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旅行・映画ライター前原利行の徒然日記

mahaera.exblog.jp

2019年 04月 13日 ( 1 )

マハエラ的名画館『未知との遭遇 ファイナル・カット版』 今となっては楽観的な宇宙人感


午前十時の映画祭ファイナルで上映中
1978年3月、高校生だった僕は期待に胸をときめかせながら日比谷の有楽座へ向かった。
そこで観た映画は、今までの映画では体験したことがない、圧倒的な映像だった。
ネットどころか家庭用ビデオもない時代、僕がこの映画を追体験できるのはサウンドトラック版しかなく、しばらく家でそれを毎日聴いて、頭の中で追体験をしていた。

スティーブン・スピルバーグの作品の中で一番好きという人も多いこの作品、アメリカでは前年の1977年11月公開で大ヒットしていたが、ネットもない時代だし、当時から公開前の情報制限をしていたスピルバーグなので、どんな映画かさっぱりわからずにいた。
UFOが飛来して宇宙人と出遭う、それだけで話になるの? 
製作当時スピルバーグは30歳
75年の『JAWSジョーズ』で世界的な大ヒットを記録した時はまだ29歳だった。
その彼の新作で、しかもSF映画なので期待が膨れ上がる。
派手にお金をかけたパニック映画がヒットはしていたが、演出や俳優は古臭い中、スピルバーグ映画は全てが新鮮だった。
実はアメリカでは、この『未知との遭遇』より、『スター・ウォーズ』の公開の方が先だった(日本では逆になる)。
なので、日本では新時代の映像体験は『未知との遭遇』が先で、よりインパクトが強かったとも言える。


『未知との遭遇』を見たことがない人はいないとは思うが、ざっとストーリーを。
メキシコ、ゴビ砂漠、インドのダラムサラ、地球のあちこちでUFOによる不思議な事件が起きていた。
そんな中、電気技師のロイ(リチャード・ドレイファス)は停電事故を調べるために出かけた先でUFOに遭遇する。
以降、彼の頭の中はあるイメージが浮かび続ける。
一方、政府はフランス人の科学者ラコーム(フランソワ・トリュフォー)を中心に、宇宙人と接触する計画を進めていた。
その場所が、ワイオミング州にあるデビルズタワーだ。
ロイも頭の中に浮かんだイメージがそこであることを知りやってくる。
やがて、巨大なマザーシップが現れ、中から異星人が姿をあらわす。。。


ややこしいが本作には3つのバージョンがある。
まずは135分のオリジナル版、1980年の132分の特別編、138分のファイナルカット(今回のディレクターズカット版)だ。
見終わった後の印象の大きな違いはないのだが、特別編では予算の関係で当初見送られたゴビ砂漠のシーンや宇宙船の内部のシーンが追加され、その分、ロイの家族ドラマ部分が細かくカットされて短くなっている。
今回上映のディレクターズカット版は、宇宙船内部のシーンがなくなり、ドラマ部分が復活。
なので一部の方には、ロイが泥でデビルズタワーを作るシーンなどが増えたように見えるはず。


今、親になった目線で見ると、主人公のロイはひどい男だ
結果的に妻や子供達を捨てて宇宙船に乗り込むのだから。
しかし30歳のスピルバーグ、そして高校生だった僕には、全く違和感がなかった。
しかしのちに家庭を持ったスピルバーグは、本作のロイに対して批判的になっている。
「あのころ、僕はひどい男を主人公にしたよ」ってね。
ロイは地球を出ることになんの未練もなく、宇宙船に乗り込む前に家族を思い出したりもしない。

スピルバーグはユダヤ系だが、主人公ロイもおそらくユダヤ系で、演じるリチャード・ドレイファスももちろんユダヤ系。
ロイの家族が家で見ている映画が『十戒』だから、この『未知との遭遇』は旧約聖書の「出エジプト記」になぞらえているのは明白。
つまり、ロイは約束の地へと向かうのだ。
そう思えば、この映画がSFでありながら、クライマックスが宗教的な至福感のようでもあるのも納得できる。
この時代のアメリカは、様々なオカルトを含む神秘主義思想が流行っていた。
キリストは宇宙人だったとか、UFOは物理的な物体ではなくエネルギーだとか、ピラミッドパワーや滝のエネギーとか、ユリ・ゲラーとか、横尾忠則も全盛期。
映画のラストは、物語としては破綻している。
選ばれたものが宇宙に行って終わり。

だからどうしただが、それでも皆納得していたのは、カタルシスが得られるからだろう。

ひどいことが世界各地で起きていたにせよ、ある意味、人間は1977年の頃は楽観的だったと思う。
宇宙人は無垢な子供で、人間を導く存在として描いていた。
こんな映画は、おそらく二度とは作られないだろうなあ。
あ、若い人へ行っておくけど、CGはまだ使われていない時代の映画です(笑)。

是非、スクリーンで。

★★★★☆


by mahaera | 2019-04-13 09:34 | 映画のはなし | Comments(0)