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旅行・映画ライター前原利行の徒然日記

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カテゴリ:映画のはなし( 449 )

最新映画レビュー 『ジャック・リーチャー NEVER GO BACK』 トムが活躍するアクション第2弾

ジャック・リーチャー NEVER GO BACK

2016年/アメリカ

監督:エドワード・ズウィック
出演:ハンクスでないトム、コビー・スマルダーズ
配給:東宝東和
公開:11月11日より全国で

元MP(憲兵隊)の指揮官だが組織に限界を感じ、
いまは全米を放浪しているジャック・リーチャー。
ふらりと町に現れて、弱きを助けて悪人を倒し、
事件を解決して去っていく。
西部劇のガンマンのような存在だが、
原作はずっと続いているそうで、今回はその18作目の「NEVER GO BACK」の映画化となる。

まあ、見ている間は面白いんだが、
正統派すぎて引っかからないと言えばそんな映画(笑)。
意外なのが、監督がエドワード・ズウィックということ。
『ラスト・サムライ』が有名だが、『グローリー』『ブラッド・ダイヤモンド』『完全なるチェックメイト』とか、歴史や大きな流れに翻弄される個人を描くのが好き。
たいてい脚本を兼ねているのだが、こうしたメッセージ性のない娯楽映画を撮るとは思わなかった。
製作も兼ねた前作の『完全なるチェックメイト』が、
制作費の半分も回収できなかったからなのかなあなどと想像してしまった。
困っているズウィックに、トムがもしかしたら手を差し伸べたのかもしれない。

この映画で面白いと思ったのは、
リーチャーが軍の警察であるMP出身ということ。
日本では馴染みがないが、軍内の犯罪は一般警察ではなく、憲兵隊が調べる。その仕組みや過程が興味深かった。

で、イマイチに感じたのは、リーチャーが陰謀から助けるMPの将校が美人女性、そしてリーチャーの隠し子疑惑から不良少女を伴っての逃避行、つまりかみさんと娘という疑似家族なんだが、それがリーチャーのキャラに合っていない。
全然、アウトローじゃなくなっている。。。。

女性ファンへの目配せかもしらんが、
孤高のアウトローなら男臭いのを求む。

ということで★★☆ぐらいかなあ。
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by mahaera | 2016-11-11 14:07 | 映画のはなし | Comments(0)

最新映画レビュー 『ザ・ギフト』 監督としての腕も確か。上質なスリラー

ザ・ギフト
The Gift
2015年/アメリカ

監督:ジョエル・エドガートン
出演:ジェイソン・ベイトマン、レベッカ・ホール、ジョエル・エドガートン
配給:ロングライド、バップ
公開:10月28日よりTOHOシネマズ新宿ほか

オーストラリア出身の俳優ジョエル・エドガートンを知っている人は、そう多くはないだろう。
正しくはエジャートンらしいが、日本では間違えたままずっとエドガートンで通ってしまっている。
僕が最初に彼をスクリーンで見たのは、2002年公開の『スター・ウォーズEP2/クローンの攻撃』。
若い頃のオーウェン・ラーズおじさん役でちらっと出てきて、それがよく似ているので、僕の中では、「若いラーズおじさんを演じていた人」という認識で覚えていた。
その後『スター・ウォーズEP3/シスの復讐』にも出ていたが、ちょい役。
俳優として気になったのは、陰惨な犯罪者一家の話『アニマル・キングダム』だ。
次はちょっとカート・ラッセル似の風貌からか『遊星からの物体Xファーストコンタクト』で、準主演級。
今年の『ブラック・スキャンダル』では、ジョニー・デップとダブル主演級で、「おお、ここまで出世したか」と感慨深いものがあった。
で、本作は、そのエドガートンが初監督と脚本、出演も兼ねたスリラーだ。

主人公は、旦那の実家近くにある高級住宅地に移り住んできた妻。
夫婦で買い物に出かけた時、夫に声をかけてくる男がいる。
彼は夫の高校時代の同級生だと親しそうに言うが、夫はうれしそうではない。
その男ゴードは、やがて家の玄関にプレゼントを置くようになる。
そして、夫が留守だとわかっているのに、家に現れるようになる。
ゴードの狙いはなんなのか。そして旦那はなぜ、彼を避けようとしているのか。

ショックシーン、暴力シーンもほとんどないが、じわじわとこの妻が追い詰められていく、上品なスリラーだ。
上昇志向が強くて仕事はやり手という夫を演じているのは、コメディ俳優のジェイソン・ベイトマン(『モンスター上司』とか『宇宙人ポール』とか)。
しかし本作では、まったく笑えない、意外性のある夫を演じている(裏表がある男がなかなか合っている)。
そして、挙動不審の男ゴードを、本作の監督・脚本であるエドガートンが演じている。
本当に不器用なのか、それともその裏にしたたかな面を持っているのか。
そんな夫の前では、すこしおどおどしてしまう主人公には、僕の御贔屓のレベッカ・ホール(笑)。
今回は出ずっぱりで、ゴードに対して同情したり、不気味に思ったり、そして夫に対して不信感を抱いたりと、見せ場が多い。

で見終わって感じたのは、「傷つけられた人はずっとそのことを忘れずに覚えているし、何よりも謝罪の言葉が欲しい」ということ。
自分が暴力的になれない人は、やり返したりができないし、それを求めてはいない。
しかし、それを見透かして、いじめる卑劣な奴もいる。
ラストの落とし所(ザ・ギフト)は劇場で見てのお楽しみ。こういうのはあまり前知識なく、みたほうがいいからね。
(★★★)
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by mahaera | 2016-11-09 19:08 | 映画のはなし | Comments(0)

最新映画レビュー『われらが背きし者』、『フランコフォニア ルーヴルの記憶』

10月21日公開
『われらが背きし者』 スザンナ・ホワイト監督


ジョン・ル・カレ原作によるスパイ映画。
ル・カレ作品はよく映画化されているが、
最近の『裏切りのサーカス』や『ナイロビの蜂』は
非情な世界を英国俳優たちの抑えた演技で見せてくれ、
英国映画らしい、いい作品だった。
今回も派手な打ち合いはほとんど皆無の地味なスパイものだが、
なかなか見ごたえのある作品になっている。

映画は3人の男を軸に進む。
自分の浮気が原因で妻とはうまくいっていない大学教授(ユアン・マクレガー)が、関係を修復しようと妻とふたりでモロッコに旅行に行く。
そこで彼はロシアンマフィアのマネーロンダリング担当の男(ステラン・スカルスガルド)と出会い、彼に亡命の手助けを頼まれる。
まもなく用済みとなるマフィアは、
家族とともに組織に消される運命にあった。
教授から連絡を受けたイギリス情報部の担当者(ダミアン・ルイス)はマフィアを亡命させようとするが、
彼と個人的に対立する上層部に邪魔をされてできない。
そこで彼は情報部の上司に内緒で亡命工作を進めるが、、、。

主人公は暴力とは縁のない一般人。
その彼が危険な世界に巻き込まれていくうち、家族を救うために亡命しようとするマフィアと奇妙な友情で結ばれていく。
そして危険を乗り越えることで、
冷めていた夫婦の絆も取り戻していく。
主人公のユアン・マクレガーがイケメンすぎて、
いまひとつ大学教授に見えないのが残念。
しかしマフィア役のステラン・スカルスガルドは、
善悪両方の面を持つマフィアを深みのある演技で見せているし、
あまり知らない俳優のダミアン・ルイスも、
実際にイギリスにいそうな官僚タイプの情報部員の雰囲気をうまく出し、ともに好演。
キレはないかもしれないが、
こうした堅実に作られているB級映画は好きだ。
昔、名画座の2本立てで、お目当てじゃない1本で、
拾い物をした感じ。
(★★★)

10月29日公開
『フランコフォニア ルーヴルの記憶』 アレクサンドル・ソクーロフ監督


観念的な映画がダメなわけじゃないよ。
スカした映画が嫌いなわけじゃない。
ただ、この映画はアイデアが上滑りして、
それがこちらに伝わってこなかった。
ふつうの劇映画でもドキュメンタリーでもない本作は、
いくつかのイメージのつなぎ合わせだ。
冒頭、監督のもとに美術品を積んで荒波に揉まれている貨物船の船長から、ネットで連絡が入る。
再現ドラマでは、第二次世界大戦中に、ルーブルの館長とドイツ人将校が美術品を守ることで協力する話が演じられる。
それと夜のルーブルを徘徊するナポレオンと
フランス革命を象徴する女性が徘徊する。
大仰な音楽とかみ合わないテンポに、夢の世界に引き込まれた。(★)
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by mahaera | 2016-11-04 10:19 | 映画のはなし | Comments(0)

最新映画レビュー 『ハドソン川の奇跡』 ただの美談にせず、ひとりの男の物語として成功

ハドソン川の奇跡
Sully
トム・ハンクス主演、クリント・イーストウッド監督


前情報を入れていなかったので、
なんでこの事件をイーストウッドが撮るのか不思議だった。
だって当時ニュースでよく流れた有名な事件だし、
「奇跡の生還物語」として再現映像もよくやっている。
誰もが全員助かった事件と記憶しているので、
ゴールが見えている話だ(それも感動を呼ぶ結果が見えている)。
よほどうまくやらない限り、安っぽい感動ドラマになりかねない。
「わざわざ感動しに行くの、いやだなー」と思って
ノーマークだったが、評判がいい。
で、観に行ったのだが、これがいい意味で期待を裏切ってくれた作品だった。

エンジントラブルからハドソン川に着水したUSエアウェイズ機。
映画はもうその事故が終わったあと、サリー機長が飛行機がビルに激突する悪夢をみるところから始まる。
彼は生還したが、「もしも」という墜落の夢を見てしまうのだ。
マスコミは「彼は英雄」と持ち上げる。
しかし調査委員会からは、
「管制塔の指示に従っていれば無事に他の空港に着陸できたはず」
という意見が出される。
サリー機長の決断は、大惨事を招く
大きな判断ミスだったかもしれないと。
離陸から着水までわずか4分半ほどしかなかった。
エンジントラブル発生からは3分ほどしかない。
考える時間はたった30、40秒。

そんなそう、これは
「俺の判断にミスはなかったか。
俺は本当に正しい選択をしたのか」

といういつものイーストウッド映画だった。
人々は彼を英雄に祭り上げるが、その一方で非難をする人もいる。
悩む機長だが、その一方で何度考えても
「あれはあの状況では最善の選択だった」と確信する。

この映画で感銘を受けたのは、操縦士、客室乗務員、
そして救助にかけつけた人々のプロフェッショナルさだ。
それをいやらしく感動的に盛り上げるのではなく、
「仕事ですから」というスタンスなのがいい。
プロフェッショナルの格好良さを見せてくれるのだ。

そして、これは911の後の事件だということ。
ニューヨークでビルにまた旅客機が激突したら、、。
たぶん、ニューヨーク市民、いやアメリカの人々にとって、
悪夢が再びということになったろう。
だからこの全員が助かったハドソン川の着水事故は、
ただの事故以上のものがあったのだ。

ということで、「君の名は。」が現実世界ではできなかったことを
映画の世界で果たしてカタルシスを味わう「ポスト311映画」(「シン・ゴジラ」も)だったが、
この事故は「ポスト911」を
現実世界で果たしたものだったといえよう。
上映時間90分台と大作にしては短い上映時間だが、満足いく内容。
(★★★☆)
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by mahaera | 2016-11-02 11:58 | 映画のはなし | Comments(0)

最新映画レビュー セリフが説明過多な『ダゲレオタイプの女』、脚本が雑な『スタートレックBEYOND』

10月15日公開
『ダゲレオタイプの女』 黒沢清監督


怖〜い映画を撮るので、毎回見るのを躊躇する黒沢清監督作品。
今回はフランスに招かれて監督した作品。
「ダゲレオタイプ」は昔の写真の手法で、長時間露光が必要なので被写体を拘束具につけて固定して撮影する。
主人公の青年ジャンは、その写真家の助手に雇われているうち、固定されて被写体になっている写真家の娘マリーに恋をしていく。
前の被写体だったマリーの母はその屋敷で自殺していた。
ジャンはマリーを屋敷から連れ出そうとするが。。。

ドロドロとしたホラーではないが、ふつうに幽霊は出てくるし、
妄想も出てくる。
少人数の息詰まる人間関係。ただ、怖いというわけではない。
雰囲気でもっていく幽霊話は僕も大好きだが、
いかんせんセリフが説明的すぎてのれなかった。
物語の重要な部分を、アクションではなく、
すべてセリフで語ってしまうからだ。
たとえば推理もので
「佐藤の本当の父親は鈴木ではなく、田中だった!」みたいな、
観客が驚く展開があるとしよう。
映画ではテンション上げた上で、
ふと主人公がそれに気がついて観客が驚くシーンを用意する。
しかしここでは日本映画の悪い癖か、それをあっさり第三者の
「そうか!佐藤の本当の父親は鈴木ではなく、田中だっんだ」
というセリフですましてしまう。
本作にもそういうところがあり、それがかなりマイナスに。
★★☆

10月21日公開
 『スタートレック BEYOND』 ジャスティン・リン監督


J・J・エイブラムスが、「スターウォーズ」に行ってしまたので(制作には残留)、監督が「ワイルドスピード」シリーズのジャスティン・リンに変わった3作目。
そのおかけで、タッチはかなり「ワイルドスピード」(笑) 
敵との戦いを見せるというより、いかにエンタープライズ号のチームプレイを見せるという方向に、ポイントがシフトしている。
いつものジャスティン・リン演出は知的ではないが、見せ場をちゃんと理解しているという娯楽映画としては王道の造り。
なので今回の「BEYOND」のダメさは、
脚本のひどさにあるのだろう。
出演のひとりのサイモン・ペッグが書いたものだが、
面白くないし、細部がかなりずさん。
結局設計図がダメなので、
バイトが作った定食のような出来になってしまった。
演技力がそれほどあるわけではない俳優たちも、
今回はその弱点が露出してしまい残念。
★★
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by mahaera | 2016-10-31 13:18 | 映画のはなし | Comments(0)

子供に教えている世界史・番外編 映画『最前線物語』と『史上最大の作戦』

教えている世界史も第二次世界大戦に入った。
第二次世界大戦を描いている映画はゴマンとあるが、
基本的にDVDで見るときは、食事をしながらの休憩時なので、
『プライベートライアン』のようなスプラッタは厳しい。
西部戦線をミクロな視点とマクロな視点で描句とどうなるかというので、何日かに分けてこの2本を見た。
それぞれ3時間弱の大作だ。

『最前線物語』
は、自分も第二次世界大戦の兵士だったサミュエル・フラー監督の1980年の隠れた名作映画。
知名度は高くないが、評価は高い。
特にリー・マービンの鬼軍曹役は絶品。
「スター・ウォーズ」のマーク・ハミルも出ている。
ストーリーは、その鬼軍曹に率いられた若い4人の第一分隊の歩兵の青年たちが、ヨーロッパ各地を転戦していくもの。
米軍最初の戦いは、北アフリカのヴィシー政権のフランス軍と戦うことだった。
その後、北アフリカ戦線、シチリア攻略、イタリア上陸、ノルマンディー上陸作戦、アルデンヌの戦い、ドイツ西部戦線、最後にはチェコの絶滅収容所の解放で終わるという、西部戦線をほぼ網羅しているので、流れを掴むのにはいいかなと思った。
実際の第一分隊も、有名な戦いのほとんどに参加しているという。
この映画がミクロな視点というのは、主人公たちが歩兵なので、
全体像ではなく、常に前線の一兵士の視点で語られていくこと。
いくつかのエピソードがブツブツと繋がっていき、いろいろなことを考えさせてくれるが、未消化のまま次へ次へと進む。
なので、見終わった後に、非常にモヤモヤした感じになるのだが、それこそがこの映画の魅力だ。
戦争で人を殺すことは、モヤモヤしたものなのだから。

『史上最大の作戦』は、『最前線物語』にも出てきたノルマンディー上陸作戦をマクロの視点で描いた大作。
2日間の出来事を数百人にインタビューしたコーネス・ライアンの原作は非常に面白く、高校時代に読みふけったものだ。
一兵卒から将軍、アメリカ軍、イギリス軍。ドイツ軍、フランスのレジスタンス、空挺部隊、上陸部隊、守るドイツ部隊と、あらゆる視点からこの上陸作戦を描く、いわば神の視点だ。
世界史を学ぶのは、こうした神の視点からの学習だが、
それだけだとそうなるのが必然な気がしてしまいがち。
戦争の悲惨さを知るには、やはりミクロな個人の視点と合わせているのがいいだろう。
先日、子供に見せた『トラ!トラ!トラ!』もマクロな視点だが、逆にそうした戦争映画は最近少なくなってきたなあ。
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by mahaera | 2016-10-26 11:08 | 映画のはなし | Comments(0)

最新映画レビュー 『奇蹟がくれた数式』 若きインドの数学者が海を渡り、英国の教授と数式の謎に挑む

奇蹟がくれた数式
The Man Who Knew Infinity
2016年/イギリス

監督:マシュー・ブラウン
出演:デヴ・パテル(『スラムドッグ$ミリオネア』『マリーゴールド・ホテルで会いましょう』)、ジェレミー・アイアンズ(『運命の逆転』『ミッション』)、トビー・ジョーンズ (『裏切りのサーカス』)
配給:KADOKAWA
公開:10月22日より角川シネマ有楽町ほか


●ストーリー

1914年、インドのマドラスで働く青年ラマヌジャンが出した手紙が、イギリスのケンブリッジ大学トリニティ・カレッジで教授を務めるハーディの元に届いた。
その手紙に書かれていた大きな数学的発見を目にしたハーディは、ラマヌジャンの才能を見抜き、彼をケンブリッジへと呼び寄せる。
ほぼ独学で数学を学んだラマヌジャンだが、ハーディは大きな才能を秘めているのを見抜いたのだ。
妻と母をインドに残し、単身ケンブリッジに向かったラマヌジャンだが、“直感”に基づく彼の数式は、論理的な証明をすることができなかった。
ハーディはラマヌジャンに数式の証明を促すが、なかなかそれを説明することはできない。ラマヌジャンは、次第に孤独に追い詰められていく。

●レヴュー
「数学者」というと最も映画になりにくい題材のように思えるが、数学者ジョン・ナッシュを描いた『ピューティフル・マインド』(アカデミー作品賞)や、数学の才能を持った青年を描いた『グッド・ウィル・ハンティング』などもあるし、数学ではないがホーキング博士を描いた『博士と彼女のセオリー』などもあった。
また、悲劇の数学者チューリングを描いた『イミテーション・ゲーム/エニグマと天才数学者の秘密』も面白かった。

本作はそうした流れを受けつつ、インド以外では知られていない、夭折の数学者ラマヌジャンを取り上げたところが面白い。
僕も10年前に、担当していた某ガイドブックのコラムで取り上げるまでは彼の存在を知らなかった。
南インドのクンバーコナムという町についての原稿を書いていた時に、ラマヌジャンの名が出てきたのだ。

彼の生い立ちや業績は、各自ググっていただくとして、映画の多くを占めるのは彼のイギリスでの留学時代で、彼と指導者であるハーディ教授との師弟関係を中心に語られる。
ラマヌジャンはインドの敬虔なバラモンの家庭に生まれた。
しかし母親と結婚したばかりの妻を養うため、研究に勤しむ事もままならずに、日々働くしかなかった。
彼を研究に駆り立てたのは何だったのか。

私は数学にはとんと疎く、数式を見てもさっぱりわからないが、数学をしている人に聞くと感性は大事だという。
映画では彼の数学的発見の理由を“直感”ともしているが、ラマヌジャンはそれを“女神の導き”とも表現していた。
つまり自分の直感は、神が与えてくれたという事だ。
私たちも日々暮らしていて、理由なしに直感で感じてしまう事がままある。
もちろん、数学は印象ではないが、数字に驚くほど精通していた彼にとって、すべての数字には意味があって存在しているものなのだ。
意味のないものはない。

しかし彼の指導者であり、もう一人の主人公であるハーディには、それが理解できない。
ハーディは無神論者であるだけでなく、人の悩みや様子に気づかない、
“ニブい”男なのだ。しかし彼も学者で、真理を知りたい気持ちはラヌマジャンとなんら変わる事がない。
そんなある意味イギリス的な、世渡り下手な初老の教授を演じているのは『ミッション』などの名優ジェレミー・アイアンズ。
最近、力が抜けてきて、いい感じになってきているが、ここでもそんな役をうまく演じている。

映画は、そんな年齢も国籍も考え方も違う2人が、人間として向き合える関係を築くまでの物語。
なので、スリリングな展開やミステリー風味はない。
20世紀初頭のケンブリッジ大学の雰囲気も興味深い。
誠実な造りだが、無難な展開や着地点なので、あまり印象に残らない出来になってしまったのも確か。
悪くはないが上品にまとめすぎたかな。
(★★★前原利行)

旅行人シネマ倶楽部に寄稿したものを転載しました
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by mahaera | 2016-10-24 13:06 | 映画のはなし | Comments(0)

映画レビュー『七人の侍』 午前十時の映画祭・4k版

4Kで蘇った『七人の侍』

人間、大学受験も大事だが、
いい映画に出会うことも同じぐらい大事だ。
そんなわけで、人生においてモノクロの日本映画なんて見たことがない今どきの息子を連れて、
先週の土曜日に「午前十時の映画祭」へ。

今回は、『七人の侍』。
今年になって映像、音声ともすべてリストアされて、
再公開になっているという。
映像は何度か修復されているが、今回の目玉は音声だ。
確かに今までの『七人の侍』はセリフが聞き取りにくかった。
村人たちや菊千代のセリフは特にそうで、
「字幕が欲しい」といった友人もいた。
今回はなるほど、かなり改善されていて、
一緒に行った息子も特に辛くはなかったようだ。

映画の中身については、もはや言うまい。
大人になるまでこの映画を見ていない人は映画には縁のない人だし、見たことがある人は、すでにその素晴らしさはわかっているはずなので、言わなくてもいい。
この映画と『ゴジラ』が制作された昭和29年は、日本映画の黄金時代だったのだろうなあ。

とにかく名セリフだらけ。
自分が中学・高校の時はビデオデッキなんてないから、テレビ放映時にカセットテープに入れて、後で何度も聴いていたせいか。
確か中3ぐらいの時にテアトル東京でリバイバル上映があり、4回ぐらい見に行った気がする。
最後の田植えのシーンは、戦後の復興の日本を象徴しているのだろう。
戦火に踏みにじられても、たくましく生きて行く日本人の姿。
三船敏郎の菊千代は、何度見ても素晴らしい。
息子は、宮口精二演じる凄腕の侍の久蔵に痺れたらしい。
勝四郎だね。「まだ子供だ」

音楽では、有名な「侍のテーマ」と『ロード・オブ・ザ・リング』の「旅の仲間のテーマ」が似ているような気がするのだが、意識したのかな。

劇場によっては今週の金曜まで、あるいは今週の土曜から上映。
ぜひ劇場へ!
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by mahaera | 2016-10-21 09:36 | 映画のはなし | Comments(0)

最新映画レビュー 『ジェイソン・ボーン』、『Yesterday イエスタデイ』、『アイ・ソー・ザ・ライト』。

すでに10月公開中の映画で書きそびれたものを3本を簡単に。

『アイ・ソー・ザ・ライト』
タイトルからしてトッド・ラングレンの曲かと最初は思ったが、
アメリカでは29歳の若さで亡くなった伝説のカントリー歌手ハンク・ウィリアムズのヒット曲がまず浮かぶらしい。
もちろん元の意味は、聖書の引用。
映画はそのハンク・ウィリアムズがプロになってから亡くなるまでを描く伝記映画。
生まれつきの背中の痛みを紛らわすために、アルコールや薬物依存になり、優れた曲を作りながらも仕事を干されていくハンクには、『マイティ・ソー』のロキ様役で日本でも人気が高いトム・ヒドルストン。
その妻には『アベンジャーズ』のスカーレット・ウィッチ役のエリザベス・オルセン。
主人公の葛藤が伝わらず、だらだらとパッとしない作品でちょっとガッカリ。

『Yesterday イエスタデイ』

1960年代半ばのオスロを舞台に、高校生たちの青春を描くノルウェー映画。
自分をポール似だと思っている奥手の少年が主人公で、
バンドを結成して、好きな彼女にアピールしようとする。
劇中で紹介される新しいアルバムがSGTなので、
ちょうど時代が変わろうとしているころ。ビートルズ旋風が吹き荒れる中、
このころ世界中でこんな青春があったのだろう。
映画の終盤では、ブルースブームがやってきて、主人公が作る自作曲が、
ビートルズタイプではなく、ブルースなのが時代を感じる。
悪くもなく良くもなくといった、平均的な出来栄えか。
退屈はしなかったけれど。

『ジェイソン・ボーン』
ジェイソン・ボーン、ほぼ10年ぶりの復帰だが、復帰に特に必然性を感じない出来栄え。
監督のポール・グリーングラスと主演のマット・デイモンは続投だが、話に新鮮味が欠けるのと、ボーンが超人的に強いのもなんとなく飽きてきた。
CIA内にボーンの敵と味方がいて、それぞれと駆け引きするというのも、前と同じだしね。
CIAの殺し屋のヴァンサン・カッセルはいいが、あんなに派手に暴れて民間人も殺したら、世間に隠せないでしょう。
個々のアクションは悪くなくても、全体としてはどうしても“劣化”を感じるシリーズ最新作。
イマイチ。
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by mahaera | 2016-10-17 21:52 | 映画のはなし | Comments(0)

最新映画レビュー 『とうもろこしの島』 とうもろこしを植えて収穫を待つ老人とその孫娘

とうもろこしの島
Simindis Kundzli
2014年

監督:ギオルギ・オヴァシュヴィリ
出演:イリアス・サルマン、マリアム・ブトゥリシュヴィリ
配給:ハーク
公開:9月17日より11月11日まで岩波ホールにて公開中

●ストーリー
ジョージア(グルジア)西部のアブハジアで、独立を目指すアブハズ人と、それを阻止するジョージア人との間で紛争が起きていた。一方、戦争から遠く離れた山間の川では、毎年春先になると雪解け水によって川の中洲に島が生まれていた。今年もどこからかアブハズ人の老人が新しくできた島にやってきた。この土地では、そんな肥沃な土地でとうもろこしを作流のが習慣だからだ。老人は小屋を作り、土を耕して種をまく。戦争で両親を失った孫娘も一緒だ。ときおり、両軍の兵士たちが川をボートで行き来し、両岸でにらみ合うこともあるが、老人たちには関心を示さない。とうもろこしは成長していくが、老人たちはその畑の中で傷を負ったジョージア兵を発見する。


●レヴュー
1992年にジョージア(グルジア)で起きたアブハジア紛争を描く映画の連続上映の1本。
もう1本は『みかんの丘』で、これも同時公開中だ。
そちらでも解説したが、アブハジア紛争はソ連邦が解体してジョージアが
ソ連から離れていくと、ジョージア内の自治共和国が
さらに分離していくという、独立の入れ子構造のような戦争だった。
『みかんの丘』でも触れたが、
この戦争は元は同じ国民が殺し合う救われない戦いだった。

しかしこの映画はそうした戦争の背景の説明を一切排し、登場人物にも主張をさせない。
中洲にできた島にまず老人がやってきて黙々と小屋を建て始め、そこに孫娘が加わる。
二人とも寡黙で、特に前半は会話もほとんどない(少女は話せないのかと思ってしまったほどだ)。
そのため、この映画は時代背景もわからない、どこか現実離れした寓話の趣さえ見せるが、ときおり通り過ぎる兵士たちが外の世界と戦争の影を落としていく。

季節は進み、とうもろこしは成長して収穫の時期を待つ。
その生命の力強さと対照的に、常に“死”の影を背負う兵士たち。
しかし傷ついた兵士を目の前にすれば、老人はただ命を助けるだけだ。
戦争は老人と子供しかいない世界を生む。
孫娘が心動かされる相手は、もはや世界には傷ついた兵士しか残っていない。

両岸で睨みあう兵士たちがいる。
とすればこの川の中州の島は、どちらにも属さない平和な世界だが、そこには老人と子供しかいない。
そしてその存在すら許されないかのように、そんな平和さえも川の濁流が奪っていく。
この世界に、もはや平和な場所は残っていないのか。
しかし、翌年になればまた、新たな島が生まれ、そこにとうもろこしを植える男がやってくる。
世界はまた同じことを繰り返していくのだろうか。

美しい自然の中で、生命を育むことと奪うことを描くこの寓話は
、きっと多くのことを考えさせてくれるはずだ。
(★★★☆)

■関連情報
・2015年ゴールデングローブ賞外国語映画賞ノミネート
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by mahaera | 2016-10-15 09:38 | 映画のはなし | Comments(0)