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旅行・映画ライター前原利行の徒然日記

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最新映画レビュー『サウルの息子』 アウシュビッツの2日間を描く。まちがいなく、本年度のベスト級!

サウルの息子
Saul Fia

2015年/ハンガリー

監督:ネメシュ・ラースロー
出演:ルーリグ・ゲーザ、モルナール・レヴェンテ、ユルス・レチン
配給:ファインフィルムズ
公開:2016年1月23日より新宿シネマカリテほか
HP: http://www.finefilms.co.jp/saul/

●ストーリー
1944年10月のアウシュヴィッツ=ビルケナウ収容所。ナチスが収容所のユダヤ人から選抜した死体処理に従事する特殊部隊“ゾンダーコマンド”の一員として、サウルは働いていた。労働力にならない女性、子供、老人をガス室に送り込み、残った衣服を処分して金品を集める仕事だ。しかしゾンダーコマンド自身も、数ヶ月後には同じように殺されてしまう運命だった。ある日、サウルはガス室で生き残った少年を発見する。その少年は目の前ですぐに殺されてしまうが、サウルは少年の死体を盗み出し、ラビ(ユダヤ教の聖職者)のもとで埋葬しようとする。少年はサウルの息子だった。

●レヴュー

まちがいなく、今年のベストテン級、いや、現在のところ暫定1位の作品。しかしすごく感動したとか、良かったということでは語れないほど、強烈な映画だ。映画が4DXでアトラクション化しているこの世の中だが、この映画は昔のテレビと同じスタンダードサイズ(ほぼ四角)ながら、どんな大作映画よりも臨場感がある。それはまるで自分がその日、アウシュヴィッツに放り込まれているかのような、最悪の体験だ。かといって直接的なグロいシーンがアップで映し出されるわけではない。狭い画面の中でさらにピントは画面の中央のサウルにしか合っていないシーンも多いが、それが画面の隅でものすごく恐ろしいことが起きていることをより想像させるのだ。「地獄というものがあるとすれば、これじゃなくてなんだろう」と考えながら、暗闇の中でスクリーンを見つめ、2時間の地獄巡りに耐えた。

映画はほとんどピンボケのような画面で始まる。やがてサウルの背中を映し出すが、最初は何の場面か分からない。まもなく、収容所に列車で着いたユダヤ人たちが裸にされ、ガス室に送り込まれる。扉が閉まり、やがて中から悲鳴が聞こえてくるが、カメラは扉の外で虐殺が終るのを待っているサウルの無表情な顔をとらえ続ける。中がどんなことになっているかは、観客の想像に委ねられている。シーンが切り替わり、血や汚物にまみれた床を掃除するサウル。脇には裸の死体が積み上げられていく。その日もサウルにとっては同じような日だったろう。しかしそれはある少年の死によって変わる。サウルは少年の遺体を盗み、何とか埋葬しようとするのだ。サウルは少年を「息子」というが、それも本当に息子なのか、息子に似ていただけなのか、それはわからない。

すべての行為が無駄に思える収容所内で、なぜサウルは生きることでなく、埋葬にこだわるのか。それはユダヤ教では復活に備えるため、火葬は禁じられているかららしい。収容所内では虐殺の証拠を消すため、火葬した灰は川に流してしまうのだが、そのためサウルは自分の身の危険を冒しても死体を運び、ラビを探す。こんな場所で埋葬することに何の意味があるのか、生きるのに必死の仲間たちは無視するが、サウルにはそれがすべてだ。

そのサウルの背後で、ゾンダーコマンドたちによる蜂起の計画が立てられている。僕も初めて知ったのだが、実際に10月7日、アウシュヴィッツ=ビルケナウ収容所で武装蜂起が起こった。しかしそれはソ連軍が収容所を解放する3ヵ月前だった。また、映画の中で出てくるように、実際に隠し持ったカメラで収容所の様子が写されていたらしい。それは収容所で行われていることを、記録して伝えるという使命感からだったのだろう。ナチスは記録を残さないようにしていたからだ。

映画は終始息苦しい。そして収容所の中の状況は、いっそう絶望的になって行く。もし自分があの場にいたら? ネット上には「あれがオチ?」というコメントもあったが、ハリウッド映画しか見ていない人は、最後はアメリカ軍が助けにくると思っていたのだろうか。そういう意味では、見る人を選ぶ作品だろう。しかし、僕は心から、こんなことが二度と起きないようにと願わずにはいられない。今の世の中にあるちょっとした「差別」を見過ごし、再びこんなことが起きないためにも。必見。
★★★★前原利行)

■関連情報
・第68回カンヌ国際映画祭グランプリ
・第73回ゴールデングローブ賞外国語映画賞
・第88回アカデミー賞外国語映画賞ノミネート中
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by mahaera | 2016-01-24 23:30 | 映画のはなし | Comments(0)

2015年 映画マイベストテン(旅行人シネマ倶楽部)

2015年は久しぶりに映画をたくさん見た年だった。
スクリーン、DVD、新作、旧作合わせて234本。
なので、作品的にも充実した中から選ぶことが出来たと思う。
2014年は小粒の中に良作が多かったが、2015年は良質の大作も多く、とくにアメリカ映画では監督の世代交替がうまく進んだ。
欧州の小品にも良作は少なくないのだが、
「作為」が目立つと少しシラケてしまう。
ベストテン中、8本がアメリカ映画になってしまった。
あと、昨年のベストテンに入れられなかったが、
今だったら『6才のボクが、大人になるまで』と『マップ・トゥ・ザ・スターズ』は入れるハズ。

1. マッドマックス 怒りのデスロード(ジョージ・ミラー監督/オーストラリア、アメリカ)
昨年の1位は『her/世界でひとつの彼女』だったが、同じ未来を描く作品でもこちらはデストピア。一本道を行って帰ってくるだけの映画だが、セリフに頼らずとにかくアクション、アクションでつづる。これ、意外に難しい。西部劇の名作『駅馬車』に匹敵する、アクション映画の鑑。2D、3D、4DXと3回観たが、2Dがおすすめ。

2. バードマン あるいは(無知がもたらす予期せぬ奇跡)(アレハンドロ・ゴンザレス・イニャリトゥ監督/アメリカ)
イニャリトゥ監督は『21グラム』や『バベル』では作為が目立ったが、今回はその欠点をスピード感でカバーした。作為が嫌みに感じるよりも先に話が進行して行き、映画的には絶妙のタイム感。煽るアントニオ・サンチェズのドラムと、現在世界最高の撮影監督エマニエル・ルベツキ(何しろテレンス・マリックご指名の撮影監督だ)のサポートを得て、ついにブレイク。

3. 海街diary(是枝裕和監督/日本)
今回唯一の日本映画。あまり邦画は観なかったもので…。俳優の演技が酷い邦画が多いが、是枝作品は演技プランは絶品で安心して観られる。今回の広瀬すずのキャスティングは、“奇跡”としかいいようがない。最高の実質デビュー作として、『時をかける少女』の原田知世、『ローマの休日』のオードリー・ヘップバーンと並ぶベストチョイス。綾瀬はるかも初めていいと思った。要は、俳優の使い方が非常に上手いということ。劇場で、何度も涙が出た。

4. セッション(デミアン・チャゼル監督/アメリカ)
ミュージシャンの中での賛否両論が話題になったが、ジャズ系は全否定、ロック系は肯定したというのが、この映画の立ち位置。鬼教師も上昇志向の強い生徒も共に嫌なヤツだが、何かに憑かれた(人としてはまちがっているが)情熱が、これほどすばらしい着地点を迎えるのは観ていてすばらしい。

5. アメリカン・スナイパー(クリント・イーストウッド監督/アメリカ)
これも賛否両論あったが、裏読みしすぎず、これは素直な反戦映画として受け止めるべき。これを観て、自分が戦争に行きたくなる人はいないだろう。イーストウッドは最初の狙撃シーンで、「戦争では女子供も殺さなくてはならない」と、人間性の崩壊の始りを明快に示している。

6. ラブ&マーシー 終らないメロディー(ビル・ポーラッド監督/アメリカ)
世間の評価はふつうだが、個人的にはツボにはまった。昨年の初夏は『ペットサウンズ』と『スマイル』ばかり聴いていた。とくに若いブライアンを演じていたポール・ダノは絶品(キューザックは似ていないけれど)。時代考証もバッチリ。自分の心の友の映画になる作品。

7. ミッション・インポッシブル/ローグネイション(クリストファー・マッカリー監督/アメリカ)
試行錯誤して来たこのシリーズも、前作『ゴーストプロトコル』で路線が決定。そしてこのシリーズ最高傑作につながった。昨年は多くのスパイ映画が公開されたけれど(レベルはみな高い)、本作が一番。チームワークこそこのシリーズの醍醐味であり、それが活きた作品だ。

8. スター・ウォーズ/フォースの覚醒(J・J・エイブラハム監督/アメリカ)
いろいろ批判もあるが、現時点で最良のシリーズ続編になったと思う。旧シリーズファンには不評だったEP1〜3までの問題点を克服して、青春ヒーローものに回帰しようとする橋渡しだ。次作で旧シリーズのメンバーが退場すれば、うまく世代交替が出来そう。ハリソン・フォードがきちんと演技しているのに驚き。

9. サンドラの週末(ダルデンヌ兄弟監督/ベルギー、フランス、イタリア)
小品だが、ダルデンヌ兄弟作品なので悪かろうはない。ダルデンヌ作品で初めての大スター起用だが、それがうまくいっている。コティヤールはやっぱりうまく、観客も感情移入できる。「仕事がない」焦りはよくわかるだけに、同僚を説得して行く過程でサンドラの心がすり減って行くのが辛い。ラストの小さな勝利は、これしかない最高のエンディング。

10. アントマン(ペイトン・リード監督/アメリカ)
『エイジ・オブ・ウルトロン』よりも面白かった。スタッフに僕の好きな英米コメディ映画界のベテランが揃っており、まさに自分好みのヒーローもの。

ベストテンには漏れたけれど、気に入っている他の作品は以下の通り。日によって気分で、入れ替え可能。『君が生きた証』、『女神は二度微笑む』、『イミテーション・ゲーム/エニグマと天才数学者の秘密』『ジェームズ・ブラウン〜最高の魂を持つ男〜』『草原の実験』『裁かれるは善人のみ』
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by mahaera | 2016-01-21 20:45 | 映画のはなし | Comments(0)

ボウイ、フライ、冥福を祈ります

 1週間たち、ようやくボウイ死去のショックから立ち直って、他の音楽も聴きだしたら(ディランを聴かない1週間)、グレン・フライも…。まあ、ボウイの場合は家でもわりと頻繁にかけていて、しかも前作「NEXT DAY」とかをまた聴きだしたところだったし、新作も楽しみだった。いや、現役で、「次はどうくる?」というのが気になる、ひとつの目標を示してくれるミュージシャンだった。ディランとボウイはけっこう似ているところがある。ふだんは演技しているが、ふと素になるときがある。ボウイの初期はディランに影響を受けたシンガーソングライターぽい所が少しあった。一番好きなアルバムではないが、ボウイがたぶん素を見せた「'Hours…'」はよく聴く。この曲はとくに好きだ。クリップもいい。ボウイも老いを感じると白状している。

https://www.youtube.com/watch?v=z1MSgWeZqAU

で、グレン・フライで一番好きな曲で、イーグルスの好きな曲でも迷わずこの曲を選ぶ。この曲が新曲としてラジオから流れてきたとき、僕は外国、アメリカの空気を意識した。

https://www.youtube.com/watch?v=QtmAHq0TKHI
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by mahaera | 2016-01-20 03:03 | 日常のはなし | Comments(0)

最新映画レビュー『千年医師物語 ペルシアの彼方へ』 堅実だが物足りないベストセラーの映画化

千年医師物語 ペルシアの彼方へ
The Physician
2013年/ドイツ

監督:フィリップ・シュテルツェル(『アイガー北壁』)
原作:ノア・ゴードン
出演:トム・ペイン、ステラン・スカルスガルド(『ドラゴン・タトゥーの女』)、ベン・キングズレー(『ガンジー』)
配給:アークエンタテインメント/東北新社
公開:2016年1月16日より有楽町スバル座ほかにて公開中
HP: http://www.physician-movie.jp


●ストーリー

迷信とキリスト教が支配する、11世紀のイングランド。当時は“医療”と呼べるものはなく、治療は旅回りの“理髪師”が行うものだった。母親を“脇腹の痛み”の病で、亡くした幼いロブは、その日からその治療法を見つけたいと願うようになり、理髪師に弟子入りする。国中を回り、その技術を身につけていったロブだが、やがてユダヤ人医師が高度な外科手術ができることを知る。さらにその医師が学んだのはペルシアの高名な医師イブン・シーナであることを知ったロブは、彼がいるイスファハンを目指す。ロブはキリスト教徒であることを隠し、ユダヤ教徒を装ってイスファハンへと向かうが、その道は困難を極めていた。

●レヴュー

原作は、世界中でベストセラーを記録したアメリカ人作家ノア・ゴードンの「千年医師物語」。3部作からなる小説だが、本作はそのうちの第1部となる「ペルシアの彼方へ」の映画化だ。日本でも90年代に売れたと思うので、ずいぶん遅い映画化、しかもハリウッドではなくドイツで大作映画として製作されたというところに、映画化への難しさがあるのだろう。主人公が“医者”ということで、派手なアクションや立ち回りはなく、クライマックスが“治療”ともなれば、映画としては地味と踏んだのかもしれない。

原作は私も読んだが、文庫で上下の長編なので、映画化に際しては思い切った省略がなされている。個人的にはイスファハンに着くまでの主人公の苦労が、当時の旅の雰囲気を知ることができて面白かった部分だが、そこが映画ではあっさり削られたのが残念。ただ、映画としてはここを切るのはわかる。あとは、ヒロインのキャラクターがほぼ別人に変更。原作では、主人公とヒロインの恋物語がかなりメインなのだが、映画ではこちらはちょっと添え物。むしろイブン・シーナとの師弟関係を中心に進んで行く。これは、シーナ役にビッグネームが来た配慮なのかはわからない(笑)

さて映画は、キリスト教の影響が強かった中世のイングランドから始まる。ヨーロッパでは医学や科学は“魔術”として疎まれていたこの時代に、医療を目指すひとりの若者がペルシアを目指す。当時のイスラム圏は、ヨーロッパでは絶えてしまったギリシア哲学や医学を継承していた。そのため、ヨーロッパの知識人は、アラビア語に翻訳されたギリシアの文献を求め、当時はイスラム圏だったトレドやコルドバに向かったという。この物語は、「もし、中世に生きる若者がペルシアまで旅をしたら」というフィクションと史実を組み合わせた、歴史ドラマだ。司馬遼太郎の歴史小説よろしく、そこに生きた人物を通して歴史を語るのだ。冒頭の中世イングランドの、医療以前のダメダメ感はなかなかよく描けていると思う。主人公ロブが最初に師にする“理髪師”役のステラン・スカルスガルドも珍しく“いい人”役で好演。

先にも書いたが、当時、イングランドからペルシアまで行くには相当の苦労が必要だった。言葉や資金、そして安全など、問題は山積みだったからだ。先にも書いたが、原作ではユダヤ人に化ける苦労などが詳細に書かれ面白かったが、映画ではバレないように自分で割礼を施すシーンがあるぐらい。さて、イスファハンにたどりついた主人公。当時の町の再現が映画の見どころだが、あまり資料や建築物が残っていない時代なので(「王の広場」に代表される現在のイスファハンは16世紀にサファビー朝の都になってからのもの)、城壁に囲まれた中世の城下町風に描かれている。彼は運良くここでイブン・シーナに弟子入りすることができ、当時の医学の最先端を学ぶ。イブン・シーナは中央アジアのブハラ近くで生まれ、サーマーン朝に仕えていたが、その滅亡後はイランのブワイフ朝に仕官し、ハマダンやイスファハンに住んでいた。実際は医学者だけでなく、哲学や自然科学にも造詣が深く、また宰相として政治実務もこなす人だった。

映画は主人公とシーナの師弟関係を軸に、母を奪った病気の解明のために“人体解剖”の禁を犯す主人公、そして人妻となったヒロインとの恋、イスファハンの君主との関係を描いていく。当時のブワイフ朝はシーア派で、それを滅ぼすセルジューク朝はスンナ派なのだが、その対立は映画では国内の世俗主義と原理主義の対立という構図に置き換えている。それは、宗教の原理主義は、ときに科学的な医学を敵視し、人類の進歩を阻もうとすることもあるという、今日にも通じる問題だからだ。

と、このように歴史好きにはかなり面白い話なのだが、時代考証はあまり正確ではない面もある。しかしこれは作者が無知というわけでなく、主人公がイスファハンに滞在している短い期間に、その前後100年ぐらいに社会で起きた変動や事件を盛込もうとするためで、映画的には仕方がないだろう。それよりも話の運びが人間味を掘り下げるよりも、ストーリーを進めることに腐心した結果だからだろうか、テレビ的。主人公とヒロインの俳優に魅力がないほうが、本作の物足りなさに影響している。脇は演技力のある俳優が占めているので、そのシーンは重量感があるのだが。2時間半の大作だが、これはテレビシリーズでやったほうが良かったかもしれない。題材は面白かったので☆オマケ。(★★★前原利行)

■関連情報

イラン政府はこの映画を、イランに悪意があるハリウッド映画としています。この記事が面白いのでご覧ください。ただし、この記事にあるように「イブン・シーナーとその弟子が処刑される」ことはないので(されそうになる)、そこはスルーしてください。映画は反イスラム的というより、反原理主義というほうが正しいのですが、イラン自体原理主義国家なのでそこが癇に障るのでしょう。科学が宗教の上に来ることはあってはならないですからね。映画(原作)の脚色は、悪意がある改変でなければ、時間制限のある映画では仕方がないですよね。まあ、すべての改変が“悪意”とすれば、もうどうしようもないですけれど。
HTTP://JAPANESE.IRIB.IR/2011-02-19-09-52-07/イスラム四方山話/ITEM/46573-事実に反した映画「千年医師物語」

旅行人のWEBサイト、「旅行人シネマ倶楽部」に寄稿したものを転載しました
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by mahaera | 2016-01-16 18:03 | 映画のはなし | Comments(0)

最新映画レビュー『ブリッジ・オブ・スパイ』 現代の世相に訴えたいというスピルバーグの熱意

ブリッジ・オブ・スパイ
Bridge of Spies

2015年/アメリカ

監督:スティーブン・スピルバーグ(『ジュラシック・パーク』『リンカーン』)
脚本:イーサン&ジョエル・コーエン(『ファーゴ』『ノーカントリー』)、マット・チャーマン
出演:トム・ハンクス(『フォレスト・ガンプ』『プラベート・ライアン』)、マーク・ライランス(『インティマシー/親密』)、エイミー・ライアン(『ゴーン・ベイビー・ゴーン』)
配給:20世紀フォックス映画
公開:2016年1月8日より全国にて公開中
劇場情報:全国
HP: http://www.foxmovies-jp.com/bridgeofspy/


●ストーリー

ときは冷戦下のアメリカ。ニューヨークでひとりの男が逮捕された。彼はソ連の将校のアベルで、スパイ活動を行っていたのだ。そのアベルの国選弁護人を引き受けることになったドノヴァンは、彼に公平な裁判を受けさせるため、世論の批判や脅迫を受ける中、弁護に力を尽くす。ドノヴァンの力もあり、アベルは死刑ではなく懲役刑になり、二人の間に信頼関係が生まれた。その5年後、今度はソ連の領空内でスパイ活動を行っていた米軍のU2偵察機が撃墜され、パイロットが拘束されるという事件が起きる。機密が漏れる前にと、CIAはパワーズとアベルの捕虜交換を画策。その代理人にドノヴァンが選ばれる。

●レヴュー

この「旅行人シネマ倶楽部」で取り上げるにはメジャーすぎる映画かもしれないが、公開前の宣伝も盛り上がっておらず、観る人も少ない中、公開が終ってしまうのではないかと思い、ここで紹介することにした。かつて「スピルバーグ作品」といえば、大々的に宣伝されたものだが、彼自身もいまでは「地味だが自分の撮りたい作品を作る」方向に向かっており、近年では娯楽大作で磨いたテクニックを、良質な小品に使っている。前作にあたる『リンカーン』がまさにそうで、派手な戦争スペクタクルと偉大な偉人伝を期待した人は拍子抜けしたに違いない。戦闘シーンはオープニングにあるだけで、映画の大半は法案を可決させようとするリンカーンが、ワイロや取引など清濁合わせて、何とか反対派を取り込もうとする、屋内劇だったからだ。そこで奴隷制廃止法案を通すにリンカーンが手こずるのは、消極的ながら奴隷制を認める人たちではなく、逆のもっと過激な奴隷解放論者だった。妥協しながらも、ある一線だけは超えないという信念を貫くことがいかに難しいかを描いた、“大人の”映画だった。

本作もそうした“大人”を描いている。たぶん、『ミュンヘン』を撮ったあたりから、スピルバーグは「理想のためには人を傷つけることもいとわない世界中の原理主義者」たちにうんざりしているに違いない。映画の舞台は、アメリカとソ連が緊迫して対立していた、1950〜1960年代の冷戦下。今では世界史の教科書の中のできごとだが、このU2撃墜事件の2年後の1962年には有名な「キューバ危機」が起き、世界は第三次世界大戦の一歩手前まで行ったのだ。アメリカを“恐怖”が支配し、「やられる前にやってしまえ」的な気分が襲う。そんな中で起きたスパイ事件だから、“極刑”を求めるアメリカ国民の声は大きかった。国家同士は、強気の発言をしながら水面下では落としどころを探って行く。しかし、煽られてしまった国民はそうはいかない。もっとも過激な意見が正論になる。たとえば現在の日本で、最終的に現実的なところで阿部政権が周辺国と“手打ち”をしても、それを喜ばない人も多いだろう。ガンディーを暗殺したのも、ラビン首相を暗殺したのも、“相手側”ではなく、右翼だった。なので本作で描かれるように、自国民が少しでも相手国の味方になるように映れば、それは“裏切り者”として批判する対象となるのだ。

スピルバーグが本作を映画化しようと思ったのは、現代に再び蘇ったそんな風潮をダイレクトに描くより“過去”の話として語ることで、「この現在も時が経てば冷静に何が正しかったかがわかる」という思いを込めてのことだろう。その時の感情や熱情、もしくは国策で、法を変えていいのか。もしそれができるなら、非常に危険ではないかと。スピルバーグはアメリカが好きだが、それは“法治国家”として機能しているアメリカなのだ。

映画の後半の舞台は、壁がまさに造られていくベルリンに移る。壁が作られて行く姿は、映像として観た記憶がないので新鮮だ。通りの真ん中に突然ブロックを積んで行くのだから、本当に帰れなくなった人もいるのがよく分かる。この双方を遮る“壁”と対照的に描かれているのが、スパイ交換に選ばれた“橋”だ。こちらは双方を結ぶ“架け橋”の象徴だ。ドノヴァンが東ベルリンで出合う交渉相手も、会ってみればアメリカ側とそう変わらない。向こうも不安で、こちらの出方を探っているのだ。そして敵も味方も“愛国心”には変わりない。楽観的な結論かも知れないが、戦争のきっかけとなる“恐怖”もまた自分が創り出すもの。それを抑えれば戦争は回避できるし、自分の恐怖に負ければ戦争が起きるのだ。直球勝負の良作だが、見る人は少ないのだろうなあ…。★★★☆

●関連情報

同時期公開されている『完全なるチゥックメイト』も、東西冷戦下で踊らされる人々を描いている。合わせて見ることをおすすめする。

旅行人のウエブ、旅行人シネマ倶楽部に寄稿したものを転載しました。
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by mahaera | 2016-01-15 09:48 | 映画のはなし | Comments(0)

最新映画レビューまとめて3本『完全なるチェックメイト』『クリード』『ディーン、きみがいた瞬間』

年末年始、観たけれどここで紹介しないうちに、バタバタと公開してしまう映画が何本か。いや、公開は決まっていたんだけど、僕がスルーしただけだけど。せっかくなので、短評を。

 『コントロール』などで知られる写真家アントン・コービンによる『ディーン、きみがいた瞬間(12/19公開)は、ブレイク直前のジェームス・ディーンをカメラに収めた駆け出しの写真家を主人公に、何者かになろうとする若者たちの姿を描いた作品。当時のLIFE誌のような画像構成は、写真家でもある監督らしい。ただ、映画の出来は可もなく不可もなくという、平均点。ジミー役
のデイン・デハーンは相変わらずいいが。★★★

 『クリード チャンプを継ぐ男』(12/23公開)は、いちおうロッキーシリーズのスピンオフとなっているが、ちゃんと『ロッキー・ザ・ファイナル』の続きになっており、ロッキーシリーズが好きな人には楽しめる作りになっている。ただし演出にキレはなく、非常に分かりやすい、平たく言えばベタ。泣かせどころも意外性もなく、ベタ。あとはスタローン以外は黒人系が占めていて、ブラックムービー化しているのも、時代の流れか。全米では大ヒットしたが、日本ではコケたのは、ブラックムービーなら仕方がないか。★★☆

 『完全なるチェックメイト』(12/29公開)年末ギリで公開されたので、この映画を知らない人もいるのでは。東西冷戦時に米ソの代理戦争とほぼ化して、チェスの世界チャンピオンの王座を奪ったボビー・フィッシャーの映画。監督は『ラストサムライ』『ブラッドダイヤモンド』のエドワード・ズウィックで、きちんとした正攻法の作りは、見応えあり。トビー・マグワイアの奇人演技もなかなか。この人にはそのうち、『サイコ』とかやってほしい。ボビー・フィッシャーは蒲田に住んでいたこともある。★★★
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by mahaera | 2016-01-10 10:00 | 映画のはなし | Comments(0)

インド、タイから帰国しました

●1月5日
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ボケてる写真ですみませんが、バンコクに着きました。
数年ぶりのカオサンは、あいからずにぎやか。
ただし、日本人はまったくといっていいほどいない。韓国人や中国人は見かけるけれど、タイまでも日本人パッカーは撤退しているのかなあ。
息子は、カオサンのパワーにやられてしおしおになり、近くの静かなレストランで食事。高校生、白人パワーに負けるな! タイでは3泊して美味しいものを食べて帰ります。

●1月6日
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バンコクで観光しています。
前に来たのは4年前で仕事なので、観光は久しぶりかも。
息子は暑さでグッタリしてます。街歩きより、ホテルのエアコンの効いた部屋のほうがいいようです(笑) 夕食はサイアムでブーパッポン・カリーと、観光客の王道を。それにしても、日本人減ったなあ。

●1月7日
年末年始のインド、タイ旅行も終わり。
現在、スワンナプーム空港で、まもなく帰国の途につきます。
昨日は、「何もしない日」でホテルでダラダラしていたら、逆に疲れがどっと出て、下痢ピーと身体がだるい。
帰るまで、気を張ってないとダメですねえ。

●1月8日
 昨夜、帰宅しました。暑いバンコクで体調崩したのか、インドの緊張感がほぐれたせいか、父子ともども下痢。インドでは一度もならなかったのに(笑)どうも風邪を引いたようで、今日はなるべく外に出ないように過ごしています。何もやる気が起きないですが、世の中は今週から動いていてるので、申し訳ない。
 さきほどは、スターウォーズ新作の1位を2週に渡って阻んだ「妖怪ウォッチ」をぼーっとテレビで見てしまった。内容の8割は、ダジャレとパロディで、今の子どもは真っ当なストーリー展開を学ぶ以前に、パロディが染み付くのかなあと(この場合はネコロンブスと「北斗の犬」)。うちの息子もそうですが、「北斗の拳」とか「マッドマックス2」を観る前に、そのパロディをさんざん浴びるようなもの。元ネタ知らずに知った気になるというか。
 そういえばノーマークだったけれど、来週からテレヴィジョンが来日。「マーキームーン」のアルバムしか知らないけれど、その全曲ライブということで、気になる。行くか、下北沢GARDEN。
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by mahaera | 2016-01-08 21:17 | 海外でのはなし | Comments(0)

新年あけましておめでとうございます

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新年あけましておめでとうこざいます。

ガンジズ川のバラナシで、息子と共に新年を迎えました。
インドのニューイヤーは期待していなかったのですが、
新年と共に町のあちこちで花火があがり、なかなかいい感じ。

初日の出は霧が出てしまいましたが、何とかうっすらと見えてきました。
ガートにも多くの参拝客がやってきていました。
日本人も、年末年始でかんなり数が多かったです。
いまは息子は朝に弱いので、部屋でまた寝ています(笑)

それでは、今年もよろしくお願いします
いい年になるように。
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by mahaera | 2016-01-03 11:21 | 海外でのはなし | Comments(0)