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旅行・映画ライター前原利行の徒然日記

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最新映画レビュー『パティケイク$』 郊外や家庭の閉塞感から、ラップの力で抜け出そうとする主人公



2017年/アメリカ

監督:ジェレミー・ジャスパー
出演:ダニエル・マクドナルド、ブリジット・エヴァレット、シッダルタ・ダナンジェイ
配給:カルチャヴィル×GEM Partners
公開:4月27日よりヒューマントラストシネマ渋谷ほか

知っている俳優もスタッフもおらず、まったく前知識なく観て、
意外な拾い物となった作品だ。

主人公は太ったその容姿から“ダンボ”とあだ名されている
23歳のパティ。
住んでいるのは、電車に乗れば1時間もせずにマンハッタンに行けるニュージャージーだが、その距離は永遠に縮まらない。
寂れた郊外の街では、みなそこから出て行こうとしないから、
子供の頃からの顔見知りだ。
ただし小学校の頃にいじめられていれば、
大人になっても軽く見られる。
車椅子生活の祖母と、かつてはロック歌手を目指していたが今は酒びたりの母親と3人暮らしのパティには、愛してくれる者もいない。
そして働かなければ、生きてはいけない。
そんな彼女の救いは、ラップミュージックだ。
薬屋の店員でインド系のジェリ、無口なギター弾きのバスタードと、パティはグループを組み、オーディションに挑む。

たった僅かな距離なのに、郊外の住人は
住んでいる町から出ようとしない。
1時間の旅でも、まるで海外旅行に行くのと同じくらいレアだ。
地元で働き、地元で結婚し、地元で生涯を終える。
そんな郊外の閉塞感、そしてそこに本当に住んでいそうな人々(美男美女は登場しない)、人生の反面教師にしかならないダメな大人達、そんな空気を吸いながら、パティは育ってきた。
このままだったら、いずれ酒びたりの毎日になるだろう。
しかし何かを諦めるには、23歳はまだ若すぎる

パティの夢は「スターになること」。
むちゃくちゃ漠然とした夢だ。しかし、それが精一杯なのだ。
そしてそれは母が果たせなかった夢でもあり、母が酒と男に逃避し、パティに辛く当たる理由でもある。
僕は、ラップミュージックはほとんど聞かないが、
本作は結構楽しめた。
「サタディナイトフィーバー」や「SRサイタマノラッパー」のような、都会はそこにあるのに届かない郊外の閉塞、
それを打破する(解放される)手段として音楽があり、
ジャンルに関係なく共感できるからだ。

脚本にご都合主義や、演出のベタさ加減とか洗練されてはいない部分はあるものの、初期作品やインディーズに通じる、初々しさがこの作品の中にはある。
また、ほぼ無名の俳優たちの熱量も高く、いい味を出している。
ラップもインド人が歌うとそこだけインド映画のサントラぽくなるなぁとか、やはりニュージャージーだとブルース・スプリングスティーンがかかるなとか、母親役の人がオジー・オズボーンに似ているなとか、細かく気になって書きたくなることは他にもあるが、長くなるので(笑)。
愛すべき小品だ。
★★★☆

by mahaera | 2018-04-20 13:05 | 映画のはなし | Comments(0)
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