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旅行・映画ライター前原利行の徒然日記

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カテゴリ:映画のはなし( 490 )

最新映画レビュー『ノクターナル・アニマルズ』映画好きは堪能できる濃厚な作品

ノクターナル・アニマルズ
2016年/アメリカ

監督:トム・フォード
出演:エイミー・アダムズ、ジェイク・ギレンホール、マイケル・シャノン、アーロン・テイラー=ジョンソン
配給:ビターズ・エンド/パルコ
公開:11月3日よりTOHOシネマズシャンテにて公開中



エイミー・アダムズ演じるアートギャラリーの主宰者であるスーザンは、仕事では成功し、またイケメンの夫(アーミー・ハーマー、あのウィンクルボス双子ね)もおり、経済的には裕福だ。
しかし仕事には空虚さしか感じないし、
夫は多分浮気を繰り返している。
そんな彼女の元に、20年前に別れた元夫エドワード(ジェイク・ギレンホール)が書いた小説「夜の獣たち(ノクターナル・アニマルズ)」が送られてくる。
かつて酷い仕打ちをして、エドワードを捨てたスーザン。
その小説は暴力的だが、力強いものがあり、
読み進めていくうちにスーザンは引き込まれていく。
一体なぜ、エドワードはこの小説を書き、彼女に送ってきたのか。

映画は、スーザンの住むハイソだが空虚な世界と、
小説の中のバイオレントな砂漠での出来事が、交互に描かれる。
スーザンのいる世界は、空虚で見栄えだけの世界。
ギャラリーや彼女の家にあるアート作品は
できるだけ本物を借りたそう。
全裸の巨大肥満女性が踊り空虚な視線を投げかける冒頭の映像から、観客に挑戦的な現代アートを見せられている感じだ。

一方、小説の中は、「アメリカの田舎は怖い!」という
「テキサスチェーンソー」的なジャンルで、
たまたま通り掛かった家族が拉致されてしまう怖さ。
この中の家族をギレンホールとアダムズが演じているのだが、
これはスーザンが読み進めているうちに、
自分と元夫を思い浮かべているから。
田舎道でネチネチ絡まれるくだりは、
見ていて本当にハラハラする。
悪役に当たるアーロン・テイラー=ジョンソンのキレッぷりは憎たらしいし、地方の保安官を演じるマイケル・シャノンは、アカデミー助演男優賞をとって欲しかったほどの当たり役かと思う。
ここは、感情を激しくゆすぶられるパートだ。

エンディング、および元夫は何をしたかったのかは、
はぐらかさられるところがあるが、
それは観客を宙ぶらりんな気持ちにさせるためか。
拡大系の公開ではないので、見る機会は少ないと思うが、
映画好きには「映画を見た」という気分になる作品だ。



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by mahaera | 2017-11-10 12:15 | 映画のはなし | Comments(0)

最新映画レビュー『マイティ・ソー バトルロイヤル』を観た。路線変更のギャグタッチ

咳が続いて、酒が吞めぬので、レイトショー。
日米でヒット中の『マイティ・ソー バトルロイヤル』を観に行く。
ソーシリーズでは第3作目に当たるが、
話としては『アベンジャーズ/エイジ・オブ・ウルトロン』との続き。
全体的に暗いDCとの対比か、最近はコミカルな要素が強いマーベル作品。
その中でソーシリーズは割とシリアスめだと思っていたら、今回からいきなりの路線変更。
コメディタッチで子供も楽しめるバトル大会だ。

ケイト・ブランシェットという最強の敵が出てきたにもかからず、
ギャグとアクション。ガーディアンズ・シリーズと、同じくらいのライトさだ。
違和感やツッコミどころを感じつつも、
きちんと娯楽作としてまとめ上げているのはさすが。
ただし話が盛りだくさんすぎて、時間の経過がわからん(笑)

しかし、アズガルドの住民て、あの船に乗り切るほどしかいないのか?
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by mahaera | 2017-11-08 13:29 | 映画のはなし | Comments(0)

最新映画レビュー『ブレードランナー2049』を観た。映像、音楽、音響と、画面構成が素晴らしい

この二ヶ月あまりで、シリーズもの、続編もの映画ラッシュだが、
まずは『ブレードランナー2049』。
高校生だった当時、リアルタイムで観た『ブレードランナー」だが、
しかしそんなに思い入れはない。

なので、今回まっさらの頭で観たが、
リドリー・スコットの最近のエイリアンシリーズでの命題も盛り込まれ、
さらに『エイリアン・コヴェナント』よりも十倍楽しめる。
これは、スコットが監督せずに、今、上り調子の監督、
ドゥニ・ヴィルヌーヴに任せて大正解だ。
画面構成が素晴らしく、撮影監督のロジャー・ディーキンスの仕事ぶりが素晴らしい。
どんな激しいアクションシーンでも、我々を傍観者の気分にさせてくれる。
また、音楽と音響デザインも映画のルックにピッタリだ。
ということで、大画面の映画館で観るべき作品だろう。
「淡々としすぎて長い」という人もいるだろうが、
これはそれに浸れる人には、長さも淡々さも苦にならない。

で、本作に合わせて、前日譚となる3作の短編が作られたが、
これは全部、YouTubeで見られる。
劇中に語られる大停電の資源を描いたアニメ、
レプリカントの新型を認めさせるウォレスと、
Kがモートンの前に現れるきっかけとなった事件を描く2つの実写短編だ。
字幕はないが、なんとなくわかるかと思う。



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by mahaera | 2017-11-02 15:14 | 映画のはなし | Comments(0)

最新映画レビュー『婚約者の友人』誤解から生まれた愛を描く、オゾン監督最新作

婚約者の友人
2016年/フランス、ドイツ
監督:フランソワ・オゾン
出演:ピエール・ニネ、パウラ・ベーア
公開:シネスイッチ銀座にて公開中

10月公開作品で、一番のオススメ、というより、
個人的に一番心境的にハマったのが、本作だ。
原作となる戯曲を過去にルビッチが映画化したこともあったらしい。
舞台は第一次世界大戦後のドイツの地方都市。
婚約者フランツを戦争で亡くしたが、行くあてのないアンナを、
フランツの両親は自分の娘のようにして一緒に暮らしている。
ある日、フランツの墓参りをして泣いているフランス人のアドリアンを、
アンナは見かける。アドリアンを家に招いたフランツの両親に、
彼は戦前のパリに来たフランツと知り合い、友人だったという。
かつての敵国人ということで反感を持つ周囲だが、フランツの両親、
そしてアンナはアドリアンに好意を持っていく。
しかしアドリアンには秘密があった。。。

映画を見慣れている人であれば、途中でアドリアンの秘密は予想がつく。
なので、映画の中盤でそれを明かしてしまうのはよくわかる。
問題はそのあとの展開だ。原作では主人公はアドリアンだったのに、
映画ではアンナにそれを変えた理由が、そこにあるからだ。
アンナの抑えた愛情が愛おしく、そして優しさから嘘を選ぶ心、
彼女が最後に選ぶ道も、力強さとやるせなさも感じさせる、大人の味わいだ。
こう言う映画は、なかなか出会えない。
愛とは、誤解から始まるものだが、それも愛なのだと。
それでも前に進む、アンナの姿には心打たれる。
★★★☆
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by mahaera | 2017-10-26 20:29 | 映画のはなし | Comments(0)

最新映画レビュー『バリー・シール アメリカをはめた男』コメディにするしかない、ひどい実話

あまりみなさん興味ないと思うが、現在公開中のトム・クルーズ主演の『バリー・シール アメリカをはめた男』結構面白かった。
これは実話で、民間航空会社のパイロットのバリーがCIAにその腕を買われて、中米の反政府ゲリラに武器を密輸するが、
帰りに空になった飛行機で、コロンビアから大量のコカインを運び、大儲けするというピカレスクコメディ。

ニカラグアのサンディニスタ政権に対抗するゲリラに渡す武器が
アメリカ製だとバレるので、CIAがイスラエルから
ソ連製の武器を手に入れて飛行機に積み込むんだが、
ゲリラたちはほとんど戦う気がなく、
アメリカから来た武器を転売目的でもらうボンクラばかり。
秘密訓練でアメリカに運ばれた兵士たちも、
アメリカに着いた途端に脱走したりと、
映画を見ていると「こんな奴らに援助しているCIAはマジでバカ」と誰しも思う。
おまけに時のレーガン政権時は麻薬汚染がアメリカに広まったのたが、その原因がCIAが用意した飛行機とは。
CIAもバリーの密輸を知っていたが、
とにかく武器を運んでもらうために、大目に見ていた。

ま、アメリカもその後、イラン・コントラ事件を起こす。
これもバカな話で(本作にもノース中佐は登場)、
ニカラグアの反政府組織にソ連製の武器を渡すために、
当時の敵国であるイランにアメリカ製の武器を売り、
そこでソ連製の武器を買っていたことが発覚した事件だ。
今だったら、アメリカ軍が密かに北朝鮮に武器を売っているようなもの。

しかしこんな無茶苦茶なことができたのは、
携帯もインターネットもない時代だからだったのかも。
テイストとしては、あまりにもやっていることが酷すぎて
笑うしかないという、ディカプリオ主演の
『ウルフ・オブ・ウォールストリート』と同じ。
しかし、この映画の問題は、それをトム・クルーズが演じているので、嫌な奴に見えないところかな。
そこで本作の批評性は薄れ、娯楽作品になってしまったのが残念。
お前のせいで、多くの人が麻薬で命を落としたんだろって。
しかし、一冊の本を読んだほどの気分になった。

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by mahaera | 2017-10-23 12:55 | 映画のはなし | Comments(0)

9月公開の映画、まとめてレビューですみません!

最近、気持ちの余裕がなくて、映画レビューとか全く書いていない。
いやいや、そこそこは映画見ているのだけれど。
9月公開作品では、『ダンケルク』を海老名のTHX劇場で見たら、
その音響のリアルさにぶっ飛んだ。
いや、次のスターウォーズは、このスクリーンで観よう。
是枝監督の『三度目の殺人』は安定した出来で、
終わったあともあれこれ考えた。

韓国ホラーの『新感染ファナルエクスプレス』は、
ゾンビものに親子の愛を絡めて、ハラハラさせて泣かせると
意外にいい出来だったが、リドリー・スコットの
『エイリアン・コヴェナント』
は期待はずれだった。
なんだか、過去作品のいいとこ取りで既視感が。

ハルストレム監督の『僕のワンダフルライフ』は、
心に響かないテレビ映画のようだったが、
犬好きには夢のような映画なのだろうか(僕も犬は好きだけど)。

で、9月公開でイチオシはベタなヒューマンドラマと言われようと、
『ドリーム』
。宇宙開発もの、公民権運動もの、という、
自分の好みのど真ん中というジャンルと、
「あきらめずに頑張る」という超ポジティブなメッセージが、
ダウナーな日々を送っている自分に響いた。
自分を信じて前へ進むというアメリカンなマインド、
今でも好きです。泣いた。
ファレルらの音楽もGood !
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by mahaera | 2017-10-18 20:20 | 映画のはなし | Comments(1)

最新映画レビュー『LOGAN/ローガン』 シリーズ最終章はまさかの傑作!

20年近く、“ウルヴァリン”を演じてきたヒュー・ジャックマン。
その最終作となる「LOGAN」は、まさかの傑作だった。
ダメな作品もあるが、それで全作品を見続けてきたファンにとっては、最高の贈り物だ。

不死の体を持ったおかげで、愛するものの死を見すぎた
ローガン(ウルヴァリン)。
アルツハイマーを患い、自分の力を制御できなくなった
チャールズ(プロフェッサーX)の面倒を見ながら、自殺を夢見ている。
そんな彼が抱え込むことになったのは、
彼の遺伝子を組み込まれて誕生した少女。
逃避行を続ける3人の姿は“家族”に見えてくる。
Xメンシリーズ、最高のバイオレンス映画(首が飛びまくる)だが、
それも「人を殺したものは、一生それから逃れることができない」
という映画「シェーン」のセリフを生かすため。

最後は、もう涙目になってしまったよ。
娘を持つ男親には、「インターステラー」に続く
号泣映画であることはまちがいない。命が受け継がれるためには、
人と同じようにローガンも死なねばならないのだ。
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by mahaera | 2017-06-07 09:27 | 映画のはなし | Comments(0)

最新映画レビュー『はじまりへの旅』 母親の死をきっかけに、旅に出る一家のロードムービー

はじまりへの旅
Captain Fantastic
2016年/アメリカ

監督:マット・ロス
出演:ヴィゴ・モーテンセン、フランク・ランジェラ、ジョージ・マッケイ
配給:アンプラグド
公式HP /hajimari-tabi.jp/
公開:4月1日より公開中



俳優としては脇役が多く、僕も印象にないマット・ロスだが、
この小品で監督として注目を浴びている。
また、主演のヴィゴ・モーテンセンは、
本作でアカデミー主演男優賞にノミネートされた。

アメリカ北西部の山の中、父親ベンと7歳から18歳の6人の子供たちが自給自足の生活を送っている。
高い教育とサバイバル技術を身につけさせ、
ある意味純粋培養させられたような子供たち。
しかし心を病んで故郷に帰っていた妻が自ら命を絶ったことを
知り、ベンと子供たちは葬儀が行われる
ニューメキシコまで2300キロの旅に出る。
そしてそれは、子供たちにとっては、
初めて見る外の世界だった。。

日本ではふつうの人が子供を学校に通わせずに
義務教育を受けさせることは違法だが、
アメリカでは自宅で義務教育を行うホームスクーリングは合法だ。
なので、宗教や思想上の理由で、
そうしているファミリーもいるという。
本作では、子供たちにとっては家の周りの自然が「世界」で、
身の回りにいる唯一の大人である父親が「神」に近い存在になる。父親は絶対的な存在だ。
ただし、本作のヴィゴ・モーテンセンは、
独裁ではあるものの強権的ではなく、超リベラル。
とはいえ、人間がエデンの園を出て行ったように、
子供達も自我を持てば、
いつしかその楽園から出て行く
ことになる。
そのきっかけが「母の死」で、外界を知ってしまった
子供達がどうするか、そして“汚れた世界”から子供たちを
“守ってきた”父親が、いかにして自分も折り合いをつけていくというロードムービーだ。

娯楽エンタテインメントというよりは、
オフビートコメディといった感じだが、
映画全体に流れる、失われていく時への感傷は、
70年代ニューシネマ的感覚。
アカデミー賞やゴールデングローブ賞など各賞の主演男優賞に
ノミネートされたヴィゴの演技は秀悦。
随所にかかるサウンドトラック音楽もよく、
ディラン作の「アイ・シャル・ビー・リリースト」や、
ガンズ作の「スイート・チャイルド・オブ・マイン」が、
カバーにより意外なところで流れる。
★★★
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by mahaera | 2017-04-25 09:21 | 映画のはなし | Comments(0)

最新映画レビュー『HARDCORE ハードコア』    全編1人称カメラによる、体験型?アクション映画

HARDCORE ハードコア

2016年/ロシア、アメリカ

監督:イリヤ・ナイシュラー
出演:シャールト・コプリー、ダニーラ・コズロフスキー、ヘイリー・ベネット、ティム・ロス
配給:クロックワークス
公開:4月1日より新宿バルト9 にて公開中


ビデオゲームはしないので詳しくはわからないが、
画面前方に銃を持った自分の手が映り込み、
現れた敵を次々と撃ち倒していくものがある。
簡単に言えば、そんな画面だけで構成された、
全編主観映像という、映画としてはある意味、
実験的ともいえるアクション映画だ。

そうした主観映像で構成された映画は今までにもなくはないが、
全編にわたってというのは少ない。
というのも、長編映画として成立させるにはかなり難しいからだ。
主人公の顔や表情が映らない、つまり主人公を客観的に移さないと、逆に観客は感情移入しにくい。
小説なら、モノローグや主人公が思っていることを書けるが、
映画ではペラペラ喋らせるわけにもいかない。
そこで主人公の代わりに、次々と現れる登場人物たちが、
物語の説明をして進行させ、あるいは主人公の気持ちを代弁するのだが、それもやりすぎると鬱陶しい。
本作は、そうしたハードルを越えるために、
さまざまな工夫をしているのがよくわかる。

“私”が目を覚ますとそこは研究室。
目の前にいた女性は私が「ヘンリー」であると言い、
さらに彼女は自分の妻のエステルであると言う。
研究者でもあるエステルは、事故で左側の手足を失った私に
機械の手足を装着さる。
“私”は記憶と声を失っているので、自分が何者であるか、
そして自分の意思を声で伝えることができない。
そこに、エイカンという超能力を持つ男たちに率いられた
傭兵たちが乱入し、研究者たちを惨殺。
なんとかモスクワの町に脱出した私とエステルだが、
エイカンの追っ手にエステルをさらわれてしまう。

「主人公がどんなキャラクターであるかを主観映像では
説明しにくい」ということを前述したが、
ここでは「記憶喪失」そして「声が出ない」という設定を
最初に織り込むことによって不自然さを解消し、
さらに巻き込まれ型アクションにすることで、
映画内時間と実際の時間をうまくシンクロさせる設定を
作り出している。
主観映像だと、基本的にカットの切り返しがないから、
基本的には連続した映像(長回し)になるからだ。

主観映像だけでアクションを構成するのは、
動きの制約があって大変だと思うのだが、
そこは近年の技術の進歩により、手ぶれ補正がきいていて、
思ったほど画面酔いはしない。
全編で使われているのは、動画撮影で大人気の
アクションカメラGoPro(ゴープロ)だ。
最初から最後までアクションが連続するので、
観客がそれに麻痺してきて飽きることを避ける為の工夫があり、
ガンアクション以外にも、壁を登ったりするアクロバティックなパルクールアクション、ナイフによる接近戦、車に飛び移るカーチェイスなど、趣向を凝らしている(戦車まで出てくる!)。
それでも最後の方になるとちょっと疲れてくるし、
内容に深みはないが、自主上映的な親近感と悪趣味なアクションコメディのテイストがうまくマッチしているかな。
★★★
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by mahaera | 2017-04-19 11:22 | 映画のはなし | Comments(0)

最新映画レビュー『サラエヴォの銃声』 欧州、そしてボスニアの過去と現在を85分間のドラマで語る意欲作

サラエヴォの銃声
Death in Sarajevo

2014年/フランス、ボスニア・ヘルツェゴビナ

監督:ダニス・タノヴィッチ
出演:ジャック・ウェバー、スネジャナ・ヴィドヴィッチ、イズディン・バイロヴィッチ
配給:ビターズエンド
公開:3月25日より新宿シネマカリテにて上映中
公式URL:www.bitters.co.jp/tanovic/sarajevo.html


長編監督デビュー作『ノーマンズ・ランド』で、
いきなりアカデミー賞外国語映画賞を受賞した、
ボスニア出身の監督ダニス・タノヴィッチ
2月に日本公開された『汚れたミルク』はパキスタンを
舞台にしていたが、今回は故郷のボスニアが舞台。
1914年に起きたサラエヴォ事件と、
1990年代に起きたボスニア内戦の問題をクロスさせながら、
続く民族間の緊張、そしてヨーロッパとは何かを問う意欲作だ。

サラエヴォ事件から100年後の2014年。
その記念式典に出席するため、老舗のホテル
「ヨーロッパ」にVIPが到着する。
同じ頃、ホテルの屋上では、暗殺者プリンツィプについての番組の撮影が行われており、女性ジャーナリストがインタビューをしていた。そこへプリンツィプという名前の男が現れる。
ホテルの裏側では、従業員が給料の未払いに抗議するストライキを計画していたが、支配人はそれを阻止しようと画策する。
VIPは部屋に閉じこもり、演説の練習に余念がない。
さまざまな人々の思惑が交差し、
事態は予期せぬ方向へと進んでいく。

同じ国に住みながらお互いに殺しあう内戦を起こし、
今も近親憎悪にも近い憎しみを抱くという
ボシュニャク人、セルビア人、クロアチア人。
ひとつの国のこの三民族の争いはまた、
ヨーロッパ全体の象徴でもある

本作の舞台となるホテルの名前が「ヨーロッパ」であることからしても、それは明白だ。
そこには、さまざまな思惑で生きている人たちで構成されている。
負債に苦しむホテル。資金繰りに厳しい支配人は従業員たちのストを中止させようと、地下の怪しげなクラブの男たちに依頼する。
暗殺者と同じ名前の男はセルビア至上主義者であり、
過去の暗殺を正当化しようとするが、彼もまた行き場のない現実から
逃避するために、攻撃できる誰かを求めている

それでは何の解決にもならないという女性リポーター。
100年前も、30年前も、人々の社会への不満は変わらない。
ただはけ口を求めているだけなのだと。

映画と実際の事件が行われた場所は奇妙にシンクロし、
不思議な感覚を感じさせる。
たとえば事件に関してのインタビューが行われている
ホテルの屋上からは、サラエヴォ事件が起きたラテン橋が見え、
今にも背後で事件が起きるのではという
過去と現在が同居する感覚にとらわれる。
そして映画のロケが行われたホテル“ヨーロッパ”は、
あの“有名な”ホリディ・インだ。
サラエヴォが包囲された1990年代半ば、
ここに世界中からジャーナリストが集まり、
その模様が世界に報道された。
ボスニアの内戦を象徴する場所でもあるのだ。

そして、本作は映画内時間と実際の時間をシンクロさせている。
つまり映画の実時間の85分間に起きた出来事だけで、
ボスニアの歴史、ひいてはヨーロッパの抱える問題までを
一気に提示するのだ。

サスペンスも盛り込んでいるので、
退屈せずに興味は最後まで持続するはず。
ただし、鑑賞前に「サラエヴォ事件」「ボスニア内戦」が
どういうものであったかぐらいは、簡単に調べておこう。
第66回ベルリン映画祭で銀熊賞受賞
★★★
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by mahaera | 2017-04-17 14:46 | 映画のはなし | Comments(0)