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旅行・映画ライター前原利行の徒然日記

mahaera.exblog.jp

2019年 04月 17日 ( 1 )

最新映画レビュー『グリーンブック』実話を基にしたウェルメイドな人種を超えた友情物語


本年度アカデミー作品賞ほか助演男優賞(マハラーシャ・アリ)、脚本賞など3部門受賞。定評の高い作品で、日本でも高年齢層を中心に『キャプテン・マーベル』を上回るスマッシュヒット。
公開から2か月余り立っているが、ようやく観た。実話を基にした映画だ。

1962年のニューヨーク。ナイトクラブ“コパカバーナ”で用心棒をしているトニー・ヴァレロンガは、新たな仕事ととして、アフリカ系アメリカ人のドン・シャーリーのディープサウスを回るツアーの運転手として働くことになる。
トニーが渡されたのは、南部で黒人が泊まるホテルやレストランなどを記した「グリーンブック」と呼ばれるガイドブックだった。
旅が始まると、対照的なトニーとドンはすぐに衝突する。
大家族で育ったイタリア系のトニーは粗野で、マフィアともつながりがある男。
一方、ドンはクラシックを演奏し、洗練された言葉遣いや振る舞いをした。
しかしトニーは舞台でのドンを見て、その才能に感銘を受ける。一方で、舞台外でドンが受ける差別的な振る舞いにトニーは動揺する。

映画を見るまで知らなかったのだが、2人とも実在の人物で、ドン・シャーリーは当時のアメリカでは人気のクラシック・ジャズ・ポピュラー、ピアニストだったようだ。
今の日本の“本物の”ジャズ史観では、マイルスやコルトレーンといった黒人の小難しいジャズの巨人ばかりが取り上げられるが、当時はセールス的にもイージーリスニング的な白人ジャズが売れていた(名盤も多い)。
ドン・シャーリーは黒人だが、演奏には“クロさ”はほとんどなく、クラシック的な要素が強かった。
もともとクラシックピアニストを目指していたが、クラシック界には黒人の需要がなく、ポピュラー音楽にシフトしていったようだ。
ジャズ曲も演奏しているが、ジャズらしいビートはなく、クラシックと言うよりイージーリスニング風に演奏している。
一方、トニー・ヴァレロンガは、70年代以降は「トニー・リップ」として、数々の映画やドラマにちょい役として出ている。

粗野な白人と洗練された黒人という組み合わせが旅するのは、公民権運動に揺れるアメリカ南部だ。
物語は1962年のクリスマスイブまでの8週間の旅。
まだワシントン大行進も起きていないし、ケネディも暗殺されていない。ちょうどキューバ危機の後ぐらいか。
車のラジオから流れてくるチャック・ベリーやアレサ・フランクリンをドンが知らないことに驚くトニー。当時の白人は黒人はこうした音楽を聴く者として捉えていたことだけでなく、ドンが一般的な黒人から浮いていたことを示すシーンだ。ポピュラー音楽的にはモダンジャズ全盛期。また初期のロックンロールやR&Bの巨人たちも活躍していた頃だ。

最初は黒人に偏見を持つ男として描かれてたトニーだが、彼自身もイタリア系ということでアングロサクソンの中では見下されている。
旅を通じてドンがなぜ孤独そうなのか、何の問題を抱えているのかを知っていくことになる。
それは単に黒人というだけではない。その中でもドンはさらにマイノリティなのだ。

多分、誰が見ても感動できるクオリティの高い物語作りだが、『ROMA/ローマ』のようや野心やキレはない。
監督がバカ映画(『メリーに首ったけ』『ジム・キャリーはMr.ダマー』)ばかり撮ってきたファレリー兄弟のピーター・ファレリーというのが意外だが、しっかりした作品だ。

あと、本作がスパイク・リーなどに批判を受けているのもわからなくはない。
主人公が「黒人を救う善き白人」として誇張されているきらいはなくはない。共に欠点がある人間だが、世の受け止め方は違うからだ。

ともあれ、別人かと見えるほど体重を増量したヴィゴ・モーテンセン、複雑な表情を見せるマハラーシャ・アリの名演もあって見ごたえのある作品になっていることはまちがいない。
優等生だけど。★★★☆


by mahaera | 2019-04-17 22:06 | 映画のはなし | Comments(0)