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旅行・映画ライター前原利行の徒然日記

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最新映画レビュー『サンドラの週末』ダルデンヌ兄弟 × M・コティヤール 異色の組合わせ!

サンドラの週末
Deux Jours, Une Nuit

2014年/ベルギー、フランス、イタリア

監督:ジャン=ピエール&リュック・ダルデンヌ(『ロゼッタ』『息子のまなざし』『ある子供』)
出演:マリオン・コティヤール(『エディット・ピアフ〜愛の讃歌〜』『ダークナイト・ライジング』)、ファブリツィオ・ロンジォーネ
配給:ビターズ・エンド
公開:5月23日よりBunkamuraル・シネマ、ヒューマントラストシネマ有楽町
HP:http://www.bitters.co.jp/sandra/


●ストーリー
金曜日、休職していた職場に復職が決まった矢先に、サンドラは突然解雇を言い渡される。不況の中、社員にボーナスを支給するには、ひとり解雇する必要があるというのだ。しかし同僚の取りなしで社長に会い、月曜日に社員で再投票をし、ボーナスではなくサンドラを選ぶ者が過半数を超えれば、復帰できることになった。サンドラには飲食店で働く夫と、ふたりの子供がいて、マイホームを手に入れたばかり。ここで失職してしまうわけにはいかない。週末の2日間、サンドラは夫に支えられながら、同僚たちを説得して回る。しかし同僚たちにもさまざまな事情があった。

●レヴュー
ダルデンヌ兄弟×M・コティヤール。
かたや過去二度もカンヌ国際映画祭の最高賞である
パルムドールを受賞している、世界トップレベルの監督たち
芸術性は高いがドキュメンタリー性の高い非商業的な作風だ。
コティヤールは『エディット・ピアフ〜愛の讃歌〜』(07)で、
アカデミー主演女優賞を受賞したフランス人女優で、
最近は『ダークナイト・ライジング』など
アメリカ映画にも進出している。まぎれもなく
フランス映画界を代表するスターだ。その組合わせに、
最初は「ダルデンヌ兄弟が作風を変えたのか?」と驚いたが、
その心配は見事に吹き飛んだ。映画の中のコティヤールは、
いつものダルデンヌ兄弟作品の中の登場人物と変わらず、
“私たちの身近にいる人”
“すっぴん”で労働者階級の主人公を演じ、
本作で本年度のアカデミー主演女優賞にノミネートされる、
高い演技力を示していたのだ。

しかしこの映画、かなりエグい設定である。
従業員16人のソーラーパネルの製造会社。
日本でいえば地方の町工場で、従業員はみな地元に住んでいる規模。給料だってそんなに高くはないだろう。
だって、サンドラの解雇に同意するボーナスの額が
1000ユーロ(約16万円)という、
多いんだか多くないんだかという微妙な額。
しかし、従業員たちに取っては、喉から手が出るお金なのだ。
サンドラが週末を使って、各従業員をひとりひとり訪ねて行くが、
ここでサンドラを打ちのめして行くのは、
みなそれそれに事情があって、そのボーナスが必要なこと。
生活に余裕があるものなんてひとりもいない。
サンドラに悪態をつく者もいるが、基本的には悪人はいない。
そしてサンドラに投票すると決めた者も、悩んだ末の決心なのだ。
自分を支持してくれる人はありがたいが、
彼らはサンドラのためにボーナスを断念したのだ。
当然、それはサンドラの心に重くのしかかって行く。

とはいえサンドラにも事情がある。
彼女が会社を休んでいた理由はハッキリは明かされないが、
鬱を含んでいたことは確かだろう。そこから立ち直って、
ようやく社会に復帰するというときに、
「社会から必要とされない人間であること」
突きつけられるのは、かなり酷なことだ。
しかし、従業員の中には、そうした精神の病に関して、
理解がない者もいるし、そんな人間が復帰したら迷惑だ、
という考える者もいない訳ではない。
断られるたびにサンドラの心は傷ついていき、
サンドラを擁護してくれる者もがいれば、気力を取り戻して行く。

「和を重んじる」日本なら、こうしてサンドラが
ひとりひとり説得して行く、という設定はないかもしれない。
「自分の運命は自分で切り開く」ことはしないだろう。
しかしだからといって、サンドラに共感できない人はいないだろう。
結末は書けないが、サンドラはこの週末のできごとと
その結果を通して、人間の尊厳を取り戻したはずだ。
(★★★★)

※旅行人のweb、旅シネに寄稿したものを転載しました
by mahaera | 2015-04-13 13:16 | 映画のはなし | Comments(0)
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