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旅行・映画ライター前原利行の徒然日記

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子供に教える世界史・番外編/映画で学ぶ世界史/『トロイ』(2004)

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●『トロイ』(2004)ヴォルフガング・ペーターゼン監督

世界史の中で都市としてのトロイアは実在しているが、トロイア戦争というと神話や伝説の中だ。

西欧文化の中では、前述したモーセの出エジプトぐらいポピュラーな話で、しかもほぼ同時代の出来事とされている。とにかく話がドラマチックだ。

さて、トロイア戦争関連は何度か映画になっている。

1956年のハリウッド映画『トロイのヘレン』とかあるが、今となるとやはり2004年のヴォルフガング・ペーターゼン監督による『トロイ』だろう。

のちに「ゲーム・オブ・スローンズ」で売れっ子になったデヴッド・ベニオフの脚本によるもので、監督のペーターゼンは『Uボート』『ネバーエンディング・ストーリー』など大作も得意。

主演は当時人気絶頂とも言えるブラッド・ピットによる3時間近い大作だ。

期待が高まり興行的には成功したが、批評家的には評判が良くなかった

そもそも戦争のきっかけが、三女神が「誰が一番美しいか」を決めるのに、トロイの王子パリスに審判を求めるところから始まる。

ホメロスの「イーリオス」にも神々がばんばん出てきて、ギリシア側とトロイ側、両方を応援する。

神話では人間と神が同等に語られるのだが、映画でそれをやったらファンタジーになる。

そこで映画では、神々の要素をバッサリ切った。

じゃないと『タイタンの戦い』みたいな中途半端な映画になってしまう。

それではリアルな歴史指向かというと、それも難しい。

何しろ戦争の原因が美女の取り合いというところで歴史としてはリアリティがないし、トロイの木馬も出さなきゃならない

なので人間ドラマを中心に、物語を再構成したのは当然の結果で、脚本は間違っていない。

塩野七生はじめ、知識人が「神話と違う」というのはポイントがずれている。

これが歴史上の事件ならあまりの脚色は問題だが、そもそも原作がフィクションなのだ。


映画のストーリーはこうだ。トロイの王子パリス(オーランド・ブルーム)は、スパルタの王妃ヘレン(ダイアン・クルーガー)と恋に落ち、トロイへと連れ去ってしまう。

兄のヘクトル(エリック・バナ)は怒るが、結局はトロイ王で父のプリアモス(ピーター・オトゥール)とともにヘレンを受け入れることに。しかし妻を取られたスパルタ王メラオネスは激怒し、兄のミケーネ王アガメムノンに助けを求める。かねてからトロイを狙っていたアガメムノンは、ギリシア連合軍を率いて海を渡る。英雄アキレウス(ブラッド・ピット)は、アガメムノンが嫌いだが、親友のオデュッセウス(ショーン・ビーン)に頼まれて参戦。しかし戦争で得た巫女プリセイスの処遇をめぐって、アガメムノンと対立して戦線を離脱してしまう。

いろいろあって、アキレウスを欠いたギリシア軍は劣勢になるが、アキレウスの親友のパトロクロスが戦死したことから、アキレウスは参戦し敵の王子ヘクトルを打ち取る

しかしアキレウスの怒りは収まらず、ヘクトルの死体を戦車で引きずり回し辱める。

その夜、アキレウスのテントをトロイア王プリアモスが密かに訪れ、息子の亡骸を返してくれと涙ながらに訴える。アキレウスは自分のしたことを後悔し、遺骸を返す。

最後にオデュッセウスの計略で、大きな木馬を作ってトロイア城への侵入が成功。

ギリシア軍は城内に入り、略奪と虐殺が始まる。アガメムノンはプリアモス王を殺すが、巫女プリセイスまで殺そうとしてアキレウスに殺される。しかしアキレウスも、パリスに殺されてしまう。パリスもまた炎に身を投じ、プリセイスやヘレンは脱出に成功する。


神話と違うのは、一番重要な「アキレウスの死」。

神話ではアキレウスはトロイア落城前に死んでいるが、主役がクライマックス前に死んでは映画にならないので、アキレウスの死はエンデンィグまで持ち越されている。

また、神話ではアキレウスは愛していたパトロクロスを殺されて怒るが、映画ではそれは友情にして、愛を注ぐのは女性のプリセイスだ。

これもそうしないと、多くの観客が置いてきぼりになるから。また中盤の決闘で、メラオネスがヘクトルに殺されてしまうが、これも映画の創作。神が戦いに干渉するシーンもすべて別な理由に置き換えられている。

この映画が作られた頃は、ちょうど『ロード・オブ・ザ・リング』などでCG技術が発達し、背景の軍勢をいくらでも増やせ始めた時代。

ギリシアの軍船が大挙して海を渡る姿は壮観

大人数による合戦シーンも、迫力がある。ドラマとしても、盛り上がるようによくできていると思う。

面白といといえば面白い。

しかし、格調高い名作かと言われると、そうでもない。各俳優陣は頑張ってはいると思うが、演出のせいなのかキャラが書き割り的なのが残念。

映画の中で悪役と言っていいアガメムノン兄弟はゲスすぎて、なぜ王として人望があるのかさっぱりわからない。

トロイアの王子パリスも魅力が伝わらないから、ただのヘタレにしか見えず、見ていてイライラする。なんとなく、薄っぺらいのだ。あと女優陣も、メインの男たちの戦いの動機付け以上のものではない。テレビドラマシリーズならいいと思うのだが、映画としては深みがないのだ。

とはいえ有名な話だから、「あのシーンがない!」と不満が出ないように、うまくまとめたと思う。劇場公開版は163分だが、ブルーレイ化されるときに33分足した長尺版もでた(こちらは未見)。より戦争の残酷度が増しているらしい。
ということで、「イーリアス」を読んだことがないよという人、ギリシア神話のトロイアの話も木馬しか知らないという人は、3時間弱かかるがアウトラインはこの映画で理解できるはず。「天地創造」や「十戒」のような昔の作品ではないので、かったるくもなく、楽しめると思う。中古DVDなら500円以下で買えるし。


by mahaera | 2019-05-09 10:40 | 子供に教える世界史・古代編 | Comments(0)
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