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旅行・映画ライター前原利行の徒然日記

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シネマ名画館『家族の肖像 デジタル完全修復版』 この歳で見てよかった!

家族の肖像 デジタル完全修復版
Gruppo di famiglia in un interno
1974年/イタリア、フランス

監督:ルキーノ・ヴィスコンティ
出演:バート・ランカスター、ヘルムート・バーガー、シルヴァーナ・マンガーノ、ドミニク・サンダ、クラウディア・カルディナーレ
配給:ザジフィルムズ
公開:2017年2月11日より3月24日まで岩波ホールにて


もう間もなく上映が終わってしまうので、機会がある人は見に行ってみてと思うのが、この名作のリバイバル上映だ。
「名作」と書いてしまったが、
実は僕はオリジナル版の公開時には見ていない。
この映画が日本公開された1978年は僕はまだ高校生。
本作はその年のキネマ旬報ペストテンで堂々1位になったものの、
老人が主人公とした家族の愛憎劇には興味がわかず、
「見なきゃな」と思いつつスルーしてしまった。
また、そのころに名画座で観た
『ベニスに死す』がまったく面白くなかった(当時)こともある。
そのころ僕が熱狂したのは、同年のベストテンに入っている
『スターウォーズ』『未知との遭遇』『アニー・ホール』
といった作品だ。
人生これからの高校生だから、当然と言えば当然だろう。
で、いまはあの時見ていなくてよかったと思っている。
見ても理解できなかっただろうから。

この映画はほとんど室内劇だ。
ローマの高級住宅街の建物に暮らしている
老教授(バート・ランカスター)が主人公。
彼は18世紀に流行した家族の肖像画のコレクションに囲まれ、
ひとり静かに暮らしている。
そこにある日、ビアンカと名乗る伯爵夫人(シルヴァーナ・マンガーノ)が現れ、強引に上階の空き部屋を借りてしまう。
しかし実際にそこに住み始めたのは、ビアンカの愛人である
コンラッド(ヘルムート・バーガー)だった。
そこにビアンカの娘のリエッタ、リエッタの婚約者のステファノといった若者たちが出入りし、教授の平穏は乱されていく。

この老教授(名前は最後まで明かされない)は裕福な知識人階級。
お金持ちだが俗っぽさが鼻持ちならない伯爵夫人ビアンカの一家とはまさに水と油。
何も接点がないといっていい。
しかし彼は、その伯爵夫人の愛人となっているドイツ人のコンラッドに自分と似たものを感じる。
ふとしたことから彼の知識や教養を知り、親近感を得る。
実はコンラッドは学生時代に左翼の過激派に加わり、
挫折していまは仲間に追われていたのだ。
ビアンカの夫はファシズムを支持する右翼の過激派と通じている。

彼らが生活に乱入してきたことは、
教授にとっては迷惑以外の何ものでもない。
見ている観客も、教授と同じ様に苛立つのだが、
後半に向かっていくと、彼らがいなくなったらいなくなったで教授が寂しさを感じるのも理解していく。
今まで、自分の「家族」というものを作らずに
独身を通してきた教授。
その代わりに何も言わず、迷惑もかけない
絵画の中の二次元家族が家族だと思ってきた。
ところが実際のリアル家族は、
ケンカはするし迷惑はかける
し思い通りにはいかない。
とにかく「煩わしい」ことこのうえない。
しかしその年になって教授は悟るのだ。
それが「家族」なのだと。
そしてそれを受け入れる覚悟をするのだが、時はすでに遅かった。

いま、自分の人生の最後が視野に入る年齢になって、
この映画の主人公である老教授の気持ちがよくわかる

自分の人生、家族も持ったが、
熱中したのは音楽、映画、旅、本、美術など、この老教授と変わらず、その分、周囲との煩わしさから逃れていた。
親戚付き合いも含め、肉親とのつきあいが煩わしく感じることがある。とくに若い頃はそうだ。
ただ、歳とともに諦めも付いてきて、
それを受け入れられる様になってきたが。
ということで、この映画をまさに“リアル自分”のように見た
やっと、理解できる年齢になったが、
そこには多くの哀しさも感じる。
ということで、人生の後半に入った人におすすめ。
「映画は娯楽」という人に向かないかも。
★★★★

※イングマール・ベルイマンの『野いちご』も合わせて見るといい。
こちらも老教授が人生を顧みるという話。
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# by mahaera | 2017-03-15 10:19 | 映画のはなし | Comments(0)

最新映画レビュー『ウィーナー 懲りない男の選挙ウォーズ』 彼の失態がトランプ政権を誕生させた?

ウィーナー 懲りない男の選挙ウォーズ
Weiner
2016年/アメリカ

監督:ジョシュ・クリーグマン、エリース・スタインバーグ
出演:アンソニー・ウィーナー、フーマ・アベディン
配給:トランスフォーマー
公開:2月18日よりシアター・イメージフォーラムにて公開中
公式ページ:www.transformer.co.jp/m/weiner/


ドキュメンタリーの面白さの一つに、
当初予定していなかった方に事態が進んでいくことがある。
劇映画なら軌道修正するが、ドキュメンタリーなら止めずに、
そのズレを取り続ける方が美味しい。
このドキュメンタリーはまさにそうした一本だ。

アンソニー・ウィーナーは、民主党の若手有望株の議員だった。
妻はヒラリー・クリントンのチームにも加わっているフーマで、
ヒラリーほか民主党の中枢部とのパイプも太い。
しかし複数の女性と性的なメッセージや画像を送り合っていたことが報道され、そのスキャンダルで議員を辞職することになる。
2年後、ウィーナーは「もう一度チャンスを!」と
ニューヨークの市長選に立候補する。
最初は冷ややかだったマスコミや人々だが、
ウィーナーの熱意は人々を動かし、支持率はトップに。
ドキュメンタリーは、そうした彼のカムバックに
密着したものになるはずだった。
ところが、この男は懲りていなかった。
議員を辞職して謹慎中に、やはり複数の女性と、
自分や相手のエロ画像をやりとりしていたことが発覚してしまう。。

性の好みは人それぞれだが、有名人の不倫や浮気を
世間が許さないのはアメリカも同じだ。
前回のスキャンダルのとき、妻のフーマが夫を支える姿に、
世間は彼女のために思って許してやろうという気になったようだが、二度目はさすがに「奥さん、あんなに苦しんでんのに、あいつはダメだ!」となる。
事件が発覚して、人気は急落。
そのとき、妻のフーマが記者会見に出る。
「それでも夫を支える」か「もう見限りました」か?
このあたりの奥さんの表情、
もう何の意志も読み取らせまいという顔になっている。
ハッキリ言って、コワイ。

また、よくぞここまで撮らせたな、というほど、
スキャンダルに対応するウィーナー、
奥さんとふたりでチョー気まずくなっているウィーナー、
選挙スタッフの白けた視線を浴びるウィーナー
などのさまざまなウィーナーの表情をカメラが捉えている
もう、狙おうと思っても、こんな瞬間は撮れないだろうなあ。

さて、昨年の大統領選挙戦のときの
ヒラリーの「私用メール問題」を覚えているだろうか。
結局、これがヒラリーの最大のウィークポイントになったわけだが、その原因を作ったのも実はウィーナーなのだ。
ウィーナーが起こしたこのエロ画像事件で、
FBIがウィーナーと妻フーマとの共有端末を押収。
調査している際、そこにヒラリーが送受信したメールを発見。
それがこの私用メール事件の発端になる。
フーマは古くからのヒラリーの側近だったので、
もしかしたら対立陣営にそこを狙われたのかもしれない。
そう考えると、この男のセックススキャンダルがなければ、
トランプは当選しなかったとも想像できる。

アメリカの選挙戦の内側を知るには興味深い作品だ。
まあ、それはともかく、このドキュメンタリーを見ていて、
人間、そう簡単には変われないとつくづく考えさせられた。
ウィーナーの顔が、まるで浦沢直樹の漫画に出てくる感じの小悪人顏なのだが、見ている間に彼に同情さえ覚えてくる。
いゃ、マスコミ、そこまで叩かなくてもとね。★★★
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# by mahaera | 2017-03-14 12:29 | 映画のはなし | Comments(0)

明日から2週間インドです。

あす土曜日から2週間インドに行ってきます。仕事です(笑)
帰国は3/11ですが、途中でブログは更新できると思います。
それでは次はインドから。
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# by mahaera | 2017-02-24 10:37 | 仕事のはなし | Comments(0)

最新映画レビュー『海は燃えている イタリア最南端の小さな島』  島民の日常と死と難民たちを交互に描く

海は燃えている イタリア最南端の小さな島
Fuocoammare

2016年/イタリア、フランス

監督:ジャンフランコ・ロージ
配給:ビターズ・エンド
公開:2017年2月11日よりBunkamuraル・シネマにて公開中


「世界の絶景特集」などで、あまりにも海の透明度が高いため、
船が宙に浮かんで見えるように見えるという画像を見たことがある人もいるだろう。
その場所はイタリア最南端にある「ランペドゥーサ島」
海の向こうはもうアフリカ大陸だ。
そのため、ここはアフリカから船でやってくる難民たちが
最初につく場所のひとつでもある。

難民問題で大きく揺れ動く欧州。
大量のボート難民が来てもいない日本でも、いろいろ論議がされているが、実際にそれを肌で感じている欧州の人はどう思うのか。
そのひとつの答えが、この作品が第66回ベルリン国際映画祭で
金熊賞(グランプリ)を受賞
したことに現れているだろう。

このドキュメンタリーの主人公ともいえるのは、
そのランペドゥーサ島に住む12歳の少年サムエレだ。
都会から遠く離れた田舎の島。
おそらく夏のバカンスシーズンは観光客もたくさん来て、
島には活気があるのだろうが、映し出される
冬の島は老人と子供ばかりで、活気というものがない。
サムエレも今時の子供のようにゲーム、ではなく、
木の枝でパチンコを作って遊んでいる。
漁師は漁に出かけ、老人は刺繍に糸を通す。

その一方、ときおり島の無線設備に救難信号が入ると、
ヘリコプターが飛び立っていく。
かつては島に上陸する難民もいたようだが、今では難民船は洋上で軍に回収され、そのまま収容施設に連れて行かれる。
そのため島には難民たちの姿はなく、
難民が島民たちと交わることはない

難民と唯一関わるのは、島の医師だけだ。

カメラは、島民の日常と難民救助の姿を交互に映し出す。
すぐ近くなのに、船の上で死んでいく人々と
のんびり過ごす島民に接点はない。
同じこの世界に住んでいながら、決して交わらないふたつの世界
いま、あなたがこうしてネットでこの文章を読んでいる間、
海の上で飢えと渇きで死んでいく人がいるかもしれない。
立場が変われば、あなたの娘や息子、
あるいは母親が目の前で死んでいくところかもしれない。
想像力を働かしてみれば、それが世界の縮図でもあることはわかるだろう。

難民船にいる難民の国籍は、本当に多種多様で、
シリア、リビアから西アフリカの国々までといろいろで、
難民同士のコミュニケーションもとれないほどだ。
横になって寝る場所もないほど詰め込まれ、欧州を目指している。

映画の最後の方でついにカメラは難民船の内側に入る
そこで目にするものは、私たちの住む世界は
とても“残酷”なものである
ということだ。
そして“平和”という既得権を手にした私たちも、
世界(私たち)が残酷であることに見て見ぬふりをして日々過ごしている

このドキュメンタリーに結論はない。
ただ、知ってはいたものの見てこなかった現実を突きつけられた
私たちは、考えなければならない。
たとえ、結論がでなくても。
★★★
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# by mahaera | 2017-02-24 10:20 | 映画のはなし | Comments(0)

最新映画レビュー『王様のためのホログラム』 中年の危機を迎えた男が、新しい人生の行き先を見い出す

王様のためのホログラム
A Hologram for the King
2016年/アメリカ

監督:トム・ティクヴァ(『クラウド・アトラス』)
出演:トム・ハンクス(『ハドソン川の奇跡』)、アレクサンダー・ブラック、サリタ・チョウドリー(『カーマ・スートラ/愛の教科書』)、ベン・ウィショー(『007スペクター』)
配給:アンプラグド
公開:2月10日よりTOHOシネマズシャンテ、ほかにて
公式HP :hologram-movie.jp


トーキングヘッズがまた最近気になっている。
流行った1980年代は背伸びして聴いた音楽だが、
いま聴き直してみるとリズムの組み立て方が実にカッコよく、
ボーカルのデビッド・バーンの奇抜さに隠れて、
いままでそんなに気づいていなかったのかな。

なんでこんなことを書くかというと、
この『王様たちのホログラム』、いきなりその
トーキングヘッズの代表曲『ワンス・イン・ア・ライフタイム』
のPV風に始まるからだ。なので、
「もしあなたが、家や妻や財産をすべて失ったら?」という
歌詞をトム・ハンクス扮する主人公が歌う
冒頭のPV風画面で、いきなり掴まれた。
ハンクスが目をさますと、そこは飛行機の中。
彼の周囲は巡礼者たちの団体で、コーランを暗誦している。
ここはサウジアラビアに向かう飛行機の中だったのだ。

紆余曲折がありながらも、人生の中盤までは順調に行き、会社の重役にまでなった主人公アラン。
しかし中国の企業に技術提供をしたことで結局はマーケットを奪われ、家族も財産も失い、今は娘を大学に行かすために、雇われた会社の営業でサウジアラビアのジェッダに向かっている。
彼が売り込むのは、3Dホログラムのテレビ会議システムだ。
しかし砂漠の中の“新経済都市”はまだ建設中で、
与えられたオフィスもテント。
プレゼン相手の国王もいつやってくるのかわからない。
そんな中で四苦八苦するうちに、
アランは新しい目標を見つけていく。

見終わってみると、王様もホログラムも出てくるが、
仕事を成功させることがこの映画のテーマではないことに気づく。
人はいつだって迷うことがある
幸せというか平穏な時は、
これがずっとこのまま続いて終わるんだと漠然と思っている。
不満もあり退屈かもしれないが、
それを失うことなんか考えてない。
しかし、転機は自分の意思とは関係なく訪れる
主人公アランは自分の意思でサウジアラビアにきたわけではない。
しかし自分のことを、誰一人として知らないこの異国の地に来た時、おそらくいままで何十年も、周りに流されて生きてきた自分を振り返ってみたにちがいない。
いままで失敗だと思っていたことも、
次への成功のためのステップにすぎなかったことかもしれないし、
そもそも成功も失敗もそれほど大差ないのかと。

旅シネ的には、ふだん映画ではなかなか見ることができない、
サウジアラビアの風景が見られて興味深い。

いや、外国人スタッフはサウジロケができずに、
モロッコで撮影したようだが。途中で車が道を間違えて、
非ムスリム立ち入り禁止区域のメッカ市内に入ってしまう
ところでハラハラしてしまうのは、こちらが旅人だからか。

あと、トム・ハンクスの担当医となる女医に
『カーマ・スートラ/愛の教科書』のサリタ・チョウドリーが
扮しているのだが、久しぶりだなあ〜、おばさんになっちゃったなあと感慨深いものがあった。

名作というほどではないが、ところどころ自分にシンクロしたので、
何度か見たくなる作品かもしれない。
旅人としては、目が覚めて自分が今どこにいるんだっけ的な、
感じがリアル(笑)
★★★
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# by mahaera | 2017-02-19 20:54 | 映画のはなし | Comments(0)

最新映画レビュー『ニュートン・ナイト 自由の旗をかかげた男』 アメリカの裏歴史を描いた歴史大作だが…

ニュートン・ナイト 自由の旗をかかげた男
Free State of Jones
2016年/アメリカ

監督:ゲイリー・ロス
出演:マシュー・マコノヒー、ググ・ンバータ=ロー、マハーシャラ・アリ
配給:キノフィルムズ、木下グループ
公開:2017年2月4日より新宿武蔵野館、ヒューマントラストシネマ渋谷にて公開中


たぶん多くの人は、この映画がいま公開されているか
知らないのではないかと思う。
話題性のある映画ではないアメリカの歴史映画だし、
出来もまあまあで、批評家が積極的に取り上げるわけでもない。
また、主演が日本では一般的にはそれほど有名でない
マシュー・マコノヒーだ。
ただし映画としてはいまひとつだが、歴史好きの僕には
「ああ、こんな人もいたんだ」と勉強になった作品だ。

物語は南北戦争中の1862年に始まる。日本で言えば幕末。
南軍の衛生兵として働くニュートン・ナイトは、
若い甥が目の前で倒れるのを見て、戦争に嫌気がさし、軍を脱走。
故郷のジョーンズ郡に戻るが、
そこでは農民たちが南軍の強制徴収に苦しめられていた。
刃向かったニュートンは、スワンプの奥にある
逃亡奴隷たちの隠れ家へ避難。
やがてそこには脱走兵たちも集まりだした。
ニュートンらは彼らを集めて「自由反乱軍」を名乗り、
南軍と戦い始める。

南北戦争の中のある地方で起きた事件。
それは、アメリカの歴史の中でもローカルな
小さなできごとだったのだろう。
しかしそこにスポットを当てたこの作品は、
北軍側でも南軍側でもない別の視点から描いているのが新鮮だ。
南北戦争ではとくに南軍側が自分たちを美化する傾向にあるが、
それは『風と共に去りぬ』の影響が強いのかもしれない。

というのも「南軍の誇り」を描くと、
スポットがあたるのは農園主など金持ち階級ばかり。
この映画ではそれを主人公に「金持ちの戦争」と
バッサリ切り捨てさせる。
戦争で死ぬのは、奴隷も持てない貧しい白人の小作農たち。
金持ちの子弟は徴兵免除
があるが、貧乏人は徴兵され、
わずかな農作物も奪われる。
ニュートンは、そんな自分たちは金持ちが使う奴隷と同じだと訴え、白人と黒人奴隷の共闘を作って反乱を起こす。

今やアメリカを代表する演技派俳優に成長したマシュー・マコノヒー。その彼が出ずっぱりで熱演する歴史大作だ。
ただ、この作品の狙いは「そんな英雄的な人がいた」ということではなく、今も白人と黒人の分断は続き、それを解決しなければならないと思わせることだ。
というのも、きれいにまとめるなら南北戦争の終了と共に
映画は終わるべきだが、映画はその後、ニュートンの願いが
かなわず、南部では戦前の勢力が回復し、
KKKが台頭するまでを描いている。
また、ニュートンの物語と平行して、ニュートンの子孫が1/8黒人の血が混じっているということで白人としてみなされず、白人との結婚が禁じられるという100年後のミシシッピの姿も描かれる。
つまり、ニュートンが戦わねばならない相手や制度は、
その後もずっと存続していたのだ。

そうしたアメリカの“裏歴史”を描いた作品が本作なのだ。

ただ、映画として面白いかというとそれはまた別で、マコノヒーの熱演にもかかわらず、作品としは凡庸な出来になってしまった。
ちょっと美談としてまとめようとしすぎてしまったからか、
盛り込みすぎてポイントがよくわからなくなってしまったからか、
日本の大河ドラマのようにダラダラと長く続く感じ。
製作・監督・脚本をつとめるゲイリー・ロスは、『ビッグ』の脚本家として注目を浴び、『シー・ビスケット』などでは監督もしていて手堅いのだが、どうも演出はシャープさに欠ける。
映画というよりは、大作TVドラマに近い印象を受けてしまったのが、正直なところだ。
どこで話を集約して最高潮に持っていくかの計算ミスだろう。
★★
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# by mahaera | 2017-02-12 13:26 | 映画のはなし | Comments(0)

最新映画レビュー『スノーデン』 人々は安全のためなら、簡単に自由を投げ出す

スノーデン

2016年/アメリカ、ドイツ、フランス

監督:オリバー・ストーン
出演:ジョゼフ・ゴードン=レヴィット、シャイリーン・ウッドリー
配給:ショウゲート
公開:2017年1月28日より全国で公開中


数日前、映画館のレイトショーで本作を見ていて、
現実の世界とのあまりのシンクロさに怖いものさえ感じた。
ニュースでは連日トランプが出した大統領令による、7か国の国籍を持っている人の入国拒否問題をとりあげていた。
そして劇場のスクリーンでは、
トランプが「スノーデンは死刑だ!」と叫んでいた。

オリバー・ストーンの映画というと色眼鏡で見ている人も多いが、
インタビューでの発言に比べると近年の彼の映画は、
それほど極端によっているわけではない。
政治思想を訴えるよりも、むしろ
「どうしようもない大きな力に翻弄されていく人間」
を描いている。
映画「スノーデン」は、
「国のために尽くして自分の存在意義を人に認めて欲しい」と至極まっとうなことを思っていた青年が、
国家のやり方に疑問を持ち、それを世間に公表する話だ。

「スノーデン事件」はご存知だと思うし、
前にもドキュメンタリーの「シチズンフォー スノーデンの真実」を紹介したことがあるので、
それを読んでいただいたことがあるかもしれない。
これは2013年6月にアメリカのNSA(国家安全情報局)の職員だったエドワード・スノーデンが、香港で複数のメディアに、アメリカが多くの個人情報の収集に関わっていることを告発した事件だ。

スノーデンの父は沿岸警備隊に勤めていた。
映画ではそうした環境から愛国心が強く、
9.11のテロに衝撃を受けて軍隊に志願したと描いている。
スノーデンはマッチョではなく、
むしろナード(オタク)だった。
高校は卒業せずに途中で退校し、
卒業資格を取って大学に入るがそれも卒業できなかった。
趣味はアニメやコンピューターゲームと日本語の学習。
しかしコンピュータには強く、部隊で両足骨折をして除隊すると、能力を買われてNSAにスカウトされる。
1年後、今度はCIAに採用されてコンピュータセキュリティの担当になる。
学歴はないスノーデンだったが、実力はあったのだろう。

映画では採用されたスノーデンが、
CIAの養成学校で次々と課題をクリアする様子を見せていく。
また、ネットで知りあった女性リンゼイとの交際が始まる。
バリバリのリベラルのリンゼイとは政治に関しては
正反対のスノーデンだが、ふたりはなぜか馬が合い、
付き合いだしていく。
CIAの仕事でジュネーブに転勤になったスノーデンは、
そこで初めて目的のためには一般人を利用するCIAのやり方に疑問を持ち、辞職。
しかしCIAと契約を結んでいたDELLから出向という形で、
横田基地のNSAの仕事に従事。
表向きは中国とのサイバー戦対策だが、
そのかたわら日本のエネルギー関連に
マルウェアを仕込んでいたと映画では明かされている。

驚いたのは、アメリカは同盟国である
日本を信頼していないということ。
アメリカは日本に一般人の個人情報の提供を依頼するが断られた。
そこで、もし日本が将来アメリカの同盟国を離れて、
敵国側に回った場合のことを考えて、
電気や通信などをすべてシャットダウンして、
日本を麻痺させることができるマルウェアを仕込んだとスノーデンは語っている。
これは人質と同じで、極端な話、日本がアメリカの言うことを聞かなかったら、外部操作で原発止めたり、
ネットを遮断したりできるということ。
そしてそれは日本だけではなく、
他の同盟国にも同じことをしているというのだ。
(映画では描写はないが、日本大使館の盗聴も行っていたことが後に発覚した)

さて、いろいろあって、スノーデンは自分を取り立ててくれた
CIA上司に選択を迫られる。
会議室のテレビ会話画面に映る上司(リス・エヴァンス好演)が
大きすぎて「1984」の世界だ。
一般人の情報を自由にコントロールできる国家。
しかしそもそも、そこまでする必要があるのだろうかとスノーデンは上司に問う。
そこで上司は言う。
「人々は自由よりも安全を求めている。そして安全のためなら進んで自由を投げ出す」と。

実際、国家はすべての電話は盗聴できるし、
個人のパスワードなども知ることができる。
Facebookやグーグルの検索記録も。
マイクロソフトもYahooもスカイプも
全てNSAに協力している。
でも、私たちはこう思うだろう。
「国家が知りたいのは犯罪者の情報だから構わない。
安全のためだ。それに私は後ろめたいことも秘密もないし、第一に国家は私のことを知ろうとも思わないだろう」
と。
こうして私たちは簡単に自分の自由を手放す。
映画『キャプテン・アメリカ/ウインターソルジャー』のキャプテンなら、こう言うだろう。
「しかし国家に脅威を及ぼすもの。それは誰が決めるんだ」
現実に犯罪者の捜査のための盗聴はある。
しかしそれには裁判所の許可が必要だ。
それでよくはないか?
もし日本で、裁判所の許可なしに警察が勝手に盗聴やデータを盗むことができたら?
盗むことができるなら改ざんもできる。
日本人なら、冤罪が多発する日本の警察を
そこまで信用していないだろう。
つまり、アメリカでもいくらでも“国家の敵”を
作り上げることだってできる。

映画「スノーデン」では推測だが、
国家が膨大な数の“国家の敵”を作り上げるのは、
裏に軍需産業の影が見えるとしている。
敵がいれば、予算を投下しやすいのだ。
CIAで低予算でできる情報収集システムを提案した男が左遷され、
それと同じことができるが10倍の予算がかかる大企業のシステムが導入されるという話が映画で出てくる。
東京オリンピックの予算と同じだ。

映画そのものは、スノーデンの成長物語とも青春映画としても見られると思う。
というわけで、今だからこそ、見るべき映画だろう
反論もあるだろうけどね。それを含めて。
★★★☆
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# by mahaera | 2017-02-09 19:24 | 映画のはなし | Comments(0)