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旅行・映画ライター前原利行の徒然日記

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新作映画レビュー『SHADOW 影武者』水墨画の世界とギリシア悲劇のミックスはアートの領域


 あまり話題にはなっていないチャン・イーモウ監督の新作
近くのシネコンでは昨日が最終日だというので、慌てて19:20の最終上映へ。客は僕以外はOLさんがひとり。
しかし「映画を映画館で観た」という充実感に浸ることができた。

 時は三国志の時代。弱小国「沛」は強国の隣国の炎国に領土を奪われて20年。
休戦協定を結んで今は平和だったが、軍を束ねる都督(軍司令官)は領土奪還を目指し、敵の将軍に手合わせを申し入れる。
沛王は怒るが、都督は実は影武者だった。
ふたりの都督の間で心が揺れる妻。
やがて、権謀術数の駆け引きが、意外な展開に。

 ここのところ作品の力が低下してきた上に、ハリウッドで撮った『グレート・ウォール』が駄作と言われても仕方がない作品だっただけに、期待薄だったイーモウ作品。
しかし久しぶりに撮った武侠映画の本作は『HERO英雄』や『LOVERS』に引けを取らない美学に満ちた作品になった。

 誰もが目を奪われるのが、水墨画、山水画を再現したような画面の力だ
常に雨が降り続け(映画の中で晴れはない)、色が消えたような世界。
衣装、そして主な舞台となる宮殿の広間に下がる書、墨色(黒とも違う)の濃淡が全編を覆う。
そこに流れる琴の音は、まさにこの世界観にピッタリで、現代美術館で流れるような似たようなショートムービーより、ハイクオリティ。そう、アートの領域なのだ。

 映画は始まった時点で、過去の因縁を抱えたまま動き出す。
回想シーンはなく、特に前半は宮殿の広間と都督の隠れ家の2か所で話は進行し、セリフの応酬で進めるのは舞台劇のよう。
そうギリシア悲劇だ。
主人公は、都督の影武者なのだが、彼は都督と王、沛と炎という二つの国の間で動く駒にすぎない。
裏切りと騙し合いはやがて、悲劇という着地点へ向かって進んでいく。

 いろいろスッキリとはしない着地点である。
自分がその境遇なら、最後はどうするのか。
また、「そんなうまくいくはずがない」と突っ込む方もいるだろうが、そんなリアルさはこの映画は追求していない。
様式美を楽しむ映画なのだから。
ということで、絵力のある画面とそれを支えるいい音響の中に浸るだけで、満足の2時間だった。

★★★★


by mahaera | 2019-09-21 10:25 | 映画のはなし | Comments(0)
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