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旅行・映画ライター前原利行の徒然日記

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最新映画レビュー『アイ,トーニャ 史上最大のスキャンダル』 ダメ人間たちによる悲喜劇だが愛おしい



GW中に上映している映画、大作もあるが僕が一番良かった映画は、実は「レディプレイヤー1」でも「インフィニティウオー」でもなく、「パティケイク$」と本作。
特に本作は、「好き」というだけでなく、
映画としての出来も非常に高い。

1994年に起きた女子フィギュアスケートの
「ナンシー・ケリガン襲撃事件」を、ある年齢以上の方なら覚えて覚えているだろう。
しかし、ほとんどの人はうろ覚えだろう。
映画でも語られているように、中にはライバルのトーニャが直接暴行したと思っている人もいるかもしれない。

本作は、その事件を核に、トーニャの半生を本人や元夫、
母親などの証言をもとに、そしてさらに本人たちの意見を
役者がカメラ目線で語ったり、最後には本人たちの
インタビュー映像を流したりと、面白い距離感でつづる悲喜劇だ。
監督は隠れた名作『ラース、とその彼女』クレイグ・ギレスビー
今回も、笑いと哀しみのブレンド感が絶妙
登場人物のあまりのゲスさに笑いながらも、
そうしか生きられなかった貧富によるアメリカの階級社会も感じる。

1970年、トーニャはポートランドの貧しい白人家庭の家に生まれる。
父親は母ラヴォナの4番目の夫だったが、
トーニャが幼いうちに家を出て行った。
トーニャは4歳でスケートを始め、激しい罵倒や虐待の中で
育ちながらも、その才能を開花させていく。
貧しいながらも母ラヴォナはトーニャを教室に通わせていたが、
それは貧乏から抜け出るためだった。
15歳の時、トーニャはジェフと出会い、やがて結婚。
ジェフもまた暴力を振るうダメ夫だった。
1991年にトーニャはアメリカ人で初めてトリプルアクセルに成功し、たちまち脚光を浴び、翌年、オリンピックに出場。
しかし、“育ち”の壁はなかなか越えられない。
彼女はアメリカ人が求める、洗練されたスポーツ選手ではなかった。
そして、1994年、選考会を前にライバルである
ナンシー・ケリガンが暴漢に襲われる。

トーニャもその母親も、夫も、とにかく出てくる人間がクズばかりで、笑える(そして本人にその自覚が全くない)。
「毒親」という言葉があるが、この母親はまさにその典型だ。
トーニャを言葉や暴力で支配するが、
娘は自分のおかげでスターになったと思っている。
強烈な印象を残すこの母親を演じるアリソン・ジャネイは、
本作でゴールデングローブ助演女優賞を受賞したが、当然だろう。
夫のジェフも典型的なホワイトトラッシュ根性が染みついている男で、
気が弱いくせに都合が悪くなると暴力を振るうDV男。
そして降られるとストーカー化する粘着男。
演じるのはウインターソルジャーことセバスチャン・スタン
しかしトーニャも暴力で対抗する。
トーニャも傲慢で、自己中心的だ。痛いバカップルだ。

そして、その3人に後半加わるのが、最も痛い男
ジェフの友人でトーニャのボディガードとなる、ショーン。
いい歳で親と同居しているニートだが、自称、国家の対テロ対策顧問を務めたことがあるスペシャリスト(実は一度だけ記事を寄稿したことがある程度)。
自分を百倍ぐらいに大きく評価し、彼に雇われた男によって
ナンシー・ケリガンは選考会会場で殴打されてしまう。
痛い。とっても痛い。

で、こうしたゲスな人々を見て笑ってはいるものの、彼らを少しも嫌いになれない。
むしろその破壊力に、すました社会が引っ掻き回されるのを「やれ!やれ!」と応援したくなる。
もうこんな環境で育ったら、こうなるでしょう。
彼らのしていることは本当にゲスだが、そんな底辺がないことにしている社会もどうなのと。
トーニャがスケート界から追放されるシーンの頃には、
どんなにゲスでもそこまでしなくてもという気持ちになっている。
彼女が唯一、人に誇れるものを奪っていいものなのかと。

実際のトーニャは、2000年代に入り、恋人に暴行して逮捕されたり、プロボクサーに転向したり、格闘家になったりもするなど、相変わらず波乱に満ちたイタい人ぶりを見せているが、必死に自分の人生を生きていることには変わりない。
もちろん、映画は映画で、実際とは違うようだが、
笑って楽しみながらも、いろいろ考えさせてくれる作品だ。
★★★★

追記
・主演のマーゴット・ロビーの顔がヴァン・ダムに似ているのが気になった

・フリートウッド・マック「ザ・チェンイン」、シカゴ「長い夜」などの往年のロックの選曲が、いちいちはまった

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by mahaera | 2018-05-12 12:17 | 映画のはなし | Comments(0)
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