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旅行・映画ライター前原利行の徒然日記

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カテゴリ:映画のはなし( 456 )

最新映画レビュー 『ハドソン川の奇跡』 ただの美談にせず、ひとりの男の物語として成功

ハドソン川の奇跡
Sully
トム・ハンクス主演、クリント・イーストウッド監督


前情報を入れていなかったので、
なんでこの事件をイーストウッドが撮るのか不思議だった。
だって当時ニュースでよく流れた有名な事件だし、
「奇跡の生還物語」として再現映像もよくやっている。
誰もが全員助かった事件と記憶しているので、
ゴールが見えている話だ(それも感動を呼ぶ結果が見えている)。
よほどうまくやらない限り、安っぽい感動ドラマになりかねない。
「わざわざ感動しに行くの、いやだなー」と思って
ノーマークだったが、評判がいい。
で、観に行ったのだが、これがいい意味で期待を裏切ってくれた作品だった。

エンジントラブルからハドソン川に着水したUSエアウェイズ機。
映画はもうその事故が終わったあと、サリー機長が飛行機がビルに激突する悪夢をみるところから始まる。
彼は生還したが、「もしも」という墜落の夢を見てしまうのだ。
マスコミは「彼は英雄」と持ち上げる。
しかし調査委員会からは、
「管制塔の指示に従っていれば無事に他の空港に着陸できたはず」
という意見が出される。
サリー機長の決断は、大惨事を招く
大きな判断ミスだったかもしれないと。
離陸から着水までわずか4分半ほどしかなかった。
エンジントラブル発生からは3分ほどしかない。
考える時間はたった30、40秒。

そんなそう、これは
「俺の判断にミスはなかったか。
俺は本当に正しい選択をしたのか」

といういつものイーストウッド映画だった。
人々は彼を英雄に祭り上げるが、その一方で非難をする人もいる。
悩む機長だが、その一方で何度考えても
「あれはあの状況では最善の選択だった」と確信する。

この映画で感銘を受けたのは、操縦士、客室乗務員、
そして救助にかけつけた人々のプロフェッショナルさだ。
それをいやらしく感動的に盛り上げるのではなく、
「仕事ですから」というスタンスなのがいい。
プロフェッショナルの格好良さを見せてくれるのだ。

そして、これは911の後の事件だということ。
ニューヨークでビルにまた旅客機が激突したら、、。
たぶん、ニューヨーク市民、いやアメリカの人々にとって、
悪夢が再びということになったろう。
だからこの全員が助かったハドソン川の着水事故は、
ただの事故以上のものがあったのだ。

ということで、「君の名は。」が現実世界ではできなかったことを
映画の世界で果たしてカタルシスを味わう「ポスト311映画」(「シン・ゴジラ」も)だったが、
この事故は「ポスト911」を
現実世界で果たしたものだったといえよう。
上映時間90分台と大作にしては短い上映時間だが、満足いく内容。
(★★★☆)
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by mahaera | 2016-11-02 11:58 | 映画のはなし | Comments(0)

最新映画レビュー セリフが説明過多な『ダゲレオタイプの女』、脚本が雑な『スタートレックBEYOND』

10月15日公開
『ダゲレオタイプの女』 黒沢清監督


怖〜い映画を撮るので、毎回見るのを躊躇する黒沢清監督作品。
今回はフランスに招かれて監督した作品。
「ダゲレオタイプ」は昔の写真の手法で、長時間露光が必要なので被写体を拘束具につけて固定して撮影する。
主人公の青年ジャンは、その写真家の助手に雇われているうち、固定されて被写体になっている写真家の娘マリーに恋をしていく。
前の被写体だったマリーの母はその屋敷で自殺していた。
ジャンはマリーを屋敷から連れ出そうとするが。。。

ドロドロとしたホラーではないが、ふつうに幽霊は出てくるし、
妄想も出てくる。
少人数の息詰まる人間関係。ただ、怖いというわけではない。
雰囲気でもっていく幽霊話は僕も大好きだが、
いかんせんセリフが説明的すぎてのれなかった。
物語の重要な部分を、アクションではなく、
すべてセリフで語ってしまうからだ。
たとえば推理もので
「佐藤の本当の父親は鈴木ではなく、田中だった!」みたいな、
観客が驚く展開があるとしよう。
映画ではテンション上げた上で、
ふと主人公がそれに気がついて観客が驚くシーンを用意する。
しかしここでは日本映画の悪い癖か、それをあっさり第三者の
「そうか!佐藤の本当の父親は鈴木ではなく、田中だっんだ」
というセリフですましてしまう。
本作にもそういうところがあり、それがかなりマイナスに。
★★☆

10月21日公開
 『スタートレック BEYOND』 ジャスティン・リン監督


J・J・エイブラムスが、「スターウォーズ」に行ってしまたので(制作には残留)、監督が「ワイルドスピード」シリーズのジャスティン・リンに変わった3作目。
そのおかけで、タッチはかなり「ワイルドスピード」(笑) 
敵との戦いを見せるというより、いかにエンタープライズ号のチームプレイを見せるという方向に、ポイントがシフトしている。
いつものジャスティン・リン演出は知的ではないが、見せ場をちゃんと理解しているという娯楽映画としては王道の造り。
なので今回の「BEYOND」のダメさは、
脚本のひどさにあるのだろう。
出演のひとりのサイモン・ペッグが書いたものだが、
面白くないし、細部がかなりずさん。
結局設計図がダメなので、
バイトが作った定食のような出来になってしまった。
演技力がそれほどあるわけではない俳優たちも、
今回はその弱点が露出してしまい残念。
★★
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by mahaera | 2016-10-31 13:18 | 映画のはなし | Comments(0)

子供に教えている世界史・番外編 映画『最前線物語』と『史上最大の作戦』

教えている世界史も第二次世界大戦に入った。
第二次世界大戦を描いている映画はゴマンとあるが、
基本的にDVDで見るときは、食事をしながらの休憩時なので、
『プライベートライアン』のようなスプラッタは厳しい。
西部戦線をミクロな視点とマクロな視点で描句とどうなるかというので、何日かに分けてこの2本を見た。
それぞれ3時間弱の大作だ。

『最前線物語』
は、自分も第二次世界大戦の兵士だったサミュエル・フラー監督の1980年の隠れた名作映画。
知名度は高くないが、評価は高い。
特にリー・マービンの鬼軍曹役は絶品。
「スター・ウォーズ」のマーク・ハミルも出ている。
ストーリーは、その鬼軍曹に率いられた若い4人の第一分隊の歩兵の青年たちが、ヨーロッパ各地を転戦していくもの。
米軍最初の戦いは、北アフリカのヴィシー政権のフランス軍と戦うことだった。
その後、北アフリカ戦線、シチリア攻略、イタリア上陸、ノルマンディー上陸作戦、アルデンヌの戦い、ドイツ西部戦線、最後にはチェコの絶滅収容所の解放で終わるという、西部戦線をほぼ網羅しているので、流れを掴むのにはいいかなと思った。
実際の第一分隊も、有名な戦いのほとんどに参加しているという。
この映画がミクロな視点というのは、主人公たちが歩兵なので、
全体像ではなく、常に前線の一兵士の視点で語られていくこと。
いくつかのエピソードがブツブツと繋がっていき、いろいろなことを考えさせてくれるが、未消化のまま次へ次へと進む。
なので、見終わった後に、非常にモヤモヤした感じになるのだが、それこそがこの映画の魅力だ。
戦争で人を殺すことは、モヤモヤしたものなのだから。

『史上最大の作戦』は、『最前線物語』にも出てきたノルマンディー上陸作戦をマクロの視点で描いた大作。
2日間の出来事を数百人にインタビューしたコーネス・ライアンの原作は非常に面白く、高校時代に読みふけったものだ。
一兵卒から将軍、アメリカ軍、イギリス軍。ドイツ軍、フランスのレジスタンス、空挺部隊、上陸部隊、守るドイツ部隊と、あらゆる視点からこの上陸作戦を描く、いわば神の視点だ。
世界史を学ぶのは、こうした神の視点からの学習だが、
それだけだとそうなるのが必然な気がしてしまいがち。
戦争の悲惨さを知るには、やはりミクロな個人の視点と合わせているのがいいだろう。
先日、子供に見せた『トラ!トラ!トラ!』もマクロな視点だが、逆にそうした戦争映画は最近少なくなってきたなあ。
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by mahaera | 2016-10-26 11:08 | 映画のはなし | Comments(0)

最新映画レビュー 『奇蹟がくれた数式』 若きインドの数学者が海を渡り、英国の教授と数式の謎に挑む

奇蹟がくれた数式
The Man Who Knew Infinity
2016年/イギリス

監督:マシュー・ブラウン
出演:デヴ・パテル(『スラムドッグ$ミリオネア』『マリーゴールド・ホテルで会いましょう』)、ジェレミー・アイアンズ(『運命の逆転』『ミッション』)、トビー・ジョーンズ (『裏切りのサーカス』)
配給:KADOKAWA
公開:10月22日より角川シネマ有楽町ほか


●ストーリー

1914年、インドのマドラスで働く青年ラマヌジャンが出した手紙が、イギリスのケンブリッジ大学トリニティ・カレッジで教授を務めるハーディの元に届いた。
その手紙に書かれていた大きな数学的発見を目にしたハーディは、ラマヌジャンの才能を見抜き、彼をケンブリッジへと呼び寄せる。
ほぼ独学で数学を学んだラマヌジャンだが、ハーディは大きな才能を秘めているのを見抜いたのだ。
妻と母をインドに残し、単身ケンブリッジに向かったラマヌジャンだが、“直感”に基づく彼の数式は、論理的な証明をすることができなかった。
ハーディはラマヌジャンに数式の証明を促すが、なかなかそれを説明することはできない。ラマヌジャンは、次第に孤独に追い詰められていく。

●レヴュー
「数学者」というと最も映画になりにくい題材のように思えるが、数学者ジョン・ナッシュを描いた『ピューティフル・マインド』(アカデミー作品賞)や、数学の才能を持った青年を描いた『グッド・ウィル・ハンティング』などもあるし、数学ではないがホーキング博士を描いた『博士と彼女のセオリー』などもあった。
また、悲劇の数学者チューリングを描いた『イミテーション・ゲーム/エニグマと天才数学者の秘密』も面白かった。

本作はそうした流れを受けつつ、インド以外では知られていない、夭折の数学者ラマヌジャンを取り上げたところが面白い。
僕も10年前に、担当していた某ガイドブックのコラムで取り上げるまでは彼の存在を知らなかった。
南インドのクンバーコナムという町についての原稿を書いていた時に、ラマヌジャンの名が出てきたのだ。

彼の生い立ちや業績は、各自ググっていただくとして、映画の多くを占めるのは彼のイギリスでの留学時代で、彼と指導者であるハーディ教授との師弟関係を中心に語られる。
ラマヌジャンはインドの敬虔なバラモンの家庭に生まれた。
しかし母親と結婚したばかりの妻を養うため、研究に勤しむ事もままならずに、日々働くしかなかった。
彼を研究に駆り立てたのは何だったのか。

私は数学にはとんと疎く、数式を見てもさっぱりわからないが、数学をしている人に聞くと感性は大事だという。
映画では彼の数学的発見の理由を“直感”ともしているが、ラマヌジャンはそれを“女神の導き”とも表現していた。
つまり自分の直感は、神が与えてくれたという事だ。
私たちも日々暮らしていて、理由なしに直感で感じてしまう事がままある。
もちろん、数学は印象ではないが、数字に驚くほど精通していた彼にとって、すべての数字には意味があって存在しているものなのだ。
意味のないものはない。

しかし彼の指導者であり、もう一人の主人公であるハーディには、それが理解できない。
ハーディは無神論者であるだけでなく、人の悩みや様子に気づかない、
“ニブい”男なのだ。しかし彼も学者で、真理を知りたい気持ちはラヌマジャンとなんら変わる事がない。
そんなある意味イギリス的な、世渡り下手な初老の教授を演じているのは『ミッション』などの名優ジェレミー・アイアンズ。
最近、力が抜けてきて、いい感じになってきているが、ここでもそんな役をうまく演じている。

映画は、そんな年齢も国籍も考え方も違う2人が、人間として向き合える関係を築くまでの物語。
なので、スリリングな展開やミステリー風味はない。
20世紀初頭のケンブリッジ大学の雰囲気も興味深い。
誠実な造りだが、無難な展開や着地点なので、あまり印象に残らない出来になってしまったのも確か。
悪くはないが上品にまとめすぎたかな。
(★★★前原利行)

旅行人シネマ倶楽部に寄稿したものを転載しました
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by mahaera | 2016-10-24 13:06 | 映画のはなし | Comments(0)

映画レビュー『七人の侍』 午前十時の映画祭・4k版

4Kで蘇った『七人の侍』

人間、大学受験も大事だが、
いい映画に出会うことも同じぐらい大事だ。
そんなわけで、人生においてモノクロの日本映画なんて見たことがない今どきの息子を連れて、
先週の土曜日に「午前十時の映画祭」へ。

今回は、『七人の侍』。
今年になって映像、音声ともすべてリストアされて、
再公開になっているという。
映像は何度か修復されているが、今回の目玉は音声だ。
確かに今までの『七人の侍』はセリフが聞き取りにくかった。
村人たちや菊千代のセリフは特にそうで、
「字幕が欲しい」といった友人もいた。
今回はなるほど、かなり改善されていて、
一緒に行った息子も特に辛くはなかったようだ。

映画の中身については、もはや言うまい。
大人になるまでこの映画を見ていない人は映画には縁のない人だし、見たことがある人は、すでにその素晴らしさはわかっているはずなので、言わなくてもいい。
この映画と『ゴジラ』が制作された昭和29年は、日本映画の黄金時代だったのだろうなあ。

とにかく名セリフだらけ。
自分が中学・高校の時はビデオデッキなんてないから、テレビ放映時にカセットテープに入れて、後で何度も聴いていたせいか。
確か中3ぐらいの時にテアトル東京でリバイバル上映があり、4回ぐらい見に行った気がする。
最後の田植えのシーンは、戦後の復興の日本を象徴しているのだろう。
戦火に踏みにじられても、たくましく生きて行く日本人の姿。
三船敏郎の菊千代は、何度見ても素晴らしい。
息子は、宮口精二演じる凄腕の侍の久蔵に痺れたらしい。
勝四郎だね。「まだ子供だ」

音楽では、有名な「侍のテーマ」と『ロード・オブ・ザ・リング』の「旅の仲間のテーマ」が似ているような気がするのだが、意識したのかな。

劇場によっては今週の金曜まで、あるいは今週の土曜から上映。
ぜひ劇場へ!
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by mahaera | 2016-10-21 09:36 | 映画のはなし | Comments(0)

最新映画レビュー 『ジェイソン・ボーン』、『Yesterday イエスタデイ』、『アイ・ソー・ザ・ライト』。

すでに10月公開中の映画で書きそびれたものを3本を簡単に。

『アイ・ソー・ザ・ライト』
タイトルからしてトッド・ラングレンの曲かと最初は思ったが、
アメリカでは29歳の若さで亡くなった伝説のカントリー歌手ハンク・ウィリアムズのヒット曲がまず浮かぶらしい。
もちろん元の意味は、聖書の引用。
映画はそのハンク・ウィリアムズがプロになってから亡くなるまでを描く伝記映画。
生まれつきの背中の痛みを紛らわすために、アルコールや薬物依存になり、優れた曲を作りながらも仕事を干されていくハンクには、『マイティ・ソー』のロキ様役で日本でも人気が高いトム・ヒドルストン。
その妻には『アベンジャーズ』のスカーレット・ウィッチ役のエリザベス・オルセン。
主人公の葛藤が伝わらず、だらだらとパッとしない作品でちょっとガッカリ。

『Yesterday イエスタデイ』

1960年代半ばのオスロを舞台に、高校生たちの青春を描くノルウェー映画。
自分をポール似だと思っている奥手の少年が主人公で、
バンドを結成して、好きな彼女にアピールしようとする。
劇中で紹介される新しいアルバムがSGTなので、
ちょうど時代が変わろうとしているころ。ビートルズ旋風が吹き荒れる中、
このころ世界中でこんな青春があったのだろう。
映画の終盤では、ブルースブームがやってきて、主人公が作る自作曲が、
ビートルズタイプではなく、ブルースなのが時代を感じる。
悪くもなく良くもなくといった、平均的な出来栄えか。
退屈はしなかったけれど。

『ジェイソン・ボーン』
ジェイソン・ボーン、ほぼ10年ぶりの復帰だが、復帰に特に必然性を感じない出来栄え。
監督のポール・グリーングラスと主演のマット・デイモンは続投だが、話に新鮮味が欠けるのと、ボーンが超人的に強いのもなんとなく飽きてきた。
CIA内にボーンの敵と味方がいて、それぞれと駆け引きするというのも、前と同じだしね。
CIAの殺し屋のヴァンサン・カッセルはいいが、あんなに派手に暴れて民間人も殺したら、世間に隠せないでしょう。
個々のアクションは悪くなくても、全体としてはどうしても“劣化”を感じるシリーズ最新作。
イマイチ。
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by mahaera | 2016-10-17 21:52 | 映画のはなし | Comments(0)

最新映画レビュー 『とうもろこしの島』 とうもろこしを植えて収穫を待つ老人とその孫娘

とうもろこしの島
Simindis Kundzli
2014年

監督:ギオルギ・オヴァシュヴィリ
出演:イリアス・サルマン、マリアム・ブトゥリシュヴィリ
配給:ハーク
公開:9月17日より11月11日まで岩波ホールにて公開中

●ストーリー
ジョージア(グルジア)西部のアブハジアで、独立を目指すアブハズ人と、それを阻止するジョージア人との間で紛争が起きていた。一方、戦争から遠く離れた山間の川では、毎年春先になると雪解け水によって川の中洲に島が生まれていた。今年もどこからかアブハズ人の老人が新しくできた島にやってきた。この土地では、そんな肥沃な土地でとうもろこしを作流のが習慣だからだ。老人は小屋を作り、土を耕して種をまく。戦争で両親を失った孫娘も一緒だ。ときおり、両軍の兵士たちが川をボートで行き来し、両岸でにらみ合うこともあるが、老人たちには関心を示さない。とうもろこしは成長していくが、老人たちはその畑の中で傷を負ったジョージア兵を発見する。


●レヴュー
1992年にジョージア(グルジア)で起きたアブハジア紛争を描く映画の連続上映の1本。
もう1本は『みかんの丘』で、これも同時公開中だ。
そちらでも解説したが、アブハジア紛争はソ連邦が解体してジョージアが
ソ連から離れていくと、ジョージア内の自治共和国が
さらに分離していくという、独立の入れ子構造のような戦争だった。
『みかんの丘』でも触れたが、
この戦争は元は同じ国民が殺し合う救われない戦いだった。

しかしこの映画はそうした戦争の背景の説明を一切排し、登場人物にも主張をさせない。
中洲にできた島にまず老人がやってきて黙々と小屋を建て始め、そこに孫娘が加わる。
二人とも寡黙で、特に前半は会話もほとんどない(少女は話せないのかと思ってしまったほどだ)。
そのため、この映画は時代背景もわからない、どこか現実離れした寓話の趣さえ見せるが、ときおり通り過ぎる兵士たちが外の世界と戦争の影を落としていく。

季節は進み、とうもろこしは成長して収穫の時期を待つ。
その生命の力強さと対照的に、常に“死”の影を背負う兵士たち。
しかし傷ついた兵士を目の前にすれば、老人はただ命を助けるだけだ。
戦争は老人と子供しかいない世界を生む。
孫娘が心動かされる相手は、もはや世界には傷ついた兵士しか残っていない。

両岸で睨みあう兵士たちがいる。
とすればこの川の中州の島は、どちらにも属さない平和な世界だが、そこには老人と子供しかいない。
そしてその存在すら許されないかのように、そんな平和さえも川の濁流が奪っていく。
この世界に、もはや平和な場所は残っていないのか。
しかし、翌年になればまた、新たな島が生まれ、そこにとうもろこしを植える男がやってくる。
世界はまた同じことを繰り返していくのだろうか。

美しい自然の中で、生命を育むことと奪うことを描くこの寓話は
、きっと多くのことを考えさせてくれるはずだ。
(★★★☆)

■関連情報
・2015年ゴールデングローブ賞外国語映画賞ノミネート
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by mahaera | 2016-10-15 09:38 | 映画のはなし | Comments(0)

最新映画レビュー  『聖なる呼吸』『ジャニス:リトルガール・ブルー』 『スーサイド・スクワット』

9月公開の映画で書きそびれたのを3本。
場所によってはまだ公開中かもしれない。

『聖なる呼吸:ヨガのルーツに出会う旅』
南インドで現代ヨガを始めた指導者とその後継者たちをドキュメンタリー。
インドといえばヨガというぐらいイメージが強いが、皆さんがしている近代ヨガは20世紀に入ってからのものらしい。
僕はヨガをしないので、詳しくはわからないが、ここで描かれるのもヨガをやる人にとっては、ヨガ大陸の一部らしい。
つまり欧米人が好きなヨガのグループということで、かなりハード。
まあ、勉強にはなったが。


『ジャニス:リトルガール・ブルー』

これまで何本もジャニスのドキュメンタリーが作られてきたが、たいていがシンガーのとしての彼女を追うもので、ライブシーンが見ものだったと思う。
本作はそことは少し視点を変え、家族に出した手紙やデビュー前の様子、彼氏の証言を入れ、オフの時のジャスの姿を浮き彫りにしていく側面が強い。
保守的な南部に生まれたジャニスは、高校の時はいじめに遭い、大学でも“ブス”と悪口を言われ、自由な気風のサンフランシスコに来て、ようやく自分を解放することができた。
たちまちスターになるが、そこはまだ20代なかばの女性。
状況をコントロールすることができずに、破滅への道を歩んでしまう。
少し前に公開され『エイミー』と被る。

『スーサイド・スクワット』
DCコミックスの悪役を集めた囚人軍団を、減刑を与える代わりに生還不可能なミッションを与えるという、「特攻大作戦」的な話。
大勢のキャラを揃えたが、その説明に終始してしまう前半。
そして肝心のミッションや敵キャラがしょぼい。
あと、悪人という接待だが、みんないい人たちで、その設定が生きていないと、期待はずれ。
脚本も緩く、もっともっと練ってから作ればよかったのに。
ウィル・スミスのデッド・ショットなんて、娘思いのいい人にしか見えない。
「ハーレイ・クインだけが良かった」という、大方の意見に賛成。
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by mahaera | 2016-10-13 14:04 | 映画のはなし | Comments(0)

最新映画レビュー 『ザ・ビートルズ EIGHT DAYS A WEEK』  ファンなら劇場で見ないと後悔!

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一ヶ月以上続いた、ドロドロ仕事がようやく終了。最後の一本を書き上げ、メールで送ったので、打ち上げ。ただし一人だけれど。

で、選んだのはこの映画「エイトデイズ・ア・ウィーク」。
ビートルズのドキュメンタリーなんて、今更目新しさはないとノーマークだったのだが、ビートルズはいつ見ても目新しい。
映画館の中は、もうオーバー・フォーティーズ・ワールド。
そして映画ファンというより、もう見るからに
ビートルズファンらしき風体のおじさん、おばさん。
僕のひとり打ち上げ会場には、ピッタリだ。

ビートルズの結成から解散を時系列に追うのは、もうアンソロジーでやっているので、監督のロン・ハワードはどうするのかなと思っていたら、1964年から1966年にかけてのツアー、
特にアメリカに絞って、彼らがいかにハードデイズナイトの生活だったかを綴っていた。
そして、アメリカ視点でビートルズを語るのも、初めての視点もあり新鮮だった。

ビートルズがアメリカに上陸した1964年は、
アメリカでは激動の時期だった。
その前年には、キング牧師のスピーチで有名なワシントン大行進があり、11月22日にはケネディ大統領が暗殺される。
そんな陰鬱な空気を、1964年1月14日にアメリカで発売された
「抱きしめたい」が吹き飛ばす。4週間で250万枚が売れ、
人気の最高潮の2月7日にビートルズはNYへ。
翌々日の2月9日に出演したエド・サリバン・ショーでは視聴率72%、全米の人の半分が見たという。
6月に「ヤアヤア」も公開され、8月からアメリカツアーが始まる。
その頃、トンキン湾では北ベトナム軍と米軍が交戦を始めていた。
この年はキング牧師がノーベル平和賞を受賞し、ソ連が中国を非難し、PLOが設立され、韓国では戒厳令が施行、日本では東海道新幹線が開通した。

1965年、二度目のアメリカツアーが行われる。
初めて知ったのは、ビートルズは黒人のティーネージャーにも人気があったことだ。
当時のアメリカでは、白人と黒人の聴く音楽は分かれ、それぞれ専門のラジオ局でしか放送されなかった。
しかしビートルズの音楽は巷にあふれ、黒人の若者にも届いた。
少女だったウーピー・ゴールドバーグが、シェイスタジアムに行った話を語るが、初耳だったのはビートルズが南部を回った時、当時のスタジアムは白人と黒人の席が分離されていたこと。
記者会見でビートルズのメンバーがそれに対して抗議して、初めて会場で人種の壁が取り払われた。
会場では、白人も黒人も一緒になって声援を送ったが、ある黒人女性はそれで初めて「白人も自分たちと変わらない」と思ったと語っていた。

そうした時代の空気感を、「ビートルズの時代」に入れる試みをするのは、監督のロン・ハワード自身、多感な時期がそこだったからかもしれない。
ビートルズの全米上陸のときは、彼は10歳ぐらい。
赤ん坊の頃から子役としてテレビに出ていたハワードなので、
きっとエドサリバンショーも見ていたことだろう。

このドキュメンタリーでは、エピローグとしてアップルの屋上でのライブを映し出す。
そこにはすっかり成長して、大人になった彼らの姿が映し出されていた。

劇場用のおまけで、本編終了後に、「シェイスタジアム」のライブ映像が30分あるので、これも必見。
まるで昨日撮ってきたかのようにリストアされている。
最後の「アイム・ダウン」はサイコーだ!
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by mahaera | 2016-10-02 23:48 | 映画のはなし | Comments(0)

子供に教えている世界史・番外編『トラ!トラ!トラ!』

世界史の副教材として休憩時間に見ている映画。
今回は1970年の日米合作映画『トラ!トラ!トラ!』だ。
往年の名作なので、テレビでも何回も放映し、
年配の方は見ていらっしゃる方は多いと思う。
これは1941年12月7日の日本軍による真珠湾奇襲を描いたもので、
作られた1970年がベトナム戦争の最中だと思うと、
かなり日米に「公平」に描かれたものだと思う。
日本側は日本が、アメリカ側はアメリカ側でそれぞれ監督を立てて別々に撮影したことにより、2001年の『パールハーバー』のような珍妙な日本も出てこない。
なんでこの映画を見せたかと思うと、やはり子供にはイデオロギーや陰謀論に関係なく、あの戦争の始まりを知ってほしいからだ。

日本は日米開戦に向けて周到な準備をしていたが、
アメリカ側の組織はまだ戦時体制になっておらず、
いくらでも察知するチャンスはあったのに、
緊張感に欠け、情報を逃してしまった。
真珠湾攻撃は、アメリカが知ってはいたが自国を参戦に導くためにあえてハワイに伝えなかったという「陰謀論」が有名だが、実際には日本軍の接近を知るには幾つものソースがあったので、そのすべてに陰謀が働いていたことはありえない。
「まさか、ハワイが攻撃されることはないだろう」という、
異常事態にそれを否定してしまうという人の心理が、
アメリカ政府や軍全体に及んでいた。
つまり、「ひとりひとりのミス(油断)が重なって」というのが、
本作のように正しい視点だと思う。

また、日本側の宣戦布告が遅れたのも陰謀ではなく、
作戦事態がもともと余裕がないギリギリのものだったので、
すべてが順調にいった場合に伝わることが前提だった。
緊急性がわからない外交官が1、2時間遅れただけで
破綻するような机上の空論のようなものだった。
(わかっていれば送別会なんてやっていない)
また、真珠湾攻撃は日本側には大戦果だったが、
当初の目標である空母が一隻もいなかったので、
本当は大失敗だったとも言える。

日本では大ヒットしたこの映画だが、
アメリカでは興行的には惨敗だった。
理由はアメリカがメタメタにされて終わるからだ。
そして、奇襲を察知できなかったのは「アメリカ側が無能だったから」、と感じられる内容なので、
見終わった後はアメリカ人は怒り心頭だったのだろう。
その反省を踏まえて、2001年の『パールハーバー』では、
ドゥリトル爆撃隊が復讐で日本本土に爆撃するのがクライマックスになっている。
最後には一矢報いないと、映画的にはスカッとしないわけだ。

子供が驚いたのは、CG登場以前の特撮。
特に、“本物の”戦闘機が大挙して飛ぶシーンには、「これはすごい」と言っていた。
今じゃ、手前以外はCGだしね。あと、低空飛行。
当時のアメリカの飛行名人たちが雇われて、撮影に臨んだという。
片足着陸とか、実写で実際に撮影している。
CGだと何を見ても驚かないが、
本物はやはり迫力が違うと感じたようだ。
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by mahaera | 2016-09-03 10:29 | 映画のはなし | Comments(0)