おじいさんと草原の小学校
The First Grader
2010年/イギリス
監督:ジャスティン・チャドウィック(『ブーリン家の姉妹』)
出演:ナオミ・ハリス(『パイレーツ・オブ・カリビアン/デッドマンズ・チェスト』)、オリヴァー・リトンド、トニー・ギゴロギ
配給:クロックワークス
公開:7月30日より岩波ホールにて
上映時間:103分
公式HP:www.84-guinness.com
2003年のケニア。
政府がすべての国民に無償で初等教育を提供すると発表した
ことを受け、田舎の小学校に数百人の子どもたちが押しかけた。
その中に84歳の老人マルゲの姿があった。
教育を受ける機会がなかった彼は、
字を読みたい一心でやってきたが、
生徒になるにはまず鉛筆2本とノートが必要と追い返される。
何度も門前払いを受けながらもやって来るマルゲの熱意に
心を打たれた校長のジェーンは、マルゲを自分のクラスに受け入れる。
しかし独立戦争の戦士として闘った過去が、
今もマルゲを苦しめていた。
そしてマルゲの入学に反対する周囲の者たちの声も
次第に高くなっていった。
「
ギネス記録の世界最年長の小学生の実話」という見出しに、
もう内容はほとんど読めた気になってしまうが、
僕のそうした予想は
気持ちよく裏切られた。
周囲の者たちの執拗な意地悪、
そして注目を集めるようになったマルゲに対する嫉妬、
マスコミの取材を受けると「いくら金をもらった」と
金目当てにやって来る政治家と、マルゲの入学を認めた校長以外は、
大人はもうセコい人ばかりである。
田舎の人は心が清いという、映画の前提をあっさり裏切ってくれた。
気のいい長屋のおばちゃんとかが、出てこないのだ。
さて、本作で僕も知ったのだが、
ケニアでは半世紀前に「
マウマウ団の乱」と呼ばれる
民族独立運動があった。運動自体は失敗に終わったが、
この乱が結果としてケニア独立を早めることになったという。
マルゲはこのマウマウ団の闘士だった。
そして目の前で妻と子供を殺されて、長い間監獄につながれていた。
この重みが、無学の老人が教育を受けるという一方的なものではなく、
国の歴史の体現者である彼から、
周囲の者たちも多くのことを学ぶということにつながっていく。
映画は実にしっかりと作られたもので、
「文部省推薦」の凡作たちとは大違い。
甘い美談になりがちな話を、このマルゲの回想シーンを
挿入することにより、ピリリと引き締めているのだ。
自分たちの国の過去を忘れて、「今」しか生きていない人たちに、
マルゲの存在が必要なのだと。
マルゲに理解を示し、力になる校長役を、
「パイレーツ・オブ・カリビアン」シリーズ第2、3作に
女呪術師役で出演していた
ナオミ・ハリスが好演している。
(★★★)
※「旅行人」のWEBサイト「旅シネ」に寄稿したものを転載しました。