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旅行・映画ライター前原利行の徒然日記

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映画監督フランクリン・J・シャフナーについて思う その3 最後の名作「ブラジルから来た少年」

シャフナーが「パピヨン」の次に撮ったヘミングウェイ原作の「海流の中の島々」(1976)はあまり評判にならなかった。
僕も未見で、しかも国内版ソフトが一度も発売になっていない。
しかしようやく7/8にDVD発売されるというので期待。

そしてその次が、「ブラジルから来た少年」(1978)だ。
原作はアイラ・レヴィン。「死の接吻」や
「ローズマリーの赤ちゃん」「ステップフォード・ワイフ」
「硝子の塔」の原作者で知られるミステリー作家だ。
劇作家としても有名で、「デストラップ・死の罠」は映画にもなっている。
この「ブラジルから来た少年」は、いわばSFミステリーともいう作品だ。
1970年代半ば。南米のパラグアイで、「死の天使」と呼ばれたナチスの医師メンゲレ(グレゴリー・ペック)が目撃される。
彼は各国に住む、公務員で65歳の老人を97名殺すリストをナチス会に渡す。
その報告を受けたナチスハンターのリーベルマン(ローレンス・オリヴィエ)は最初は取り合わなかったが、やがてそれが実行されていくにしたがって、メンゲレと闘うことになる…。

悪役を演じるのは初めてというグレゴリー・ペックが、
一度見たら忘れられない強烈なメンゲレ博士を演じる。
メンゲレは実在の人物で、アウシュヴィッツで数々の人体実験を行ったことで有名だ。
とくに双子を使った実験を重ね、次々に解剖したので、3000人の双子のうち生き残ったのはわずか180人という。
戦後は、うまく南米に逃げて、ユダヤ人の追っ手にはマークされていたものの、モサドは捕まえることができずに、1979年にブラジルで海水浴中に心臓発作で死亡した。
この映画が作られた当時は、まだ生きていて
南米に潜伏していたのだ。

今の目で見ると映画は非常に地味だ。
主役級が、60歳を超えた老人ばかり(もうひとりの重要な役もジェームス・メイスンと高年齢)。
とくにローレンス・オリヴィエは演技なのか実際にそうなかわからないほど、やせ細ってヨレヨレの老人になっている。
しかし派手さを排し、グイグイと話を引っ張って行く演出力はすばらしい。
メンゲレの目的は途中で明かされる(タイトルがヒント)が、そこから最後までもだれることがない。見直して思ったのが、1976年はまだ「ナチスの残党」も「アウシュビッツの生存者」も共にみな生きていて、この話が伝える恐怖がリアルだったということ。
南米のナチスの会合では、ヒトラーの肖像画が掲げられていて、みな軍服を着て出席というのも、本当にありそうだ(第二次世界大戦時、南米は親独政権が多かった)。
ミステリーとして(SFとしても)非常に面白いと思うのだが、
当時、日本では劇場公開を見送られてしまった。

“ブラジルから来た少年”役の少年が怖すぎ
余談だが、メンゲレは『Xメン ファーストジェネレーション』のセバスチャンのモデル。
また、南米で余生を送ったメンゲレを描いた「マイ・ファーザー」という映画もある。
これはメンゲレの息子が、本当の父親を知りたくて、ドイツから南米に会いに行った実話をもとにした映画。
自分の父親が史上最悪の殺人鬼でありながら、やはり父親は父親という矛盾に苦しむ息子が、書いた本が原作で、こちらはメンゲレをチャールトン・ヘストンが演じている
見た人は少ないだろうなあ。

この『ブラジルから来た少年』のあと、
シャフナーはもう名作を撮っていない
でも、すばらしい作品をいくつも残してくれたから、いいのだ。
シャフナー見ていない人は、ぜひ見てください。
ただし女性には、きっと受けない、男臭い作風です(笑)
by mahaera | 2015-06-22 23:08 | 映画のはなし | Comments(0)
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