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旅行・映画ライター前原利行の徒然日記

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マハエラ的名作映画館『恐怖の報酬・オリジナル完全版』印象が別物になったオリジナル版はすごい!


1978年に日本公開されたウィリアム・フリードキン監督作が、当時の日本公開版より30分長い2時間の全長版となってリバイバル上映されている。
これがすごい。
昔、劇場で見た時は、淡々と進んであっけなく終わり、
特に印象に残らない映画だったのだが、この全長版を見るとその突き放し方も含め1970年代的な作りに感心する。

これは1953年のフランス映画『恐怖の報酬』のリメイクで、当時「フレンチコネクション」「エクソシスト」と話題作を連発していたフリードキン作品として世界から大注目されたが、批評・興行共に大惨敗
北米以外では2時間を30分カットし、エンディングも変えたバージョンで公開。
日本版はそちらで、当時僕はこれを見て「いまいち」と思った。それを戻してのオリジナル版だが、そのせいもあり印象がかなり異なる。

編集版では、南米の吹き溜まりの村にいる男たちの描写からいきなり始まっていた。
そこに石油採掘現場での爆発のニュースが入り、
爆風を消すためのニトログリセリンをトラックで運ぶ運転手たちを集める。
ところが今回のオリジナル版を見ると、
その前に運転手たち4人の過去を描くシーンがある。
メキシコで標的を殺す殺し屋、
エルサレムのシナゴーグを爆破して追われるアラブ人テロリスト、
不正融資が発覚して逃亡したフランス人銀行家、
そして強盗の際に組織のボスの弟と知らずに傷つけて追われるようになったニュージャージーのギャング(ロイ・シャイダー)。
世界の各所で、国籍も言葉も異なる4人の男が、
逃亡するさまがたっぷり描かれているのだ。
なのでその4人が吹き溜まりの村にいる時点で、
運命から逃れようとしてあがいていることがわかるのだが、それが省略されていては、キャラにはのめり込めない。

とはいえ金が目当てで集まった男たちに、
友情が全く芽生えないのも70年代の殺伐とした感じ。
彼らは2人ずつ2台のトラックに分乗し、
ジャングルの中の道を進む。
トラックを正面から捉えた絵面は、
まるでマヤの彫刻に彫られた怪物のようでもある。
彼らはトラックに乗った時点で、
すでに運命に捉えられてしまったのだ。
プロダクションデザイナーは、『アラビアのロレンス』『ドクトル・ジバゴ』『華麗なるギャッツビー』などで知られるジョン・ボックス
トラックや橋のデザインがいいのも彼の功績か。

途中、彼らは何度も危機に直面する。
今にも崩れそうな崖の道などはふつうにスリリングだが、
やはりすごいのは吊り橋のシーンだろう。
下に川が流れる場所で、トラックをあれだけ傾けるのはすごい。
CGなき時代の実写ならではの迫力がそこにある。
あと、火災のシーンの炎とかも、実際にジャングルの中で爆発させているので、迫力あり。
今じゃ環境破壊とかでできないだろうなあ。
道を塞ぐ大木をニトロで爆破するくだりも緊張感漂う。

いつしかトラックの道行きは現実離れしていき、あの世への道行きとなる。ひとりひとり命を落としていっても、誰1人として共感できないキャラなので、無常感さえただよう。
使命を果たして村に帰ってきた男が踊るダンス。
しかし彼もまた、運命に囚われていることが、今回戻されたバッドエンドを予感させるラストシーンに現れている。
今の観客には、この突き放されすぎたエンディングはどう映るのだろう。しかしこの映画、画力が本当に強いな。
未見の方は、劇場で上映している間にぜひ、足を運んで欲しい。

サスペンスシーンでは音楽が止まるが、途中ではジャズやタンジェリンドリームのシンセ音楽が流れる。この音楽がなかなかいい。

日本語タイトルはオリジナルのフランス映画のタイトルの「恐怖の報酬」だが、英語版では原題は「Socerer(ソーサラー)」。これは「(悪い)魔術師」、そしてそれによる避けられない「運命」を表す。フリードキンは脚本執筆時にマイルス・ディヴィスのアルバム「ソーサラー」を聴いてインスピレーションを受けており、タイトルに使用したという。
★★★★


by mahaera | 2018-12-21 14:37 | 映画のはなし | Comments(0)
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