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旅行・映画ライター前原利行の徒然日記

mahaera.exblog.jp

2019年 03月 16日 ( 1 )

マエハラ的名画館『大統領の陰謀』午前十時の映画祭にて公開中

ウォーターゲート事件を追うワシントンポストの2人の記者の姿を描く。アカデミー賞4部門受賞。



1976年

アラン・J・パクラ監督

ロバート・レッドフォード、ダスティン・ホフマン、ジェイソン・ロバーツ


この映画を観るのはおそらく40年ぶり。
当時、映画少年だった高校生の僕は、なんだか勉強をしに行ったような気分で、面白くなかったことだけは覚えている。
前評判はよく、新聞記者が悪事を暴く、痛快なサスペンスを期待していったのだが、映画の大半は記者が電話をしているかインタビューをしているか、調べているだけ。
銃撃も爆発もなければ、サスペンスもなし。悪人も出ないし、何よりも悪者がやられるカタルシスがない。
これからってところで映画は終わってしまうのだ。


1972年、ワシントンDCのウォーターゲートビルにある民主党の本部で、5人の不法侵入者が逮捕される。
ワシントンポストの新米記者ボブ・ウッドワード(ロバート・レッドフォード)は、逮捕されたばかりで電話もできないのに、容疑者たちに立派な弁護士がついていること、元CIAがいることに違和感を抱く。
また、多額の現金と盗聴器器を持っていたことから、単なる泥棒ではなく、誰かに雇われているらしい。
ウッドワードは、先輩記者のカール・バーンスタイン(ダスティン・ホフマン)とコンビを組んで調査に乗り出すが、糸口がつかめない。
内部情報提供者のディープ・スロートは、「金を追え」とだけしか言わない。
しかし、犯人への報酬が、ニクソン大統領の再選委員会から出ていたことをつかむ。


40年ぶりに見た本作は、こちらが大人になったせいか実に面白かった。
映画は2人の記者の視点から離れることはないので、事件に関わったおよそ20人近い人物名が飛び交い、その関係を頭で整理するだけでも精一杯。
しかし、これはそもそも事件の知識がなければ無理で、そのあたりの混乱も狙った脚本だ。
最初は事件の全容がつかめず、まるで霧の中を歩いているような気分だが、それは主人公たちと同じ気分にするため。
ようやく証言が取れたと思うと、オフレコの話ばかりで証拠にはならない。
怪しいだけでは記事にはできない。
編集主幹(ジェイソン・ロバーツ、本作でアカデミー助演男優賞受賞)から、「証拠を固めろ」とゲキが飛ぶ。

久しぶりに見てあらためて思ったのが、インターネットのない時代は大変だなあということ。
とにかく記者は電話をしまくり、相手の話を聞き出す。
そして資料を請求し、年間で名前を調べ、電話をしたり、相手の家に突撃取材をする。
二週間何の成果もなかったりと、とにかく見てて大変なのだ。

2時間を超える映画だが、描かれたのはウォーターゲート事件が起きてから最初の4か月。
映画は2人の取材がまだ成果を上げず、ニクソンが再選されたところで終わる。
「え?ここで終わり? 事件はどうなの」と当時の人も思ったと思う。
「ウォーターゲート事件」は、再選を目指すニクソン大統領が、ライバルの民主党本部に盗聴器を仕掛けた事件だが、当初、世間の関心は薄かった。
ニクソンは中国訪問やベトナムからの撤退と成果を上げており、国民の人気も高かった。
何もしないでも再選は確実だったのに、なぜそんなことをするか。
答えは「盗聴マニア」だったから。
この事件が裁判で解明されるしたがって、ニクソンの人気は落ち、任期途中で大統領を辞めた唯一のアメリカ大統領になった。
盗聴や謀議はそれまでもずっとしていたことがわかれば、一気に信用はなくなる。
ライバルの民主党がスキャンダルで自滅して行ったのも、実はニクソンが盗聴してマスコミにリークしたり、あるいはでっちあげで風評被害を作り上げていたのだ。
まあ、いまも与党がネットニュースのコメント欄でやらせを使って自分たちをヨイショしたり、他党を批判したりというのは、やってることだけど。


さて、映画はこの事件をちっとも解明しない。
エンディングは唐突にやってくる。
まだ事件の入り口で、世間の関心も低く、ニクソンが゜再選される。
そのニュースがテレビから流れる脇で、2人の記者は黙々とタイプライターに向かっている。
そのあと、テロップで、その数年後の裁判で多くの関係者が逮捕され、ニクソンが辞任したことが、音楽もなく淡々とつづられる。
少年の頃は、このカタルシスのない終わり方に「とほほ」と思ったが、こちらも大人になり、見方は変わった。
この映画は、ウォーターゲート事件や大統領の陰謀の映画ではなく、ジャーナリズムの映画であると。
だから、この地味だが熱意がなければできない仕事を、こつこつ積み上げているところを描いて終わっているのだ。
結構この終わり方、今見ると静かだが、その後のことを知ると強いドラマを感じる。
何事も地道な積み重ねが大事。★★★★


by mahaera | 2019-03-16 11:19 | 映画のはなし | Comments(0)