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旅行・映画ライター前原利行の徒然日記

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最新映画レビュー『天使が消えた街』ちょっと物足りないウインターボトム

天使が消えた街
The Face of an Angel

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2007年に実際にイタリアで起きた「ペルージャ英国人留学生殺人事件」。
それを取材する映画監督の視点で描くドラマ

2014年/イギリス、イタリア、スペイン
監督:マイケル・ウインターボトム(『イン・ディス・ワールド』『ひかりのまち』)
出演:ダニエル・ブリュール(『ラッシュ/プライドと友情』『グッバイ、レーニン』)、ケイト・ベッキンセイル(『アンダーワールド』『パール・ハーバー』)、カーラ・デルヴィーニュ
配給:ブロードメディア・スタジオ
公開:9月5日よりヒューマントラストシネマ有楽町で公開中
http://www.angel-kieta.com


●ストーリー
2011年、映画監督のトーマス・ラングはローマに降り立つ。2007年にトスカーナのシエナで起きた殺人事件をリサーチして、映画化にそなえるためだ。現地在住の女性ジャーナリストのシモーンの助けを借り、取材を始めるトーマス。事件とは、4年前にシエナの大学に通っていたイギリス人留学生が殺された事件で、彼女のルームメイトのジェシカ、その恋人のイタリア人、バーの経営者が逮捕されていた。しかし、事件そのものよりも容疑者ジェシカに脚光が当たり、ジェシカのプライベートに対する虚実混じったスキャンダル報道がエスカレートしていた。リサーチを重ねるトーマスだったが、真実がわからない中、彼の関心は事件に群がるマスコミに向けられる。しかし、トーマスはプライベートで問題を抱えていた。

●レヴュー
当たり外れはあるものの、『イン・ディス・ワールド』『ひかりのまち』『キラー・インサイド・ミー』など大好きな作品が多いマイケル・ウインターボトム監督。僕のごひいきなので、その新作とあらばチェックせねばならない(笑)。もともとウインターボトムはジャーナリスティックな視点を持つ監督で、『ウェルカム・トゥ・サラエボ』や『マイティ・ハート』も力作だった。実際に起きた「ペルージャ英国人留学生殺人事件」をどう描くかという興味でこの映画に望んだ。

この「ペルージャ英国人留学生殺人事件」は、この事件が起きた当時、欧米ではかなりの話題になったらしい(僕は知らず、ウィキで調べたが)。それも事件そのものというより、裁判の過程で容疑者となったアマンダ(本作ではジェシカと名を変えている)の私生活や、傍聴に来たその家族のダメさ加減なども含め、日本でいう“週刊誌ネタ” “ワイドショー向き”という状態。もっぱら話題は事件ではなく容疑者に向けられ、アマンダは一種のスターのようになってしまったという。裁判では「有罪→無罪」と変遷したこの事件だが、結局は真相は「よくわからずじまい」という結果だったようだ。つまり誰もが望む、“真相”はわからなかった。で、てっきりこの映画はその真相に迫るものかと思ってみていたら、全然そうではなかった。

主人公である映画監督は、最初はこの事件そのものにひかれるものを感じているが、映画が撮れない、妻とは別れて娘とは会えないなどと彼自身、問題を抱えている。そこに事件の糸口がつかめない焦りも加わって煮詰まり、やがてドラッグに溺れ、ある男が犯人ではないかと妄想さえ抱くようになっていくのだ。そこに現れるのが、死んだ留学生をイメージさせるような女子学生メラニーだ。映画監督は、彼女に被害者のイメージを重ねあわせていくのだが、自分がどこへ向かおうとしているのかわからない。そして映画を観ている私たちも、この映画はいったいどへ向かおうとしているのかわからない。ただ、事件に関しては、もう当事者でなければわからない、という諦めに似た感情になってくるのだ。

『神曲』を書いたダンテの話が出てきて、この監督が『神曲』に合わせた脚本構成にして事件を描くというのだが、あまりそのあたりも伝わって来ないし、問題抱えてダメな主人公が見る夢も含め、どうも主人公の監督に共感できない。「被害者の女性やその家族に寄り添う」とい語られても、第一、そんな心の余裕がこの人自体にないのだ。ひいきのウインターボトム監督だが、残念ながら尻切れとんぼのような出来かな。(★★☆)

●映画の背景
実際の事件は、イタリアのペルージャで起きているが、映画ではフィクションとして強調したいこともあり、登場人物の名前だけでなく、事件の起きた場所もシエナに変更している。ロケも実際にシエナで行われた。

この原稿は、旅行人のウエブサイト、旅シネに寄稿したものを転載しています。
by mahaera | 2015-09-29 20:23 | 映画のはなし | Comments(0)
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