キラー・インサイド・ミー
The Killer Inside Me
2010年/アメリカ、スウェーデン、イギリス、カナダ
監督:マイケル・ウインターボトム(『イン・ディス・ワールド』『マイティ・ハート/愛と絆』)
出演:ケイシー・アフレック(『ジェシー・ジェームズの暗殺』)、
ジェシカ・アルバ(『シン・シティ』『ファンタスティック・フォー』シリーズ)、
ケイト・ハドソン(『あの頃ペニーレインと』)、
ネッド・ビーティ(『スーパーマン』)
配給:日活
公開:ヒューマントラストシネマ渋谷にて公開中
1950年代の西テキサスの田舎町。
保安官助手のルーは、物腰の柔らかい評判のいい青年だった。
しかしジョイスという娼婦と出会い、彼女と愛し合うことで、
長年眠っていたある衝動が目を覚ました。
ルーはかつて義兄を死なせた地元の顔役に復讐することを思いつく。
完全犯罪のつもりだったが、ルーに疑いの目が。
やがて殺人の衝動は、ルー自身にも止められなくなっていく。
僕の大事な作品
『ひかりのまち』
軽いコメディー『いつまでも二人で』
硬派な社会派『ウェルカム・トゥ・サラエボ』
悲しいSF『CODE46』
など、作品ごとに異なる作風で私たちを驚かせてくれるのが、
イギリスのマイケル・ウインターボトム監督。
年に一本の割合で作品を発表し、もはや中堅監督といってもいい。
その新作は、1950年代に多くの犯罪小説を書いた
作家ジム・トンプソンの「おれの中の殺し屋」の映画化。
トンプソン作品は
『ゲッタウェイ』『グリフターズ/詐欺師たち』
などが映画化されている。
本作はノワール小説の手法通り、主人公の一人称の語りによる。
しかし、主人公は殺人鬼。
周囲からはまじめに見られ、どちらかというと大人しい青年ルー。
しかし、彼は内に大きな暴力への衝動を秘めて暮らしていた。
そんな彼が、偶然知り合った娼婦と、レイプまがいの
セックスをしたことから、押さえていた衝動が動き出してしまう。
彼が理解しがたいのが、快楽を求める殺人鬼でもなく、
また、利益を求めるための殺人でもないということ。
愛するものに手をかけるその姿は、まるで自己破壊、
自殺願望のようでもある。自分が死ねないから、
愛するものを殺してしまうかのように。
しかし、かといって破滅的なのでもなく、冷静に偽装工作もする。
通常の論理の範疇にあてはまらない、よくわからない男。
彼の幼少期のできごとのフラッシュバックもあるが、
それが原因なのか、いや、それが現実のことなのかもわからない。
主人公が抱える心の暗闇の理由は明快には明かされない。
その得体の知れなさはある意味、現代的であり、
秋葉原の殺傷事件の犯人や
自分の子ばかりか近所の子どもを殺した若い母親の事件など、
犯人は捕まっても、動機が納得できない最近の事件を連想する。
そこにこの作品を「今」映画化する意味があるのだろう。
おぞましいが、そんな得体の知れなさを描く事に
この作品は成功している。
僕は鑑賞後、一日中本作が頭から離れなかった。
★★★★