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旅行・映画ライター前原利行の徒然日記

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カテゴリ:映画のはなし( 473 )

最新映画レビュー『はじまりへの旅』 母親の死をきっかけに、旅に出る一家のロードムービー

はじまりへの旅
Captain Fantastic
2016年/アメリカ

監督:マット・ロス
出演:ヴィゴ・モーテンセン、フランク・ランジェラ、ジョージ・マッケイ
配給:アンプラグド
公式HP /hajimari-tabi.jp/
公開:4月1日より公開中



俳優としては脇役が多く、僕も印象にないマット・ロスだが、
この小品で監督として注目を浴びている。
また、主演のヴィゴ・モーテンセンは、
本作でアカデミー主演男優賞にノミネートされた。

アメリカ北西部の山の中、父親ベンと7歳から18歳の6人の子供たちが自給自足の生活を送っている。
高い教育とサバイバル技術を身につけさせ、
ある意味純粋培養させられたような子供たち。
しかし心を病んで故郷に帰っていた妻が自ら命を絶ったことを
知り、ベンと子供たちは葬儀が行われる
ニューメキシコまで2300キロの旅に出る。
そしてそれは、子供たちにとっては、
初めて見る外の世界だった。。

日本ではふつうの人が子供を学校に通わせずに
義務教育を受けさせることは違法だが、
アメリカでは自宅で義務教育を行うホームスクーリングは合法だ。
なので、宗教や思想上の理由で、
そうしているファミリーもいるという。
本作では、子供たちにとっては家の周りの自然が「世界」で、
身の回りにいる唯一の大人である父親が「神」に近い存在になる。父親は絶対的な存在だ。
ただし、本作のヴィゴ・モーテンセンは、
独裁ではあるものの強権的ではなく、超リベラル。
とはいえ、人間がエデンの園を出て行ったように、
子供達も自我を持てば、
いつしかその楽園から出て行く
ことになる。
そのきっかけが「母の死」で、外界を知ってしまった
子供達がどうするか、そして“汚れた世界”から子供たちを
“守ってきた”父親が、いかにして自分も折り合いをつけていくというロードムービーだ。

娯楽エンタテインメントというよりは、
オフビートコメディといった感じだが、
映画全体に流れる、失われていく時への感傷は、
70年代ニューシネマ的感覚。
アカデミー賞やゴールデングローブ賞など各賞の主演男優賞に
ノミネートされたヴィゴの演技は秀悦。
随所にかかるサウンドトラック音楽もよく、
ディラン作の「アイ・シャル・ビー・リリースト」や、
ガンズ作の「スイート・チャイルド・オブ・マイン」が、
カバーにより意外なところで流れる。
★★★
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by mahaera | 2017-04-25 09:21 | 映画のはなし | Comments(0)

最新映画レビュー『HARDCORE ハードコア』    全編1人称カメラによる、体験型?アクション映画

HARDCORE ハードコア

2016年/ロシア、アメリカ

監督:イリヤ・ナイシュラー
出演:シャールト・コプリー、ダニーラ・コズロフスキー、ヘイリー・ベネット、ティム・ロス
配給:クロックワークス
公開:4月1日より新宿バルト9 にて公開中


ビデオゲームはしないので詳しくはわからないが、
画面前方に銃を持った自分の手が映り込み、
現れた敵を次々と撃ち倒していくものがある。
簡単に言えば、そんな画面だけで構成された、
全編主観映像という、映画としてはある意味、
実験的ともいえるアクション映画だ。

そうした主観映像で構成された映画は今までにもなくはないが、
全編にわたってというのは少ない。
というのも、長編映画として成立させるにはかなり難しいからだ。
主人公の顔や表情が映らない、つまり主人公を客観的に移さないと、逆に観客は感情移入しにくい。
小説なら、モノローグや主人公が思っていることを書けるが、
映画ではペラペラ喋らせるわけにもいかない。
そこで主人公の代わりに、次々と現れる登場人物たちが、
物語の説明をして進行させ、あるいは主人公の気持ちを代弁するのだが、それもやりすぎると鬱陶しい。
本作は、そうしたハードルを越えるために、
さまざまな工夫をしているのがよくわかる。

“私”が目を覚ますとそこは研究室。
目の前にいた女性は私が「ヘンリー」であると言い、
さらに彼女は自分の妻のエステルであると言う。
研究者でもあるエステルは、事故で左側の手足を失った私に
機械の手足を装着さる。
“私”は記憶と声を失っているので、自分が何者であるか、
そして自分の意思を声で伝えることができない。
そこに、エイカンという超能力を持つ男たちに率いられた
傭兵たちが乱入し、研究者たちを惨殺。
なんとかモスクワの町に脱出した私とエステルだが、
エイカンの追っ手にエステルをさらわれてしまう。

「主人公がどんなキャラクターであるかを主観映像では
説明しにくい」ということを前述したが、
ここでは「記憶喪失」そして「声が出ない」という設定を
最初に織り込むことによって不自然さを解消し、
さらに巻き込まれ型アクションにすることで、
映画内時間と実際の時間をうまくシンクロさせる設定を
作り出している。
主観映像だと、基本的にカットの切り返しがないから、
基本的には連続した映像(長回し)になるからだ。

主観映像だけでアクションを構成するのは、
動きの制約があって大変だと思うのだが、
そこは近年の技術の進歩により、手ぶれ補正がきいていて、
思ったほど画面酔いはしない。
全編で使われているのは、動画撮影で大人気の
アクションカメラGoPro(ゴープロ)だ。
最初から最後までアクションが連続するので、
観客がそれに麻痺してきて飽きることを避ける為の工夫があり、
ガンアクション以外にも、壁を登ったりするアクロバティックなパルクールアクション、ナイフによる接近戦、車に飛び移るカーチェイスなど、趣向を凝らしている(戦車まで出てくる!)。
それでも最後の方になるとちょっと疲れてくるし、
内容に深みはないが、自主上映的な親近感と悪趣味なアクションコメディのテイストがうまくマッチしているかな。
★★★
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by mahaera | 2017-04-19 11:22 | 映画のはなし | Comments(0)

最新映画レビュー『サラエヴォの銃声』 欧州、そしてボスニアの過去と現在を85分間のドラマで語る意欲作

サラエヴォの銃声
Death in Sarajevo

2014年/フランス、ボスニア・ヘルツェゴビナ

監督:ダニス・タノヴィッチ
出演:ジャック・ウェバー、スネジャナ・ヴィドヴィッチ、イズディン・バイロヴィッチ
配給:ビターズエンド
公開:3月25日より新宿シネマカリテにて上映中
公式URL:www.bitters.co.jp/tanovic/sarajevo.html


長編監督デビュー作『ノーマンズ・ランド』で、
いきなりアカデミー賞外国語映画賞を受賞した、
ボスニア出身の監督ダニス・タノヴィッチ
2月に日本公開された『汚れたミルク』はパキスタンを
舞台にしていたが、今回は故郷のボスニアが舞台。
1914年に起きたサラエヴォ事件と、
1990年代に起きたボスニア内戦の問題をクロスさせながら、
続く民族間の緊張、そしてヨーロッパとは何かを問う意欲作だ。

サラエヴォ事件から100年後の2014年。
その記念式典に出席するため、老舗のホテル
「ヨーロッパ」にVIPが到着する。
同じ頃、ホテルの屋上では、暗殺者プリンツィプについての番組の撮影が行われており、女性ジャーナリストがインタビューをしていた。そこへプリンツィプという名前の男が現れる。
ホテルの裏側では、従業員が給料の未払いに抗議するストライキを計画していたが、支配人はそれを阻止しようと画策する。
VIPは部屋に閉じこもり、演説の練習に余念がない。
さまざまな人々の思惑が交差し、
事態は予期せぬ方向へと進んでいく。

同じ国に住みながらお互いに殺しあう内戦を起こし、
今も近親憎悪にも近い憎しみを抱くという
ボシュニャク人、セルビア人、クロアチア人。
ひとつの国のこの三民族の争いはまた、
ヨーロッパ全体の象徴でもある

本作の舞台となるホテルの名前が「ヨーロッパ」であることからしても、それは明白だ。
そこには、さまざまな思惑で生きている人たちで構成されている。
負債に苦しむホテル。資金繰りに厳しい支配人は従業員たちのストを中止させようと、地下の怪しげなクラブの男たちに依頼する。
暗殺者と同じ名前の男はセルビア至上主義者であり、
過去の暗殺を正当化しようとするが、彼もまた行き場のない現実から
逃避するために、攻撃できる誰かを求めている

それでは何の解決にもならないという女性リポーター。
100年前も、30年前も、人々の社会への不満は変わらない。
ただはけ口を求めているだけなのだと。

映画と実際の事件が行われた場所は奇妙にシンクロし、
不思議な感覚を感じさせる。
たとえば事件に関してのインタビューが行われている
ホテルの屋上からは、サラエヴォ事件が起きたラテン橋が見え、
今にも背後で事件が起きるのではという
過去と現在が同居する感覚にとらわれる。
そして映画のロケが行われたホテル“ヨーロッパ”は、
あの“有名な”ホリディ・インだ。
サラエヴォが包囲された1990年代半ば、
ここに世界中からジャーナリストが集まり、
その模様が世界に報道された。
ボスニアの内戦を象徴する場所でもあるのだ。

そして、本作は映画内時間と実際の時間をシンクロさせている。
つまり映画の実時間の85分間に起きた出来事だけで、
ボスニアの歴史、ひいてはヨーロッパの抱える問題までを
一気に提示するのだ。

サスペンスも盛り込んでいるので、
退屈せずに興味は最後まで持続するはず。
ただし、鑑賞前に「サラエヴォ事件」「ボスニア内戦」が
どういうものであったかぐらいは、簡単に調べておこう。
第66回ベルリン映画祭で銀熊賞受賞
★★★
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by mahaera | 2017-04-17 14:46 | 映画のはなし | Comments(0)

最新映画レビュー『レゴバットマン ザ・ムービー』 オリジナルのシリアスさをとことん茶化し、大成功

レゴバットマン ザ・ムービー

2017年/アメリカ

監督:クリス・マッケイ
声の出演:ウィル・アーネット、ザック・ガリフィアナキス、マイケル・セラ、ロザリオ・ドーソン、レイフ・ファインズ
配給:ワーナー・ブラザース映画
公開:4月1日より全国で公開中


『レゴバットマン ザ・ムービー』は、
そのままバットマンの世界をレゴでコミカルに再現したもの。
オリジナルのダークでシリアスな内容を全編にわたって茶化し、
ギャグにしてはいるものの、子供が対象なので
最後には前向きなメッセージが送られる。
こうして書くと、いかにも子供向けのように思われるだろうが
クオリティは高く、最初のうちは映画版よりも
面白いんじゃないの?と
思ってしまったほど。
少なくともいくつかの映画版よりはね。

ゴッサムシティをジョーカーの陰謀から救ったレゴバットマン。
いつものように人々の歓声を浴びながら、バットケイブに戻る。
しかし家にいるのは執事のアルフレッドだけ。
彼は団体行動が苦手だが、
名声や賞賛が大好きな目立ちたがり屋という、
「困ったちゃん」だったのだ。
そんな彼が孤児のロビンを引き取ることになり、
生活のペースが乱されてしまう。
おまけにバットマンに
“最強の敵”として認められなかったジョーカーが、
何とか自分を認めさせようと、
ファントムゾーンから過去の悪役たちを連れてくる。

ギャグやパロディも上品でスマートで、気の利いたものが多いし、
元のDCコミックスは知らなくても、バットマンの映画
(ティム・バートンらの旧シリーズを含む)を全部見ていれば、
余計に面白さが通じるはず。

子供にはバットマンとロビンとの擬似親子関係の話が、
「自分がヒーローの子供だったら」と想像する楽しい話だし、
親の年齢の人たちには子供を得ることによって
自身も精神的に成長する話として共感できるはず。
人に関心がなく、人への思いやりがなかったバットマンが、
共感や友情、愛を学んでいくストーリーと、ごくまっとうなテーマなのだ。

あとは出てくる悪役キャラが、背景まで含めると本当に多く、
これは映画好きな人ほど楽しめるかなあ。
ロード・オブ・ザ・リングのサウロンや、
ハリー・ポッターのボルデモート、
ジュラシックパークのラプトルまで出てくるんだから!
というわけで、意外や意外、結構楽しめました。
★★★☆
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by mahaera | 2017-04-13 10:13 | 映画のはなし | Comments(0)

最新映画レビュー『パッセンジャー』 重い興味深いテーマを含むが、鑑賞後はライト級になってしまい残念

パッセンジャー
Passengers

2016年/アメリカ

監督:モルテン・ティルドゥム
出演:ジェニファー・ローレンス、クリス・プラット
配給:ソニー・ピクチャーズ エンタテインメント
公開:3月24日より全国で公開中


『ラ・ラ・ランド』同様、今をときめく旬のふたりの俳優の共演。
演技力で言えば若手ではNo.1クラスのジェニファー・ローレンス、゜そして“演技”ではなく醸し出す雰囲気が人を好きにさせる現代のハリソンフォードとも言えるクリス・プラット
そのふたりのカップルによるSFエンタテインメント映画だ。

大まかなストーリーは、予告編を見ればわかる。
未来の宇宙で、5000人の乗客をのせた移民船が
120年の旅を続けていた。
船内の人間はすべて冬眠装置に入っていたが、
運命のいたずらでエンジニアのジムは90年早く目覚めてしまう。
すべてが整っている船内では、生きていくことができる。
ただし、彼は死ぬまでひとりだ。
生きる目的を失ったジムだが、もうひとりの乗客の女性オーロラが目覚めたことで、生きがいを見出していく。
やはり最初は絶望的になったオーロラだが、ジムと愛し合うよう
になり、やがて彼女も生きる希望を見出していく。
しかしそんなふたりを乗せた宇宙船に、大きなトラブルが…。

SFエンタテインメント大作らしく、ブレードが回転して重力を生む斬新なルックの宇宙船や、船内施設のデザインはすばらしい
ショッピングモールに、ただひとりしかいないような空虚感は、
大きなセットを作らないと生まれない。
そして『2001年宇宙の旅』や『シャイニング』のオマージュが。

実はこの映画、映画のテーマに関わる大きな仕掛けが
中盤に施されており
、それは予告編などでは巧妙に隠されている。
また、それは事前に知らないほうがよく、
ネタバレ厳禁な作品でもある。
なのでここでも書けないのだが、
それは超ヘビーな倫理観にまつわるできごとだ。
もちろん映画的なクライマックスは、トラブルが起きて、
ドッカンドッカン爆発してのラストなんだが、
ドラマ的には中盤が、どひゃーとなる
ジェニファー・ローレンスの演技うますぎで、新ためてこの人、
若手No.1女優だと思う。
これじゃ映画評にならんが、しょうがない。
映画のテーについて書いたら、ネタバレになっちゃうから。

別なことで言えば、宇宙船は人が暮らす世界のメタファーであり、
そこで目覚めたただひとりジムは、人間であり、“アダム”である。
人は何のために生きるのか。
ただ生きて死ぬのではなく、人間には生きる目的が必要だ。
イブのいないエデンの園は、ジムにとっては楽園ではない
神の牢獄だ。
目覚めたオーロラは、そのジムにとってのイブとなる。
「オーロラ」という名のように、この映画の背景には
「眠りの森の美女」がある。
“眠り”についたオーロラをキスで目覚めさす王子のイメージや、
ドラゴンが吐く火を盾で防ぎながら倒すというイメージが、
クライマックスでも登場する。
真の愛を得るためには、自己犠牲的な行いが必要なのだ。

ということで、内容的にはかなりヘビーであり、
重い命題も含まれているのだが、
残念ながら手放しで絶賛できない出来でもある
というのもこの映画、大金をかけた大作であるから、
エンタテインメントとしてヒットが必要。
なので、観客にそっぽを向かれないようにと気をつかったのか、
終盤のクライマックスに向けてヘビーな命題は隅に置かれていき、
アクションを盛り込み、いつものドッカンドッカン。
で、何となく、観客が気持ち良くスクリーンを後にできるように、わかりやすいエピローグまでつけてしまった。
それによって、逆にというか、印象が薄くなってまったのだ。
まあでも、ビターな味わいにしたら名作になったかもしれないが、
それじゃお金をかけたインディペント映画みたくなっちゃうかも。そっちのほうがみたかったけどね。
つまり旬の若手2大スターを使う大作ながら、
『ラ・ラ・ランド』と反対の方に行ってしまったわけで、
その点が裏目に出てしまったともいえる。
いいところまで行っていたのに、最終的にはどこかで見た
“いつもの映画”に着地してしまった。

とはいえ、宇宙船のセットは大画面で見る価値は十分あるし、
ここでネタバレになるので書けなかった重要な“あること”について、
映画を見終わった後は友人や恋人と話し合って盛り上がれることは間違いないだろう。
監督はノルウェー出身で、初の英語作品『イミテーション・ゲーム/エニグマと天才数学者の秘密』でいきなりアカデミー監督賞にノミネートされた新鋭のモルテン・ティルドゥム
★★★☆
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by mahaera | 2017-04-09 11:37 | 映画のはなし | Comments(0)

最新映画レビュー『おとなの事情』 イタリアで大ヒットしたウェルメイドなコメディ

おとなの事情

2016年/イタリア

監督:パオロ・ジェノヴェーゼ
出演:ジュゼッペ・バッティストン、アンナ・フォッリエッタ、マルコ・ジャーニ
配給:アンプラグド
公開:3月18日より新宿シネマカリテにて上映中


最近、イタリア映画が日本ではあまり公開されていないので、
現地の映画事情がわかりにくいが、
人気があるのはやはりコメディだという。
この作品はイタリアで大ヒットし、主要な映画賞を受賞したが、
日本ではなんだかひっそり公開されている。
まあ、外国のコメディは日本ではほとんどヒットしないので、
そんな扱いになってしまうのだろう。
第一、見慣れたスターは出ていないし、
主人公たちも日本の感覚でいえばオッさん、オバさんなんで、アピールしにくいんだろなあ。

さて、映画は月蝕が起きる満月の夜に、
3組の夫婦と1人の男が集まったホームパーティで
起きた人間模様を描いている。
男性たちは昔からの幼馴染で、
結婚してからも家族ぐるみの付き合いを続けている。
熟年夫婦が2組、そして最近結婚したばかりの新婚夫婦が1組、
恋人を連れてくるはずがなぜか1人で来た男の7人。
美味しい食事とお酒を楽しむ中、ある奥さんが
「お互いを本当に信用しているの?」と言い出し、ディナーの間に
来た携帯メールの内容をお互いに見せ合うことを提案。
男たちは、これを拒否すると疑われるので、しぶしぶそれに従う。
すると案の定、次から次へとそれぞれに不審なメールが
送られてきて、仲のよさそうに見えた夫婦、友人たちの間に、
大きな秘密があることが明らかになっていく。

基本はコメディなので、そうしたドタバタを面白おかしく描いては
いるものの、偏見、嘘、裏切りを見せ、時には笑わせ、
時にはシリアスに、そして時にはほろりとさせる演出は、
ほころびをみせずに安定している。
そして登場人物は30代後半から40代前半ぐらいの“おとな”。
すでに人生の表も裏も体験してきている年代なので、
節度は崩さない。
これは見方によればシリアスな会話劇にすることもできるが、
品を崩さずに、本当の相手の姿を知った後も、
“おとな”として対処していく。
予定調和の範囲内で終わるといえば終わるが、
気持ち良く笑えてほろりとし、それぞれのキャラクターの
ことを考えるという点では、よく計算されたコメディだと思う。

しかし、スマホって、その人の秘密が本当に詰まっている「パンドラの匣」だな。
★★★
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by mahaera | 2017-04-07 10:07 | 映画のはなし | Comments(0)

最新映画レビュー『キングコング 髑髏島の巨神』   軽量級の気軽さが吉と出た怪獣映画

キングコング 髑髏島の巨神
Kong : Skull Island
2017年/アメリカ

監督:ジョーダン・ボート=ロバーツ
出演:トム・ヒドルストン、サミュエル・L・ジャクソン、ジョン・グッドマン、ブリー・ラーソン、ジョン・C・ライリー、MIYAVI
配給:ワーナー・ブラザース映画
公開:3月25日より全国で公開中
公式HP:wwws.warnerbros.co.jp/kingkong/


『キングコング』は1933年のオリジナル版が無駄のないすばらしい出来で、ニューヨークに行ってエンパイアステートビルを見ても、もはやコング以外が浮かばないほどの強い印象を残す。
しかし、映画の大半は髑髏島(スカルアイランド)での話。
僕が高校生の時、鳴り物入りでジョン・ギラーミン監督による
『キングコング』が作られたが、
正直言って高校生さえ興奮させられないような代物だった。
そして2005年のピーター・ジャクスン監督版のコングは、
オリジナル版にほぼ忠実なリメイクにして、
もう次から次へと恐竜が大暴れする“怪獣映画”で、
オリジナルと巨大生物への愛に満ちた名作であることは
確かなのだが、その分失ったものもあった
3時間に及ぶ大作になってしまったおかげで、
人物描写やアクションシーンは増えたが、盛り沢山すぎて、
定食屋の気安さはなくなってしまったのだ。
怪獣映画は吉野家の牛丼のようなもので、
気軽に見れるから何度もリピートできる。
ピーター・ジャクスン監督版のコングのDVDを買っても、
そう何回も見ないのだ。

その点、今回の『キングコング 髑髏島の巨神』は、
高価な焼肉フルコースではなく、
牛丼や、なんなら立ち食いそばのような気安さ
大衆向けの気軽さだ。
人物描写は希薄だし、ストーリーも「キングコング」の
前半だけだと思えばいい。
そのかわりノンストップアクションを気軽に楽しめるのだ。

物語の舞台は現代でも1930年代でもなく、1973年。
撤退間近のベトナムからやってきたヘリ部隊に護衛されながら、
調査隊がスカルアイランドにやってくる。
そこですぐにコングが登場し、ヘリを撃墜させる。
調査隊を率いるのはジョン・グッドマン演じる政府の未確認生物調査機関(ハリウッド版「GODZILA」にも登場)の者なのだが、
彼は島に来るきっかけを作るだけで、あとは活躍しない(笑)
ロキことトム・ヒドルストン扮する傭兵がいちおう主役扱いだが、彼も大して活躍しないし、正直いなくても物語は成立する。そして同行するブリー・ラーソン演じる女性戦場カメラマンも同様だ。
このふたりは、まあ、ただいるだけ(笑)
人間側の主役で物語を引っ張るのは、
サミュエル・L・ジャクソン演じるヘリチームの隊長だ。
ふつうは脇役となる扱いのキャラだが、
なぜかこの映画は極端に彼の扱いが大きくなって、
実質的な主役になっている。

もはやコングと戦えるのは、この人しかいないという
結論に達したからか(笑)
そういえば、この人、サメやヘビと戦ってきたしなあ。

調査のために行った爆弾投下が、島の守護神のコングを怒らせ、
ヘリの多くはあえなく破壊。
部下を殺されたジャクソン隊長が、コングに復讐を誓う。
一方、残りの人たちは島からの脱出をはかる。
そこへ進化を遂げたトカゲの様な怪獣たちが襲ってくる。
それと戦うコングで、ここは完全に怪獣映画。
もう、ほぼノンストップ・サバイバルアクションだ。
とはいえ、しつこくも長くないので、
さくさく食べられる牛丼の趣。
特に登場人物に感情移入もなく、
死んじゃう人も予想つくので(笑)、気楽に見られるのだ。
映画に深みはまったくないが、これはこれで正解かなと思う。

さて、この『キングコング 髑髏島の巨神』は、
ハリウッド版『GODZILLA ゴジラ』から始まった
レジェンダリーピクチャーズの
「モンスターバース」シリーズ2作目
このあと、ゴジラがおなじみの怪獣たちと戦う3作目を経て、
2020年公開予定の4作目でついにゴジラとガチンコ対決の予定。
楽しみだ。
★★★☆
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by mahaera | 2017-04-04 10:34 | 映画のはなし | Comments(0)

最新映画レビュー『汚れたミルク あるセールスマンの告発』 不適切な粉ミルクの使用から起きた実話の事件

汚れたミルク あるセールスマンの告発
Tigers
2014年/インド、フランス、イギリス

監督:ダニス・タノヴィッチ
出演:イムラン・ハシュミ、ギータンジャリ、ダニー・ヒューストン、カーリド・アブダッラー
配給:ビターズエンド
公開:3月4日より新宿シネマカリテほかにて上映中
公式HP:www.bitters.co.jp/tanovic/milk.html


今や、完全母乳で赤ちゃんを育てる家庭はそう多くはなく、
たいていの家庭なら粉ミルクを子供に飲ませた経験があるだろう。
日本ではだから「粉ミルク」が問題になるとは、誰も思わない。
しかし国や地域が変わればそうはいかない。
もし粉ミルクを溶かす水が、十分に殺菌されていない、
汚染されている水だったら?
生まれたばかりの赤ちゃんは、
まず“母乳”で免疫力をつけるといわれている。
そしてまだ免疫力があまりついていない赤ちゃんが、
雑菌で汚染された水で溶かされた粉ミルクで育てられたら?

結婚したばかりの薬の営業マンのアヤンは、
幸運にも多国籍企業のラスタ社への転職に成功する。
ラスタ社が製造する粉ミルクの営業担当になったアヤンは、
上司からの豊富な資金を利用して、
決定権のある医師や薬局にうまく取り入っていく。
1997年、順風満帆だったアヤンだが、粉ミルクの不適切な使用で
多くの乳児が命を落としていることを知り、ショックを受ける。
自分が良かれと思って売っていた粉ミルクによって、
結果的に子供達が死んでいたのだ。
アヤンは仕事を辞め、企業を告発しようとするが、
そこには多くの障害があった…。

この映画の監督は、ボスニアの内戦を描いた
『ノーマンズ・ランド』でアカデミー外国語映画賞を受賞した、
ボスニア出身のダニス・タノヴィッチ
そんな彼が本作で選んだ題材の場所は、
ヨーロッパではなくパキスタンで実際に起きた事件だった。

まず、誤解なきよう。粉ミルク自体が、
赤ちゃんに害を与えるものではない。
しかし問題は、水道をひねれば消毒された水が飲めるという
先進国では当たり前のことが、
途上国ではそうではないということを知りつつ、
感染のリスクを周知させることなく販売したということだ。
主人公である営業熱心なアヤンは、「そういうものだ」と
教えられ、病院や薬局で力ある人たちに付け届けを送る。
今は知らないが、日本でも前はまったく同じことをやっていた。
自分が扱っている薬を、
その薬局で取り扱ってもらえれば利益が大きい。
なのでとにかく足で通って、情やあるいは“贈り物”で、
その商品を扱ってもらうようにしていた。
ここでは医師がすすめる粉ミルクなので、
当然出産後の母親はそれを購入して使うようになる。
しかし加熱、沸騰した水ではなく、
またミネラルウォーターのボトル水でもない。
パキスタンに限らないが、
途上国の上水は飲料に適していないところがある。
また、地域によっては井戸水を使っているところもあるだろう。
大人が飲んでも、まあ大丈夫程度の水でも、赤ちゃんは違う

もちろん、その結果、赤ちゃんが死んでも
粉ミルク自体のせいではない。
ただ問題は、そうした事件が起こっているのを知りながら、
企業が何ら注意喚起をもとめることもせず、またそれを放置して製品を売り続けたこと
だ。
そして、それが裁判沙汰になっても、
「下の人間が勝手にやったことで、組織ぐるみではない」と、
責任を回避する。
しかしそれは企業倫理に照らしてどうなのか。
法さえ犯していなければ、子供が死のうが
それは“自己責任”として「関係ない」のか。

この映画にひねりがあるのは、この大企業(ネスレ)から、
名誉毀損で訴えられる可能性があり、
裁判でも負ける可能性があるので、
ドキュメンタリーや再現ドラマというわけでなく、
この事件を取材してテレビ番組を作ろうとするスタッフが、
主人公であるアヤンに話を聞くという体をとっている。
そこでアヤンの証言自体の真偽が問われることがあり、
企業と食い違いがあって
証明できないものは、そのまま見せている。
判断は観客に任せているのだ。

ドキュメンタリーの製作会議に、法的に問題ないか弁護士がつくのも、ちょっと驚いた。

当然ながら本作はパキスタンで撮影できず
(大企業と政府はつながっているので)、インドで撮影
製作にインド資本も入っており、インド人のイムラン・ハシュミが主人公を演じている。
★★★

この記事は、旅行人のWEB「旅行人シネマ倶楽部」に寄稿したものを転載しました
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by mahaera | 2017-03-25 13:40 | 映画のはなし | Comments(0)

最新映画レビュー『ヨーヨー・マと旅するシルクロード』 異文化から生まれる音楽が伝えるメッセージ

ヨーヨー・マと旅するシルクロード
The Music of Strangers

2015年/アメリカ

監督:モーガン・ネヴィル(『バックコーラスの歌姫たち』)
出演:ヨーヨー・マ、ウー・マン、ケイハン・カルホール、クリスティーナ・パト、キナン・アズメ
配給:コムストック・グループ
公開:3月4日よりBunkamura ル・シネマほかにて公開中
公式HP:yoyomasilkroad.com/


「クラシックには興味ないよ」という人でも見て欲しい。
邦題にはヨーヨー・マの名が入っているが、
これはクラシック音楽の映画ではない。
世界のどこにでもある(あった)音楽でもあるし、
もしかしたら私たちが生きている間に
無くなる音楽
かもしれない。

ヨーヨー・マの名前は、クラシックファンでなくとも
聞いたことがあるだろう。
中国系だがパリ生まれニューヨーク育ちという、
複雑なアイデンティティーを持ち、
世界的なチェロ奏者に上り詰めた。
そんな彼がクラシック一辺倒でなくなったのは、1980年代に
アフリカでブッシュマンの音楽に触れたことからだという。
それから他ジャンルの音楽を意識するようになり、
2000年に世界各地の音楽家を集めワークショップを行う。
そこから始まったのが、「シルクロードプロジェクト」だ。

多国籍多人数からなる楽団を率い、
ヨーヨー・マは世界を回るようになる。
本作は、その活動を映したドキュメンタリーだが、
ヨーヨー以外におもに4人のミュージシャンにも焦点が当てられる。
イラン出身のケマンチェ奏者ケイハン、
シリア出身のクラリネット奏者キナン、
スペインのガリシア出身のバクパイプ奏者クリスティーナ、
中国出身の琵琶奏者ウー
だ。
それぞれの音楽的なバックボーンと現在に至るまでの道のりが示されるが、決して楽な道ではなく、それが今も続いている人もいる。
故郷で音楽を禁止されたもの、故郷を戦争で失ったもの、
故郷では他ジャンルの音楽との混淆を快く思われないもの、
外国暮らしが長いので故郷ではよそ者として扱われるもの…。
彼らの音楽の背景には、自分が故郷で培った
アイデンティーがあり、物語がある。

そして演奏が始まれば、そうしたものが一体化して、
すばらしい演奏がくりひろげられる。


現在、世界中で他者に対する排他的な方向へ
向かう不穏な空気があるが、
つくづく音楽、あるいは芸術を目指すものは
それとは逆の方を向いているのだなあと思う。
音楽の対極にあるのが、「戦争」だとも。

監督は『バックコーラスの歌姫たち』の人で、
あのドキュメンタリーもすばらしかったが、
本作もそれに負けず踊らず、すばらしい出来に
仕上がっている。
おすすめです!
★★★☆

この記事は、WEB旅行人シネマ倶楽部に寄稿したものを転載しました
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by mahaera | 2017-03-22 11:33 | 映画のはなし | Comments(0)

最新映画レビュー『ボヤージュ・オブ・タイム』 いつものマリック節が今度はドキュメンタリーで

ボヤージュ・オブ・タイム
Voyage of Time: Life's Journey

2016年/フランス、ドイツ、アメリカ

監督:テレンス・マリック
語り:ケイト・ブランシェット
配給:ギャガ
公開:3月10日よりTOHOシネマズ シャンテにて公開中


『ツリー・オブ・ライフ』以降のテレンス・マリック作品は、
すべて同じとも言える。
美しい映像の中で、自分の存在意義を問いかける
主人公のモノローグが全編を支配する。
本作はそれを劇映画ではなく、
ドキュメンタリーとして形にしたもの。
まず、キューブリックの『2001年宇宙の旅』のラストのように、
ビッグバンから宇宙が始まり、
惑星が形成されていく様子が描かれていく。
惑星のうちの一つに地球があり、海に初めての生命が誕生する。
人間の登場、そして現代に至るまでの50億年の歴史を、今も地球の何処かに残る原初の風景と、CGIなどによってたどる90分だ。

とはいえ、ヒストリーチャンネルとどこが違うかというと、
解説はなく、そこにかぶるのはケイト・ブランシェットによる、
哲学的な内容のモノローグだ。
映像は美しいのだが、それだけでもたせるには
長編映画は長すぎる。
しかし、モノローグというか、この語りは
少しも具体的な話ではないので、眠さはぬぐえない(笑) 
商業的なエンタテインメントとは無縁なのだ。
ある意味、お金のかかった実験映画ともプライベートフィルムといえるが、僕も途中で夢うつつになってしまった。家でぼーっとDVDか何かで見るならいいのかもしれないけれど。
★★
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by mahaera | 2017-03-21 13:30 | 映画のはなし | Comments(0)