乗り、
南軍と戦い始める。

南北戦争の中のある地方で起きた事件。
それは、アメリカの歴史の中でもローカルな
小さなできごとだったのだろう。
しかしそこにスポットを当てたこの作品は、
北軍側でも南軍側でもない別の視点から描いているのが新鮮だ。
南北戦争ではとくに南軍側が自分たちを美化する傾向にあるが、
それは『風と共に去りぬ』の影響が強いのかもしれない。

というのも「南軍の誇り」を描くと、
スポットがあたるのは農園主など金持ち階級ばかり。
この映画ではそれを主人公に「金持ちの戦争」と
バッサリ切り捨てさせる。
戦争で死ぬのは、奴隷も持てない貧しい白人の小作農たち。
金持ちの子弟は徴兵免除
があるが、貧乏人は徴兵され、
わずかな農作物も奪われる。
ニュートンは、そんな自分たちは金持ちが使う奴隷と同じだと訴え、白人と黒人奴隷の共闘を作って反乱を起こす。

今やアメリカを代表する演技派俳優に成長したマシュー・マコノヒー。その彼が出ずっぱりで熱演する歴史大作だ。
ただ、この作品の狙いは「そんな英雄的な人がいた」ということではなく、今も白人と黒人の分断は続き、それを解決しなければならないと思わせることだ。
というのも、きれいにまとめるなら南北戦争の終了と共に
映画は終わるべきだが、映画はその後、ニュートンの願いが
かなわず、南部では戦前の勢力が回復し、
KKKが台頭するまでを描いている。
また、ニュートンの物語と平行して、ニュートンの子孫が1/8黒人の血が混じっているということで白人としてみなされず、白人との結婚が禁じられるという100年後のミシシッピの姿も描かれる。
つまり、ニュートンが戦わねばならない相手や制度は、
その後もずっと存続していたのだ。

そうしたアメリカの“裏歴史”を描いた作品が本作なのだ。

ただ、映画として面白いかというとそれはまた別で、マコノヒーの熱演にもかかわらず、作品としは凡庸な出来になってしまった。
ちょっと美談としてまとめようとしすぎてしまったからか、
盛り込みすぎてポイントがよくわからなくなってしまったからか、
日本の大河ドラマのようにダラダラと長く続く感じ。
製作・監督・脚本をつとめるゲイリー・ロスは、『ビッグ』の脚本家として注目を浴び、『シー・ビスケット』などでは監督もしていて手堅いのだが、どうも演出はシャープさに欠ける。
映画というよりは、大作TVドラマに近い印象を受けてしまったのが、正直なところだ。
どこで話を集約して最高潮に持っていくかの計算ミスだろう。
★★
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by mahaera | 2017-02-12 13:26 | 映画のはなし | Comments(0)