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旅行・映画ライター前原利行の徒然日記

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最新映画レビュー『ウィンストン・チャーチル ヒトラーから世界を救った男』 アカデミー賞2部門受賞


本年度のアカデミー賞主演男優賞とメイクアップ賞の2部門受賞
ということからもわかる通り、
ゲイリー・オールドマン演じるチャーチルを見るための映画だ。
実際のチャーチルは、イギリスでは国民的英雄だが、
世界史的には手放しで褒められない人物。
ただし、映画は忠実に描くのではなくドラマとしてみせる媒体だ。
これはあくまで、「決断を迫られる国家指導者」という
「ドラマ」なのだ。

拙著「子供に教える世界史」にも書いたが、ヒトラーが台頭する頃はイギリスやアメリカでも、親ナチス的な人々が多かった。
今から想像もつかないが、当時は共産主義の前に資本主義社会は危機に瀕しており、対抗するにはファシズムが有効な手段と思われていたのだ(議会制民主主義は放っておくと共産党に乗っ取られると、恐れる人が多かった)。
なので、それを押さえる手段としてヒトラーの増長を許したのだが、その時のイギリスの首相がチェンバレン
彼は「宥和政策」でヒトラーの、
オーストリア併合やチェコスロバキアの解体も認めてしまった。
その結果、ヒトラーの野心は留まらず、
第二次世界大戦が始まってしまう。

当時、野党の保守党だったチャーチルは、
戦時の挙国一致内閣の首相に選ばれる。
彼の支持層は、自身の保守党ではなく、敵の労働党という
ねじれの中、チャーチルは戦争続行を推し進める。
映画は、北フランスとでのイギリス軍の敗北からチェンバレンが首相を退任し、代わりにチャーチルが首相になり、ドイツの停戦案を蹴って戦争続行を国会で通すまでの4週間を描いたものだ。
映画のほとんどは、チャーチルに寄り添っているので、
戦闘シーンはほんのちょこっと。
ひたすら政治の駆け引きが描かれるのは、
スピルバーグの『リンカーン』と似ている。
つまり、派手なアクションを期待するとかなり違う。
そちらは昨年公開の『ダンケルク』をご覧いただくとして
(『ダンケルク』を見ていると二倍面白くなる)、
「有事の際の政治家があるべき姿」に興味ある方向けなのだ。

「リンカーン」でもそうだが、
まず政治家は同じ党内の反対派とまず戦わなければならない。
隙あらば失脚させようとするものばかりだから。
そのやりとりをオールドマンは、
チャーチルになりきってリアリティを持って演じている。
本当のチャーチルは誰も知らないが、
こうであったろうと観客が思えば成功だ。
歴史好きには、内閣にも親ヒトラー派が多かったことや、
毎週恒例の国王との謁見シーンが興味深い。
イギリスでは、首相が毎週国王に議会報告をする習慣があるが、
そこでの国王(当時は『英国王のスピーチ』の主人公でもある
ジョージ6世)とのやりとりが、時間を追うにつれて変化し、
信頼を経ていく様子が面白い。

実際のチャーチルは負の面もあるが、これは伝記ではないので、
ドラマを4週間に切り取ったのは正解。
ただし、歴史過ぎには面白いが、正直、ドラマとしては地味なのと、背景を知るための説明的な場面が多い(これは仕方がないことだが)のが、よりドラマチックさを削ぐことも否めない。
だから、アカデミー賞の結果も作品ではなく、チャーチルを演じた
オールドマン関連だけになってしまったのだろうなあ。
★★★

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by mahaera | 2018-04-03 12:12 | 映画のはなし | Comments(0)
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