『闇の列車、光の旅』 2009年/アメリカ、メキシコ 監督:キャリー・ジョージ・フクナガ
6月19日よりTOHOシネマズシャンテにて
日系アメリカ人監督による、中米の違法移民を描いた秀作が公開される。
ホンジュラスで暮らす少女サイラのもとに、アメリカで暮らしていた父が戻ってくる。
強制送還された父は家族と暮らすため、サイラを連れて再びアメリカを目指そうとする。
一方、メキシコ南部の町。
ギャング団の一員として未来の見えない生活を送っている青年カスペルがいる。
彼の関心はギャングの生活より、恋人のマルタと暮らすこと。
しかし、その幸せの日も、ギャングのボスによって終わりを告げる。
強盗目的でサイラたちが乗る貨物列車の屋根に乗り込んだカスペルだが、
サイラに暴行しようとしたギャングのボスを、衝動的に殺害。
アメリカ国境を目指す列車。カスペルと親近感を抱くサイラ。
しかし追っ手が迫っていた。
2009年のサンダンス映画祭で、本作は監督賞と撮影監督賞を受賞。
受賞もうなづける、力ある作品だ。
宣伝やポスターからは、青年と少女の逃避行のドラマしかイメージできないが、
前半、かなりの時間を費やしてギャング団の生活が克明に描かれる。
子供に改造銃を持たせて、捕虜にした敵ギャングを殺させるイニシエーション。
メキシコ版『シティ・オブ・ゴッド』ともいえるリアリティは、観ていて寒気が走る。
子どもたちへと受け継がれていく暴力の連鎖の構造には救いがないが、
それがメキシコの貧困層の現実なのだろう。
その一員だった青年が、ギャング団のリーダーを殺したことから、
ホンジュラスからの移民の少女と北(アメリカ)を目指す。
ここからが後半だ。生きる目的を失っていた青年が、
少女を無事にアメリカに送り届けることに、最後の目的を見出す。
昔さんざん観た、アメリカンニューシネマの主人公たちのように、
出口が見えない絶望的な逃避行。
青春映画、ロードムービーとしても、心にしみる作品だ。
陰影に富んだ、映像がすばらしい。
★★★★