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旅行・映画ライター前原利行の徒然日記

mahaera.exblog.jp

2019年 04月 02日 ( 1 )

最新映画レビュー『運び屋』 人生の終盤を迎えた男が、顧みなかった家族への贖罪を果たそうとする


クリント・イーストウッド監督・主演 公開中

“最新”と書きながら見そびれていたので、終了前にとようやくレイトで鑑賞。
ちなみにこの予告編と実際の映画は、印象がかなり異なる。

主なストーリーはこうだ。
かつて花の品評会で何度も賞を受賞するなど、周囲の人々から称賛を浴びていたアール。
しかし90歳になろうとする今は、仕事は行き詰まり、また大事にしていなかった家族にも見捨てられていた。
そんな彼が、麻薬の運び屋を引き受け、得た大金にアールは次第に運び屋の仕事にのめり込んでいく。
一方、麻薬の流れを追っている捜査官たちの手も、アールに近づいていた。。。

自分の父親はイーストウッドと同じ歳だ。
なので僕は昔から、父親とイーストウッドを重ね合わせることがあった。
父親が何歳の時は、イーストウッドで言えば何の作品だとか。
そんな父親も今では腰が曲がり、手足は細くなり、よく怪我をして入退院を繰り返すようになった。
似ているのはシワの多さぐらいだ。
そんなうちのイーストウッドは、家庭を顧みない人ではなかったが、母や我々子供達の中、正月の親戚に囲まれている姿は、どこか居心地が悪そうで、すぐに一人きりになりたがった。
この映画のイーストウッドは父とは逆で、外交的で人にジョークを言ったり、外面が非常にいい。
その分、家庭をまったく顧みず、娘の結婚式にすら仕事を口実に出席しない。
そんな彼が仕事を失って初めて家族の温もりを求めるが、当然ながら元妻も娘も彼の仕打ちを覚えていて、許さない。
愚かだが自分の支えだった仕事を失って、初めて家族の大切さを知るのだ。

そんな彼が偶然、麻薬の運び屋の仕事を始める。
大金が転がり込んできて、彼は今までの罪滅ぼしのように、そのお金で家族や周囲の人を助ける。
しかし仕事に縛られていけば、いつの間にか前と同じ。
家族よりも仕事を優先するようになっていく。

「家庭には俺の居場所がなかった」と病床の元妻を訪ねた主人公アールは言う。
仕事場ではチヤホヤされ、称賛を受けるが、家では何もできない。
週末、家にいても居場所がないから、口実をつけてゴルフに行く日本のサラリーマンと同じだ。

本作は、2度の結婚の他に多くの愛人がいて(5人の女性との間に7人の子がいるという)、妻や離婚を期待した愛人を傷つけ、子供の成長期に仕事で家庭を顧みなかったイーストウッドの懺悔の映画だ。
老境に達し、自分の残り時間が少なくなってから家族の温かみを求める主人公は、イーストウッド本人の投影だ。
父親との確執がある娘役に、本当の自分の娘であるアリソンを配役しているのも、それが関係しているのだろう。

若いうちなら人生をやり直すことができる。しかし90歳なら?
「時間は金で買えない」と主人公アールは、元妻に言う。
時間があるときは、そんなことは少しも考えなかった愚かな男。
しかし今すぐだってやり直すことができると、元妻は諭す。
すでにそこにいることが、やり直している証拠なのだ。
映画の中でイーストウッドは、元妻や娘と和解し、贖罪を果たす。
しかし実生活ではどうなのだろうと考えてしまう。
かつて暴力で悪党を倒す映画に多く出演したイーストウッドだが、今は「暴力による解決」を否定する映画を撮り続けている。
本作もそんな彼の贖罪の映画の一本なのかもしれない。
★★★★


by mahaera | 2019-04-02 10:09 | 映画のはなし | Comments(0)